35話 運命の出会い作戦
私がキャロルの専属メイドをしていた頃、キャロルが意外と占いが好きなのだと知った。
それなら、いつか、占い好きを利用できる日が来るかもしれないと思って、メイド長アンナと共謀したのだ。
アンナはめったに笑わない。
いつもスンとした顔でぼそりと呟く。
だけど、仕事ができるから、妙にその呟きに説得力がある。
ある日、アンナはスンとした顔でキャロルに言った。
「王女様、本日は足元に凶と出ております。お気をつけくださいませ」
キャロルは、その忠告をすっかり忘れていた。
コツコツと大きな音を立てて勢いよく歩いた拍子に、ヒールがポキッと折れた。
私がちょっと細工したから折れたんだけど、転んだキャロルは、アンナの忠告を無視したことを悔やんでいた。
また別の日、アンナは言った。
「王女様、本日は頭上に凶と出ております。お気をつけくださいませ」
この日は曇天、雨が降るかもしれないと思ったキャロルは、忠告に従い傘をさして庭を歩いた。
従者として一緒に歩いていた私は、後ろから傘に向けて毛虫を放り投げた。
毒はないけど、見るからに毒々しい色をしている。
「キャッ、今、何か上から落ちたんじゃない? 傘を見てくれる?」
キャロルは、慌てて私に傘を向けた。
「王女様、木から毛虫が落ちて来たようです。この毛虫、猛毒ですよ」
私は傘に着いた毛虫を指さした。
「まあ、メイド長の忠告を聞いて良かったわ。傘がなかったら、頭の上に落ちてたわよね」
私が専属メイドをしている間に、何度かこういうことを繰り返したお陰で、キャロルは、すっかりアンナを信じるようになっていた。
さあ、運命の出会いは、もうすぐだ。
ベリードに変装した私とキャロルがすれ違うタイミングで、ジェニファが猫を放した。
猫は道端に隠した肉の匂いを嗅ぎつけ、猛ダッシュで突進してくる。
「キャアー」
足元を通り過ぎた猫に驚き、キャロルが悲鳴を上げてぐらりと体勢を崩したところを、私は瞬時に抱きかかえて救った。
「お嬢さん、大丈夫ですか? おケガはありませんか?」
日頃、鍛えている私にとって、女性を一人抱きかかえることなど容易いことなのである。
抱きかかえた拍子に私のサラサラの金髪はキラキラと輝き、青い海に似た瞳はキャロルを映した。
「あ、あの……、あ、ありがとうございます」
キャロルの頬が、ぽっと赤くなった。
よし、成功! 今日はここまで。
「それは良かった。では、僕は失礼します」
私は名前を告げずにその場を去った。
私の後ろ姿を、ポーッと見つめるキャロルの視線を感じつつ……。
その後、私は天井裏からキャロルを監視した。
「ああ、お名前を聞いておけば良かったわ。あの身のこなしと服装から考えて、きっと上位貴族よね。でも、見たことのない顔だった。いったい誰なのかしら?」
キャロルは運命の出会いをしたベリードに、もう一度会いたいと思っている。
運命の出会い作戦その1は、ものの見事に成功に終わった。
次は運命の出会い作戦その2。
キャロルは流行の芝居を見たくて予約をしている。
本来ならば婚約者のアスラス様と行くべきなのだろうが、アスラス様に公務を押し付けて、一人で見に行くつもりなのだ。
まあ、私としては、アスラス様と一緒に行動してほしくはないから嬉しいのだけれど、それでもやっぱり、アスラス様が気の毒だと思う。
私がベリードに変装する日は、休みをもらわなくてはならない。
だから、アスラス様には、私の父の体調不良を理由に、時々お休みをいただくことをお許しいただいている。
私の代わりのメイドは、年配の婦人にお願いしているから心配ない。
私はベリードに変装して劇場に向かった。




