32話 救出
「それにしても、よく眠ってるな」
「それだけ、薬がよく効いているんだろう」
「だけど、兄貴、そいつは本当にこの女を助けに来るのか? 身分の低いメイドだろ? そんな女のために?」
「そんなことは俺たちには関係ない。言われたことをするだけだ。まあ、依頼人が来るって言ってるんだから、来るんだろう」
「だけどまあ、よく考えたもんだね。メイドと貴族の心中事件なんて……、笑っちゃうぜ」
メイドと貴族の心中事件?
これって、私とアスラス様?
そうか……、殺人事件にするんじゃなくて、心中事件にするつもりなんだ……。
キャロル様が証言すれば、好きなように捏造できるもの。
だけど、アスラス様は私を救いになんて来ないわよね。
こいつらも言ってたけど、私は、身分の低いただのメイド。
アスラス様が助けに来るような義理もなければ恩もない。
ジェニファみたいに、剣術に自信がある人ならともかく、アスラス様の剣術は人並み程度、もしくはそれ以下かも……。
身を守る程度の剣術は身に付けたって言ってたけど、その程度だと、おそらく、こいつらには負ける。
だから、アスラス様、絶対に来ないで。
私は祈りながら、床の冷たさを肌に感じていた。
コンコンコン
ドアをノックする音が聞こえた。
「おい、来たようだぞ」
男の声に私は目を開け、ドアに注目する。
ドアが開き、アスラス様が入って来た。
ど、どうして、私なんかを助けに来るのよ?
ああ、お願い、自分の命を粗末にしないで……。
祈るような気持ちでアスラス様を見たら、彼と目が合った。
「アンケンバンドカロ!」
突如、アスラス様が大声で叫んだ。
「な、なんだこいつ、気でも狂ったのか?」
男たちは呆れたように言ったが、私は、この言葉の意味を知っている。
私はぎゅっと目を閉じ、手で顔を覆った。
ドン!
何かが床にぶつかる音がしたと同時に、きな臭い匂いが鼻についた。
「ギャーッ!」
「目、目が……」
男たちの叫び声が、小屋の中に響いた。
「メリー、今のは閃光弾だ。今のうちに早く逃げよう」
アスラス様は私の手を取り立たせてくれたから、私もそれまでに緩めていた縄をほどいてパサリと床に落とした。
「これをつけて」
アスラス様は、私に目と鼻を塞ぐ変なマスクを渡したので急いでつけたら、アスラス様も同じマスクをつけた。
「次はこれだ!」
アスラス様がドンと床に爆弾を投げつけたら、今度は白い煙がモクモクと湧き上がり、瞬く間に小屋に充満した。
「な、な、なんだ?涙が止まらない。ハ、ハ、ハックショーン」
「く、く、くしゃみが……、ハックショーン」
男二人は、白煙の中で涙とくしゃみが止まらない。
私はアスラス様に手を引かれ、小屋から外に出た。
アスラス様が乗って来た馬が外につながれていて、アスラス様は、私を馬に乗せてくれた後、私の後ろに乗って手綱を握った。
「落ちないように、ホーンをしっかりつかんでね」
「は、はい」
私は鞍についているホーンを握りしめたが、アスラス様の腕の中にすっぽりと納まってしまったみたいになって、ドギマギしてしまう。
だけど、アスラス様は冷静で、顔色一つ変えずに馬を操り、王城に向かって駆けた。
「アスラス様、助けていただいてありがとうございます」
「助けてもらったのは僕の方だよ。君を巻き込んでしまったようだ。本当にすまない」
アスラス様は、まるで自分のせいだと言わんばかりに謝罪した。




