22話 ケントルム
私はラディーを送り出した後、婦人会の集まりの準備をして、時間になると皆を迎えた。
お茶とお菓子でもてなし、それぞれの情報交換を終えて、婦人会はお開きになった。
昼食後は、届いた手紙を読み、返事が必要なものには返事をしたため、使用人に届けるように伝えた。
本日の予定が終わり、私はラディーの帰りを待ったが、夕方になっても、ラディーは帰ってこなかった。
少しぐらい遅くなることだってあるだろうと、軽い気持ちで待っていたが、夕食の時間を過ぎても、ラディーは帰ってこなかった。
心配になった私は、使用人をケントルムに行かせた。
もしかしたら、遅くなったために、兄の屋敷で泊っているのかもしれないから、必ず兄に会ってくるようにと伝えた。
私は帰ってきたらすぐに顔が見られるようにと、一階のリビングでラディーの帰りを待った。
だけど、結局、一睡もできずに朝を迎えた。
昼になり、ケントルムに行かせた使用人が帰って来たので、私は急いで外に出た。
しかし、彼は、ラディーと一緒ではなく、ラディーが乗った馬だけを連れて帰って来たのだ。
「ラディーはどうしたの?」
「それが、わからないのです。本屋で薬草学の本を三冊買ったことはわかったのですが、ケントルムのお屋敷には来ていなかったそうです。ラディー様が乗っていた馬は、菓子屋近くの馬繋場につながれておりましたが、菓子屋にはラディー様らしき人物は来ていないと言われました。ただ……、ラディー様かどうかわからないのですが、ちょっとした事故があったらしいのです」
「じ、事故ですって?」
「貴族の馬車にひかれそうになった子どもを、助けた男がいたそうです。ですが、その男はその貴族の馬車に乗って、どこかへ行ってしまったとか……」
「き、貴族の馬車に……?」
心臓の鼓動がガンガンと身体中に響いた。
頭がくらくらする。
目の前が真っ暗になるってこういうこと?
私は立っていられなくなって、その場にふらりとしゃがみこんでしまった。
もう、嫌な予感しかしなかった……。
「痛い!」
僕は小さな男の子を抱いて、道端に転がっていた。
どうやら頭を強く打ったようで、頭が割れたかと思うほど痛かった。
見ず知らずの女性が泣きながら駆けて来て、僕に礼を言う。
「ありがとうございます。息子を助けていただいて、本当にありがとうございます。このご恩をお返ししたいのですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
ああ、僕はこの子を助けたのだな……。
抱いていた子どもは、ほっとしたのか、大声で泣き出した。
「お母さん、ウエーン、ウエーン……」
僕は腕をほどき、男の子を母親に返して立ち上がろうとしたが、ふらついてしまって立ち上がることができなかった。
その場で座り込み、頭を押さえながら自分の名前を言おうとした。
「僕の名前は……? あれ? 僕の名前は……」
何故か一瞬思い出せなかったけど、すぐに思い出した。
「僕の名前はアスラス・メイズです。お礼なんていいですよ。って、ここはどこですか?」
周りを見渡すと、見たことのない街並みだった。
王都のように賑やかな通りではあるが、見たことのない店の名前ばかりで、ここがどこだかわからなかった。
「ここはケントルムですよ。ロウタス侯爵領の領都です」
「ロウタス侯爵領?」
僕は、一瞬耳を疑った。
ロウタス侯爵領と言えば、ヴェリタ王国の北部にあり、王都とはずいぶんと遠く離れた地である。
何故、僕はこんなところにいるのだろう?
僕が婦人と話していると、誰かが僕の名前を呼んだ。
「アスラス、君は、アスラスじゃないか?」




