20話 父の訪問
「お父様、遠路はるばる、ようこそおいでくださいました」
「お義父様、初めてお目にかかります。リリアの夫、ラディーです。どうぞよろしくお願い申し上げます」
私は美しいカーテシーで、ラディーは洗練されたボウ・アンド・スクレープで、到着したばかりの父に挨拶をした。
「ああ、そなたは記憶を失くしたのであったな。リリアの父、マシュー・ロウタスだ。早速だが、すぐに話がしたい。応接室に行こう」
私と同じ銀色の髪と金色の瞳を持つ父は、厳しい目で、私たちを見た。
めったに笑うことがない父の視線は、いつも厳しく睨まれているようで、私は緊張し、背筋がピンと伸びた。
私たちは応接室に移動し、テーブルを挟んで父と向かい合って座った。
「ステイクから、報告は受けている。混凝土を使った護岸工事は優れた技術だそうだな」
「はい。お褒めに預かり光栄です。今では技術集団も大きくなり、他領からの注文を受けるほどになりました」
「それは良い。そなたの技術は、我がロウタス侯爵家の財産になる。それから、領地民に対する配慮も、なかなかのものだと聞いている。ここに来る前に領民に話を聞いてみたが、そなたのことを慕っているようであった」
「そのように言っていただけて、誠にありがとうございます。これもすべて、私のような平民で、しかも天涯孤独の身の上であるにも関わらず、ご息女の伴侶となることを許していただけたからでございます」
「ふむ……、リリア、そなたは良い伴侶を得たな。これからも、幸せに暮らすが良い」
「お、お父様、あ、ありがとうございます」
父の言葉を聞き、私は一気に力が抜けたような気がした。
おそらく追い出されることはないだろうと、思ってはいたけれど、実際にその言葉を聞くまでは不安だった。
「ラディー、娘と話がしたい。すまんが席を外してくれんか?」
「あっ、気が利かず、申し訳ございません。久しぶりにお会いになるのですから積もる話もあるでしょうに」
ラディーは、すぐに部屋から出ていった。
私はほっとしていたのだが、父と二人きりになると、また緊張して身体が硬くなってしまう。
「リリア、そんなに緊張しなくても良い。私は二人を追い出したりしないよ。アスラス……いや、ラディーは実に有能な男であった。ところで、あやつはまだ自分が平民で天涯孤独だと思っているようだが、まったく記憶は戻っていないのか?」
「はい。そのままです。ただ、平民だと思っているのは本人だけなんです。領民たちは、ロウタス侯爵家の遠縁にあたる貴族家から、婿養子に来たと思っていますから」
「まあ、それでいいだろう。籍を入れることはできないが、これからも、あやつを手放すではないぞ」
「はい。わかっております」
父は、三日間この屋敷で過ごし、ラディーと親交を深めた。
二人が話すことは主に仕事の話であったが、天才ラディーに答えられないことはなく、父は、話す度にラディーの能力に感心していた。
めったに人を褒めない父が、珍しくラディーのことを絶賛するのを聞いて、私はとても嬉しくなった。
そして三日後、父は、兄に会うために、領都へと向かった。




