19話 二人の幸せ
ラディーと私がボレアリスに来て、三ケ月が過ぎた。
ラディーは領主代理の仕事が板につき、仕事は問題なく順調にこなしている。
しいて問題があるとすれば、ラディーが忙しすぎることではないかと思う。
法律に詳しいことが領民の間に広まったので、もめごとの仲裁に入ることが増えたのだが、合理的で公平な審判は皆に好評で、信頼できる領主代理様と慕われるようになっていた。
護岸工事もラディーの指導のもとに進められ、雨期に備えることができたと、これも川沿いに住む領民たちに感謝された。
このことは、お兄様の目にも留まり、この技術を使ってロウタス領の水害多発地域すべてに施工することになった。
そために、ラディーは護岸工事専門の技術集団を作り、その指導にも大忙しである。
私は領主代理の妻としての務めを果たすべく、屋敷の切り盛りだけでなく、一緒に視察に出かけたり、領地に住む婦人たちの声に耳を傾けたりと、ラディーを陰ながら支えるようにしている。
ラディーは仕事でとても忙しいけれど、私との夫婦生活をおざなりにすることはなく、ほぼ毎日愛し合う日々が続いている。
ここに来た日に用意した赤いシーツと布団カバーは、数日でその役目を終え、今は元の白い布に戻っている。
日々の暮らしの中で、私はラディーの思いやりと深い愛情を感じ、この上ない幸せを満喫していた。
「ねえ、ラディー、お茶を淹れたわ。そろそろ休憩しましょう。今日はあなたの好きなミルクティーよ」
執務室で熱心に仕事に励んでいると、ラディーは休憩することも忘れて仕事に夢中になってしまう。
そんなラディーに休憩をとらせるのも、私の一つの仕事になっていた。
「ああ、リリア、ありがとう。いい香りだ。リリアの淹れるお茶は本当に美味しい」
王宮でアスラス様の専属メイドをしていた頃も、アスラス様は私が淹れるお茶を褒めてくれたけど、ラディーになった今も、いつも私の淹れるお茶を褒めてくれる。
ラディーが特に気に入っているお茶は、北部原産の茶葉で作るミルクティーだ。
北部原産の茶葉でお茶を淹れると、苦みの中にほんのり甘みを感じる独特のお茶になるのだが、ラディーは、このお茶にミルクを入れることを好んだ。
「あなたが美味しいって言ってくれて、私はすごく幸せだわ」
「僕も、幸せだよ。優しい君と一緒に暮らせて、こんなに美味しいお茶が飲めるのだから……」
「私と一緒に暮らせて、幸せ?」
ラディーは幸せだと言ってくれるのに、私は時々、ふと思い出したようにラディーの気持ちを確認してしまう。
心のどこかに潜む罪悪感が、私を不安にさせてしまうのだ。
「ああ、とっても幸せだよ。僕は時々思い出すんだ。リリアが僕にプロポーズしてくれたことを……」
「思い出すって?」
「その日の記憶は失ってしまったけど、何度も思い浮かべたよ。ラディー、私と結婚してくださいって、そう言ってくれるリリアの姿をね。今の僕の幸せがあるのは、リリアが勇気を出してくれたからなんだなって感謝してるんだ」
「ラディー、そう言ってくれて本当に嬉しいわ。あなたと結婚できるのなら、私は何度でも言うわよ。ラディー、私と結婚してくださいって……」
「リリア、ありがとう。僕はあなたと結婚できて、本当に幸せだよ」
ラディーは私の腰に手を回し、甘いキスをしてくれた。
ねえ、ラディー。嘘をついてここまで連れてきてしまったけれど、あなたは今、本当に幸せよね……?
四ケ月が過ぎた頃、王都に住む父から、私たちに会いに行くと書かれた手紙が届いた。
理由はわかっている。
私とラディーが、ロウタス家にとって有能か無能か、判断するためである。
もし、無能だと判断されたら、私たち二人は、この領地から追い出されるのだ。
でも、これまでのラディーと私の実績から考えて、おそらく、追い出されるようなことはないだろうと思う。
それから数日後、父が私たちの屋敷に到着した。




