13話 ボレアリス
北部は、領都と違って農村部が大部分を占めている。
私たちが広大な農園を眺めているうちに、馬車はボレアリスにある北部領主代理の屋敷に着いた。
ここも立派な屋敷ではあるが、兄が住むケントルムにある領主の館に比べると、ずいぶんと小さく見える。
私たちを、北部の領主代理であるステイクが出迎えてくれた。
ステイクは白髪に青い瞳の初老の男であるが、その身のこなしには隙がない。
「お嬢様、ようこそお越しくださいました。そちらの方がラディー様ですね。私の名はステイクと申します。よろしくお願い申し上げます」
「ステイクさん、リリアの夫、ラディーです。私こそ、どうぞよろしくお願いします」
「私は現在、北部の領主代理を務めておりますが、これからはお二人に領主代理の仕事を引き継いでもらって、私は執事として務めさせていただきます」
「ステイク、これからよろしくね」
実はこのステイク、初老と言っても、武術の達人である。
元々は父の腹心の部下であり、私の武術の師でもあるのだ。
5歳から14歳までの9年間、私にあらゆる武術と諜報員の心得を教えてくれたステイクは、三年前にボレアリスに移り、北部領主代理の任についたのである。
ステイクの隣に控えているメイドと目が合った。
「あの、あなたが私たちの世話をしてくれるメイドさん?」
「はい。カレンと申します。奥様、旦那様、よろしくお願いいたします」
「じゃあ、お手洗いに案内してくれる?」
ついて早々、私はカレンにあることを頼みたくて、お手洗いまで一緒に行ってもらった。
お手洗いの場所くらい知っているが、ラディーに聞かれたくなかったから、これは苦肉の策だった。
ともかく、絶対にラディーに知られたらダメなことだったから……。
お手洗いで、こっそりとカレンに頼みごとをした私は、やっと肩の荷が下りた気がした。
ほっとした気持ちでラディーの元に戻り、屋敷内の部屋の説明を受けた後、ラディーと一緒に夕食を食べた。
「ほう……。この野菜は、珍しいね。それに、噛みしめると甘みがあって美味しい」
ラディーが北部でとれる野菜に舌鼓を打っている。
「そ、そうでしょ。北部には、この土地特有の美味しいものがたくさんあるのよ」
私たちの目の前に並んだ料理は、北部でとれる肉と野菜を食材にして調理人が腕を振るい、とても美味しい料理に仕上がっていた。
けど……、食べながら、夜のことを考えると、せっかくの美味しい料理なのに、ゆっくりと味わう気持ちにはなれなかった。
ああ、とうとう、旅は終わってしまったのね。
緊張で胸がドキドキして、身体が熱くなってくる。
食後のデザートを食べた後、私たちは二階にある夫婦の寝室に入った。
部屋の中には大きなダブルベッド、だが、それは普段の見慣れているベッドとは違っている。
「おや、ベッドのシーツも布団も赤いのですね。これは珍しい」
私たちが夕食を食べている間に、カレンがシーツも布団カバーも白から赤に変えてくれたのだ。
そう、これが、ラディーに見つからないようにして、こっそりと頼んだこと。
ケントルムのお店で赤い布を買い、ここに着いて早々、メイドのカレンに布を渡して頼んだのだ。
「あ、あのね……、ここでは、こういう風習なの。結婚してしばらくは情熱的な夜を過ごせるようにって……」
「へえ、地域によっていろんな風習があるんだね。情熱的な夜か……」
ラディーは熱を帯びた目を私に向けた。




