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魔王様いけません  作者: 天羽
第一章「やり直し」
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第三話 思ったよりも私馴染めるな?

 考え込んでいたリスティアだが、小屋の扉がコンコンとノックされ、思考が途切れた。

 何だと少し苛つきつつも、「はーい」と返事をして扉を開ける。


 「あ、すみません!突然なんですけど、そのこれ良かったら」

 「これは…?」


 若い女が、何かが入った籠を差し出した。

 木で出来た籠の中に入っていたのは、茶色のお菓子。

 四角く、ほんのりと甘い香りがした。


 「クッキーです!良かったらお近づきの印に、最近引っ越してきたんですよね?」

 「ええ、まあ」


 リスティアは口に手を当てて少し考え込んだ。

 女はその様子に首を傾げつつも、ハラハラしているような様子だ。

 受け取ってもらえるか不安なようだった。

 リスティアとしては得体のしれない物を受け取るのは抵抗があったし、魔王時代からの癖で食べ物は自身で調達したものしか食べない。

 だが今は人間として村に紛れ込んでいるのだ。

 魔女とはいえ、この女がそんなに警戒するべきとは思えないし、印象もある。

 受け取っておくのが無難と判断したリスティアは、木の籠の中から数個クッキーを取った。

 幾つか種類があるようで、それを一つずつ。


 (まあ、大丈夫だろう。不味ければ捨てるだけ)


 「クッキーというものを初めて食べるから、一つだけにしておくよ」

 「そうなんですね、美味しかったら教えてください!良かったらまた作りますから」


 女はそう言うと帰っていった。

 リスティアは椅子に再度腰掛けると、クッキーの入った袋を開けた。

 一口、最初は小さめに角を齧った。

 得体の知れない物に対しての恐怖からか、リスティアの一口は小さかった。

 ほんの一口、クッキーを噛んだ時、その甘さが口の中に広がった。

 あまり食べ物に頓着せず、味にも興味がないリスティア。

 だが、これは美味しかった。

 少しザラッとした舌触りに、濃縮された甘み、焼かれた生地が口の中に広がるのはとても良い。

 一気に残りのクッキーを口の中に頬張り、胃へと送る。

 意識せずにリスティアの手は次のクッキーに伸びていた。

 黒いクッキーだ。

 それを今度は見もせずに袋を空けて、口に頬張る。

 さっきよりも甘い。が、さっきのクッキーの甘さとはどこか違う。

 袋に書かれた名前をみれば、チョコクッキーというものらしい。


 (なにこれ!?美味しい…魔族には無い食べ物、人族がこれを作ったというのか!?)


 拳を強く握りしめて、瞳が揺れていた。

 食べ物とはこうも美味しいものだったのかと、リスティアは感動を隠せない。


 「美味しいよ…これぇ…私何で前回の世界人族滅ぼしたのよ!馬鹿!」


 思わず人族を滅ぼした前回の世界でのリスティアを責めるくらい、美味しさに驚いていた。


 (何を言っているのか、私は)


 リスティアは落ち着く為に息を吐いて、吸った。

 魔王が人族に対して敵対心以外の、それも良好な感情を向ける。

 あってはならない事だった。

 だがそれでも、リスティアは椅子から立ち上がると、扉を開けて外に出る。

 そうして歩きだすと、さっきの女はどこかと探した。

 暫く歩いていると見つけた、他の村民と話をしている。

 どう話をしようかと、リスティアがチラチラと視線を向けながら辺りを歩いていると、彼女や周りが気づいたようだった。

 女はすぐにこちらに駆け寄ってくる。

 その顔はどこか緊張もしていたが、それよりも嬉しそうな表情をしていた。


 「ど、どうしましたか?もしかして、お口に…」


 最後の方だけ少し影を落としたが、それでも彼女は明るく振る舞っている。

 自分の味に自信がありながらも、不安もあるので最後だけ声が小さい。

 リスティアは女に笑ってみせた。


 「美味しかったわよ、もし良かったら残りもくれないかな?」

 「本当ですか!良かったです」


 女はそう言うと、持っていたクッキーを手持ちの鞄から出して、幾つか差し出した。

 リスティアはそれを満足気に受け取った。


 「ありがと」

 「おやまあ、貴女が最近越してきた人かい?」


 話しかけてきたのは、女の後ろにいた少し歳をとった女だった。

 穏やかな声で、リスティアの目を見て話す。


 「ええ、リスティアと申します」

 「リスティアさんかい、若くて羨ましいねぇ。凄く肌も白くて、可愛らしいお顔」

 「ありがとう御座います。そちらこそ、お若くみえますよ」

 「あらあら、上手いんだから。よろしくね、リスティアさん」


 お世辞と分かりながらも、おばさんはリスティアの言葉に喜んでいた。

 若く見られて満足と言った様子だ。

 リスティアはもらったクッキーの方に意識を割いていると、おばさんが彼女の裾を軽く叩く。

 おばさんはさらにリスティアを手招きし、他の者のところへ連れて行く。

 リスティアもそれに従ってついて行った。


 「村の女同士で話をしていてねぇ、どうだい?良かったら一緒に混じらないかい?」


 おばさんはそうリスティアを誘った。

 そこには老人から若者まで村の女が集まって会話をしていた。

 愚痴のようなものから、クッキーや見たことの無い食べ物を並べながら、香ばしい匂いがする紅茶を嗜んで話している。 


 (悪くない、寧ろあの食べ物を食べれて、情報も手に入る)


 リスティアにとってはこれ以上にない好条件だった。

 満面の笑みを浮かべて、おばさんを見る。


 「喜んで!参加させてください!」


 意図してかしないでか、リスティアの声は元気を孕んだ明るい声。

 もはやそこに魔王としての残忍さや冷酷さは無かった。

 食べ物というのはこうも人を変えるのか、それくらいに大きな影響。

 こうしてリスティアは村の女子会に混ざるのであった。


 ■ ■ ■


 女子会では、最近の村について色々知れた。

 既にリスティアが村を守る魔女というのは広まり初めている話もあったが、それはもはや関係無かった。

 なぜなら………


 「これ、美味しいです!なんて言うんですか!?」

 「よく食べるわねぇ、これはね、ケーキと言うんだよ。今食べたのはショートケーキ。スポンジとクリームが甘さを調整して、イチゴで酸味を加えるのよ」

 「じゃあ隣のこれは!」

 「食べたいのかい?ならどうぞ。チョコケーキでねえ、チョコを使った甘いケーキだよ。おばちゃん若い子にこうも言われると嬉しくてねぇ」


 リスティアが老婆と話しているところが、周囲から目立っていたからだ。

 村のケーキ屋をやっている老婆と話していたリスティアが、チーズケーキを口にしたところが始まりだった。

 他愛のない雑談でも良い印象を持たれていたリスティアだったが、ケーキを食べた瞬間、感情を剥き出しにしていた。

 たくさん喋りだし、感動と喜びを隠しもしない様子が村の者に受けた。

 魔女という前評判から、元々冷酷で残忍と思われていたが、今は豹変。

 頭のいい、甘いもの好きの可愛らしい女の子と評価は変わっていた。

 ここから、リスティアは村に馴染み始めていた。

 周りの人もリスティアと話し始め、リスティアもそれに笑顔で返す。

 会話が上手いというのも、リスティアの強みだ。決して自分の事を出し過ぎず、それでいてちゃんと喋る。

 相手の悩みも的確なアドバイスをするなど、頭の良さも出ていた。

 多くの人と話したリスティアは今、勇者である赤ん坊を背負っている女と話していた。

 よく見れば、最初にクッキーをくれた女だ。


 (勇者、彼女が母か)


 甘い物でポンコツになりかけていたリスティアも、この時だけは少しだけ魔族の面を心に戻していた。


 「さっきはクッキーありがとう御座います。お子さん可愛らしいですね」

 「喜んでもらえて何よりです、子供は…その…」


 少しだけ、子供のことを話す彼女の声は重かった。

 リスティアは少しだけ目を細める。


 「その、この子勇者なんです。だから…村が襲われたりして…周りに迷惑が」

 「そんな事気にしているようには周りの方も思いませんでしたよ?」


 村の人たちは良い人だ。

 数日しか過ごしていないリスティアでも分かるくらいには、この村の雰囲気はそもそも明るい。

 さっきの女達と話してもよく分かる。

 恐らく彼女を責める者はいないだろう。

 だが、彼女は責任を感じているようで、縮こまった様子だ。


 (実際、息子が勇者で村が襲われるのは辛いからな)


 「私は気にしていませんよ、大丈夫です」

 「ですが…!!私のせいで…」


 勇者に選ばれた息子のせいにするあたり、やはりこの人も良い人だ。

 リスティアは落ち着かせるよう、女の肩を優しく叩く。


 「大丈夫ですよ、何があっても私が守りますから」

 「ありがとう、ございます」

 「だから、クッキーをたまに作ったらくださいね!」


 そう言うリスティアをみて、女はポカンとした顔をした後に、クスクスと笑った。

 女も不安が拭えたようだ。


 「そう、ですね。はい!」


 そうして村の女子会?とやらに参加したリスティアは、その後もお喋りを続けるのだった。



 ■ ■ ■


 お喋りを終え、小屋に戻ったリスティア。

 その頃にはすっかり日は沈み、辺りの人の声も無い。

 話し過ぎたなと思いながら、服を脱ぐ。


 「私、人に馴染み過ぎだな…」


 魔王であるリスティアは、ボソリと呟く。

 まさかここまで村の者と話すとは思っていなかったので、自身でも少し困惑するくらいだ。


 (まあ、悪くはない)


 呆れなのか、達観なのか分からないが、リスティアは軽く笑う。

 服を脱ぐと、沸かせた湯に浸る。

 湯船の気持ちよさに身を委ね、体が温かみに包まれるのを目を瞑って体感していた。


 (暫くはこうして村に馴染むのもいいな)


 そうリスティアは心の中で思うのだった。

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