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夢見る剣士の幕末記  作者: 絢陽
監察方就任篇
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棒術と体術




 翌日の朝早く、近くにある開けた路地で梓と山崎は早速稽古をすることにした。

 軽く体を動かした後、山崎の実力を見るために手合わせを提案する梓。


「どこからでもどうぞ」


 梓がそう言って木刀を一本右手に持って体を大の字に開けば、山崎は「馬鹿にすんなや」と文句を垂れる。

 山崎は棒術に覚えがあるようで、手には自分の身長ほどの棒。構えた姿は多少半身だが剣道とさほど変わらず、ただ刀が長くなったような印象だ。


(棒術かぁ。隊士に何人かいるけど、ちゃんと手合わせするのは初めてだな。原田さんと似た戦い方かと思ってたけど、原田さんとは棒の持ち手がすでに違う。どう出るのか、まずは見る)


「一応言っておきますけど、女だからって手加減しないでくださいね。私こう見えて新選組の副長助勤ですから」


 副長助勤だからと言って自分が偉いと思ったことなどないが、女だからと手加減されては手合わせの意味がない。

 梓はあえて分かりやすく力を示すことにした。


「そんならこっちもやりやすいわ」


 山崎はそう言って、前足をジャリジャリと少し前に滑らせる。梓は山崎の間合いを測りつつも、まだ動かない。

 山崎が「ハッ」と掛け声と同時に踏み込めば、棒は梓の首の付け根に向かって弧を描く。それを手早く木刀で守り、耳の近くでカンッと木刀と棒が交わる。刀ならここで鍔迫り合いになるか間合いをとるところだが、ここで棒術との違いが出た。


 山崎は一瞬のうちに、動くことなく棒を握り手の中で滑らせ引っ込めると、今度は正面から更に腕を前に突き出した。

 一度防いだはずの棒が、一瞬で今度は顔面を突きにくる。体感としては棒が引っ込んで、その後すぐに伸びてきた感覚だ。

 山崎の体の動きに注視していた梓は、危うく顔を突かれそうになりながら、すんでの所で首を倒してそれを避け後ろに飛び退く。


(あっっっぶな!何今の!あの棒伸縮自在!?なにこれ楽しい!)


 バクバクと高鳴る心臓に思わず笑顔が溢れれば、山崎はそれを見て引いたように嫌な顔をする。

 梓が再び構えを作れば山崎は棒を縦に持ち、手の中で下に滑らせる。すると刀で言う剣先が手のひらに収まり、持ち手であるはずの場所が地面につくほどに手から離れる。そのままくるりと回して構えれば、左利き剣士のように鏡写しの構えになる。

 梓はそれを見て更に『面白い』が増していく。

 刀とは明らかに違う、どこを持っても成り立つ持ち手の自由度。持ち手を滑らせる事で剣先が剣尻になるし逆も然り、刀身の長さも自由自在。

 

(うん!面白い!)


 今度は梓から切り込めば、山崎は左右の腕を広げて棒の中央でそれを防ぐ。そして弾くと同時に素早く持ち替え、梓の足に向かって薙ぎ払うように足払いをかけた。それをかわすため飛び上がった梓に、今度は下から蹴りが入った。

 空中で蹴りを避けることは難しく、相打ち覚悟で空いている頭に向かって木刀を振り下ろせば、蹴りの足は止まりぐるりと出てきた棒に防がれる。すごい体勢をしている山崎だが軸はブレていない。

 梓が棒を弾き飛ばしても、すぐさま棒の反対側が出てきてしまう。更に持ち手が変わればまた次の一撃が繰り出される。


 刀相手なら一回防げば鍔迫り合いに持ち込めるところを、棒術は立て続けに2回3回と打ち込まれる。加えて足も出てくるとあっては、なかなかに梓の思い通りの試合はできない。


 そんな状況でも、しばらく打ち合いを繰り返していれば慣れは来るもので。勝敗は呆気なくつく。

 いくつか隙を見つけた梓はそのうちの一つ、持ち手を滑らせるために一瞬緩んだ拳を見計らい、下から棒に向かって力強く打ち込む。山崎は握り直す猶予がなく棒を宙に舞わせた。

 トドメに木刀を山崎の首に突きつければ、勝負あり。


「……参った」


 両手を挙げる山崎の後ろに棒がカランカランと転がり、手合わせ終了となった。

 山崎はその場にドシャッと座り込み肩で息をする。対して梓はまだ体力に余裕があり、山崎の落とした棒を拾い使っていいかと許可を取る。

 「勝手にせぇ」と帰ってきた言葉に礼を言って、見よう見真似で棒を手の中で滑らせたり構えて振ったりと試してみた。


「棒術って初めて手合わせしたんですけど、結構厄介なんですね。山崎さんの腕なら新選組でも通用すると思いますよ」


 そう前置きしてから、改善点を指摘する。

 棒を滑らせる際はそれ自体が隙になるため、拳の変化は最小限にし悟られないようにすること。

 屋外なら良いが屋内ではそもそも棒が振り回せないため、何か対策を考える事。

 棒術から蹴りを出すまでがぎこちなく、反撃されやすいため動きを滑らかに隙がなくする事。


「とまぁ、こんなところですかね。山崎さんの1ヶ月間の課題ですね」

「鍼灸に加えて課題が多過ぎやろ……」

「文句言わない!山崎さんって体術もできるんでしたっけ?二つ目の屋内での戦闘と、三つ目の棒術と蹴りを連携させるためには、体術を鍛えるのが良いと思うんですけど、私体術は教えるほどではないんですよね」


 どうしたものかと腕を組む梓だったが、山崎がその答えを持っていた。

 大きなため息をついた後、立ち上がって袴の汚れを払う。


「しゃあない。親父を頼るか」

「え?」

「俺にちっこい頃体術を教えたんは親父や。棒術の方が楽しなって、ちょっとの期間しか教えてもらってへんけど。鍼灸も体術もって、四六時中親父に教わるんは嫌やけどしゃあなしやな」


 乗り気ではないようでぶつぶつと言っている山崎だったが、梓はそんな山崎の背中を思いっきり叩いた。目を輝かせて。


「何がしゃあなしですか!そんな近くに先生がいるのになんでもっとちゃんと教わらないんですか勿体無い!ほら、今すぐ行きましょう!」


 ついでに自分も体術を教えてもらおうと、我先にと山崎家に向かって走り出した梓。山崎はポカンとしながら「痛いんやけど…」と聞こえる事のない言葉を梓に向けたのだった。



 山崎家に戻り、朝食の支度をしていた山崎父に早速お願いすれば「ええで」と簡単に了承してもらえた。

 それから山崎父の用意した朝食をもらい、山崎親子は鍼灸の勉強。梓は部屋を借り化粧の練習や外で素振りなどをして午前を過ごした。山崎が新選組に加入すると言う事で、材料費さえ払えば手間賃なしで化粧品や化粧水を作ってくれる事になったので使い放題だ。


 そうして午後からは師匠の長屋に行き師匠との稽古。

 それが終われば夕飯を山崎親子と共に作って食べ、夜は夜目を鍛えつつ刀の稽古をして、あっという間に1日目が終わった。



 翌日の朝早く、山崎父からの稽古は座学から始まった。

 人の体が描かれた絵を囲み、山崎父は筆で体のいくつかの部分に丸をつけていく。


「さて、この丸をつけた部分は全部人間の急所や。正確に当てれば一発で相手を怯ませたり気絶させる事ができる」


 山崎父は山崎を見本に、目を突く時の手の形、首への手刀、顎を攻撃する時の手段、みぞおちの場所など細かく教えていく。最後に教えられたのは金的で、言わずと知れた男の急所に山崎は青ざめ梓は恥ずかしげに俯いた。


 座学を終えると、その場でゆっくりと敵の急所を狙う動きを覚える。もちろん敵も反撃することを想定し、相手の力を利用した受け流し方と反撃、絞技なども同時に学ぶ。

 梓は刀を使えない屋内での戦闘のためにと覚えたかった体術だが、女の力でも十分に太刀打ちできる技の数々に、剣術中での取り入れも考える。


(棒術でやってたみたいに、両の手で刀を振りつつ足でも攻撃できれば、かなり攻撃の幅が出るんじゃない?)



 その日から朝は体術を教わる時間とし、山崎父指導の下基本の体術を学んだ後は足技を中心に習う事になった。





棒術は言葉で表現することが難しく、理解しにくい部分が多々あると思います。

興味がある方は動画を検索してもらえるとイメージしやすいかもしれません。

文章力不足ですみません。

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