表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見る剣士の幕末記  作者: 絢陽
壬生浪士組篇
49/54

芹沢鴨の暗殺ー終焉ー




(芹沢さん、これで終わらせる気だ……)


 先ほどとは打って変わった雰囲気を感じとり、沖田は正眼の構えを作り、梓も一切の隙を作らないよう両の刀を構えた。

 梓と沖田、二人が構えを作った事を確認し、芹沢は一気に距離を詰め刀を上から振り下ろした。

 ただ振り下ろすだけの一太刀だが、その速さは追うのがやっとと言っていいほどに早く、体感にすれば『動いた』と思った時にはすでに目の前に振り下ろされている感覚だ。


 梓目掛けてきたその太刀に、何とか食らいつき両の刀で受け止めるが、なにせ力が圧倒的に違っていた。

 芹沢と対峙した最初の一太刀は火花が散りつつ何とか受け止められたのに、今までいかに芹沢が手を抜いていたかを思い知らされる。

 

 刀が交わってもなお頭の上から力で押され、芹沢の刀が梓の鼻先まで迫る。横にいなそうにも、少し軸をずらせば力で持っていかれる。

 我慢比べの様な一瞬の後、沖田の刀が横から芹沢に斬りかかった。

 横目でそれに気が付いた芹沢は、梓と組み合った刀を強く弾く。梓は押されるがままに体制を崩し後ろに数歩後退。

 その隙に芹沢は刀を沖田に向け、斬りかかってきていた刀を横から薙ぎ払い空いた脇腹に蹴りを入れた。


 しっかりと決まった蹴りの反動で沖田は飛ばされ、体制を立て直した梓に向かい再び芹沢の刀が振り下ろされる。

 先程の二の舞にならないよう、梓は刀を中心で受けることをやめ体を半歩横にずらしつつ刀で芹沢の太刀を受け流す。

 反撃は許されないまま、次々と繰り出される剣戟を受けては流し受けては弾きと繰り返していれば、沖田が脇腹を庇いつつ体勢を立て直すのが芹沢の後ろに見てとれた。

 梓はすぐに視線を芹沢に戻し、右や左や正面から打ち込まれていた太刀のうち正面に来た太刀を刀を交差して受け止める。


 先ほどと同じように競り合う形になった所を、今度は背後から沖田が斬りかかった。

 それに反応した芹沢が再び梓を弾くため、一瞬刀から力を抜いた瞬間を感じとり、梓は二の舞になる前にと瞬時に二本の刀で絡めるように芹沢の剣先を下に向ける。

 がら空きとなった芹沢の体に、沖田の太刀が振り下ろされた。


 しかし一筋縄でいかないのが芹沢鴨。

 押さえつけられた刀から左の腕を離し、沖田の太刀を腕一つで受け止める。

 ザシュッと斬りつけた沖田の刀は、そのまま芹沢の肘から下を切り落とし肩に食い込む。

 腕を切り落とされ肩に深く刀を受けたというのに、芹沢は声も出さず顔にも出さず、刀を抑えつける梓に向かって蹴りを入れる。

 刀を逃がさないようにと注意をそちらに向けていた梓は、突然の蹴りに反応が遅れ、近くの襖に向かって飛ばされた。


 蹴られた左腰とぶつかった背中に痛みを覚えつつ、すぐに構えて起き上がれば、間髪入れず芹沢が斬りかかる。

 しかし、片腕となり力の均衡を失った状態で振りかぶられたその刀はあまりにも高く上がり、その隙を見逃すことは、梓にはできなかった。


 ガラリと空いた大きな胴体に、梓は真っすぐに自身の大刀を突き刺した。


 ずぶずぶと入っていく大刀は芹沢の腹を貫き、梓の顔に鮮血を飛ばす。

 夢と同じ。自らの刀を芹沢に突き立てたところで、はくはくと芹沢の口が動く。

 夢では聞き取れなかった言葉を、芹沢はゆっくりと呟いた。


「……よく、やった……梓」


 口から血を溢れさせ、にっこりと笑った芹沢に、梓は叫びにも似た感情を、口の代わりに瞳から、大粒の涙として零す。

 刀を動かせない梓を見て、今度は背後から、沖田が心の蔵目掛けて刀を刺した。

 なるべく早く痛みから解放するための、介錯の様なものだった。


 芹沢はグッと小さく唸り、その場に膝をつく。

 沖田と梓が芹沢から刀を抜けば、芹沢はその場に倒れ血だまりを作っていった。


「せ、芹沢…はん……」


 肩で息をする二人の後ろから、掠れた声が僅かに届く。

 土方に深く斬りつけられたお梅は、横たわりながらも芹沢の戦いを見続けていた。感覚も残っていない体の中、唯一動く手を必死に芹沢に向かって伸ばしている。


 傍らでそれを見ていた土方は、そっとお梅を抱き上げ芹沢の隣に運ぶ。

 そして、長居は無用だと、すぐさま外に出るように皆に声をかけた。



「……芹沢、はん?……よう…きばりはったなぁ…」


 穏やかに笑う芹沢の顔をまっすぐに見つめ、やっと届いた手で芹沢の頬を撫でると、お梅も静かに後を追った。



 外は依然、土砂降りの雨が降り続いており、梓は自身の顔を空に向ける。

 雨と涙、雨音と嗚咽をない交ぜにし、人目もはばからず咽び泣いたのだった。




 梓が落ち着くのを待ち、前川邸で情報共有が行われた。

 前川邸の離れでは平山のみが首と胴が離れた状態で倒れており、平間は致命傷を負いながらも逃げたのだという。ちなみに同衾していた遊女二人はいずれも逃げ伸びたらしい。


「原田さんダメじゃないですか。ちゃんと見張ってないと」

「総司お前なぁ。一人で八木邸と前川邸両方見張れるかってんだ!」

「一応後から探しましたけど、どこかに隠れたのか見つけられませんでした」


 山南の困った表情のあと、「見つけたら脱走で切腹だ」と土方が一旦話を切る。

 続いて、今回の芹沢一派襲撃は長州の仕業とする事になった。思いかけず前川邸と八木邸に死体ができたことで、長州藩士が近藤と芹沢を狙って襲撃したという筋書きにするという。

 前川邸離れで芹沢の代わりに平山が、たまたま八木邸にいた芹沢が近藤の代わりに犠牲になったと、明日隊士達が宴会から帰ってきたら伝える事になった。


「さて、問題はこの後どうするかだが……」


 そう言って土方は沖田と梓に目を向ける。

 当初の予定では事を成し遂げた後、何食わぬ顔で宴会に戻る予定だった。黒い着物を着てきた自分たちは同じような黒い着物に着替えをすれば怪しまれることはないが、問題は白い着物を着てきた沖田と梓だった。


「確認するが、二人とも似たような色の着物は持ってるか?」


 聞かれた二人は互いに顔を見合わせ視線を下に移す。

 芹沢に習った技で着物を汚さず成長を見せると、双方意気込んで着て来た着物だったが、どちらにもしっかりと返り血がついている。


「……芹沢さん相手に、無茶をしましたね」

「……はい」


 沖田の苦笑いにつられ梓も苦笑いすれば、「着替えは?」と土方が眉をピクピクと動かして迫る。

 梓は頭の中で自身の持っている着物を思い返し、単衣なら薄い鼠色の物があったことを思い出す。

 先程のような白ではないが、酔っ払いばかりの宴会場に多少の違いを見咎める隊士などいないだろう。


 二人は後ずさりしながら、「あります!」と返したのだった。


 

 その後、何食わぬ顔でバラバラと宴会に戻った梓達だったが、宴会場にいたほぼ全員が酔いつぶれて寝てしまっていて、梓達が戻ったことに気が付いたのは案じて待っていた斎藤と井上、近藤だけだった。




 2日後。

 壬生寺で芹沢鴨の葬儀が粛々と行われた。昨日時点では『賊に斬られた』とだけ伝えられた芹沢暗殺の下手人は、この日予定通り『長州藩の者である可能性が高い』と訂正された。

 芹沢の死を悼む列は壬生寺から八木邸まで続き、恐れられ疎まれていた人物にしては多すぎる弔問客の数に、誰もが驚いたという。

 

 前川邸で斬られた平山の葬儀も同時に片隅で行われたのだが、お梅の葬儀が一緒に行われることはなかった。

 そもそもお梅の遺体は菱屋が受け取るものだと思っていたのだが、菱屋の主人はそれを拒否した。自分の妾が他の男と添い遂げたのだ。菱屋として面白い話ではないだろう。

 それならと梓は近藤に直談判したのだが、組が妾の葬儀をすることはできないと言われ、同じように局長と同じ墓に入れることもできないと言われてしまったのだ。


 しかし、お梅の遺体をいつまでも放置することも、軽々しく処分することも梓には到底容認できなかった。そこで梓は八木源之丞に頼み込み、墓は作れないまでも何とか無縁仏として、芹沢と同じ壬生寺に埋葬してもらったのだった。


「お梅さん、ごめんなさい。本当は芹沢さんと同じお墓に入れてあげたかったけど、同じお寺だから許してね」


 芹沢の墓と同じ花を添え、梓は静かに手を合わせたのだった。






この話までを『壬生浪士組篇』として第一章とさせていただきます。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ