三五章・そして対決が始まります
とりあえず目立たない場所に移動しようということで、私達は一階の階段の裏に隠れることになりました。脱出計画をルドさん達がさくさくまとめ、それが一旦落ち着いてから私は、ずっと気になっていたことを切り出しました。
「あの、ブレントさん」
「シャル?」
私は、自分の声がわずかに震えているとわかりながらも、言葉を繋ぎました。今、とても驚いているのです。だって、私以外に……歌竜がいる、なんて…………。
「その、あの……」
「?」
「歌竜が歌竜で歌竜の!」
「わー、シャルが見事に壊れたー」
ルドさんは何が楽しいのか知りませんがけらけら笑って腹が立ちます黙れ。
「落ち着きなよ」
相変わらずにやにや笑ったまま私の背中を軽く叩きます。げっぷができない赤ちゃんじゃないんですからね! でも、苛立ちのおかげ(?)で少し冷静になれました。
「ブレント、シャルはすごいパニックみたいだね」
「見ればわかる」
「だって、いきなり同族がいるなんて知ったら普通驚くだろ」
「え? ああ……ああ!」
……私が言うのもなんですか、ブレントさんって結構抜けているんですかね? それでよく、国の機密に関わる仕事ができますね、と思います。
「ごめん、シャル!」
「い、いえ。大丈夫です」
それより!
「この近くに、歌竜っているんですか?」
「うん」
私はまだ自分が歌竜だとかそういうことは信じられませんでしたが、見てみたいとは思っていました。もし同族で、懐かしいと感じることができたら、私は一連の不可思議な出来事について自分で納得できる気がしていました。だからです。あと、もし相まみえられたらその人たち(竜?)に聞いてみたいです。私のお母さんのことを。お父さんのことを。まあ、わかったところで私の家族はお義父さんと孤児院のみんなだけですが。
「それにしても、灯台もと暗しってやつですかね!」
「え?」
ブレントさんが首を傾げます。
「私が竜とかそうじゃないとかは置いておくとして、私のいた孤児院の近くにいるんですよ! もし私が歌竜ならば、人間姿で会ったことがあるのかもしれませんね」
「ちょっと」
ブレントさんが眉間をぐりぐりもんでいました。
「ちょっと、待って。ここって孤児院なの?」
「はい、そうですけど。……そういうのって、私の観察でわかっていたことじゃないんですか?」
「んー……」
ブレントさんは目を閉じ、唸りながら塾講の耐性に入ってしまいました。私は隣にいるルドさんを見上げます。
「何とかなるよ」
「はあ」
ちゃらんぽらんでも騎士(自称)として生計を立てている(自称ですが)ルドさんが言うと納得できるような、してはいけないような。それでも、笑って平気平気と告げてもらうのは、とても安心できました。
「あんまり人多くなさそうだし、俺一人でもどうにかなるだろ」
「その自信、どこから沸くんですか」
「シャルの笑顔を見た瞬間から」
「場所じゃないでしょ、それ」
くだらない問答で和みながら、私はブレントさんの言葉を待ちました。
「あの、さ。シャル」
ブレントさんは、長いため息を吐き出して言います。
「僕たち聖歌隊の中では、ここは孤児院と認識されていないんだ」
「はい?」
「とりあえず、ここについての簡単な説明をしてくれるかな」
「微力ながら!」
しっかり返事をしました。
「ここはアンナ院長が古城を買い取ってつくった孤児院です。自立できる年になるまでここで衣食住の確保と教育が約束されています。十五あたりから社会に出るか、院に残って勉強か、手伝いかを選ぶことになります。個人を出た人もたまに遊びに来てくれますね」
「授業っていうのは?」
「多分、普通の学校と同じではないか、と。文字の読み書きはもちろん計算や国の歴史についても学びます。動植物の育成を観察、記録したりもします。歌の授業もありましたね」
「歌?」
ルドさんが口を開きます。
「音楽じゃなくて? 歌?」
「はい。歌です。と言っても私は周りになじめないこともあって、みんなと一緒ではありませんでしたが。授業も院長と二人、もしくはすごく仲の良かった友達だけです」
「孤児院の開設者と、その時期は?」
「時期はわかりませんが。アンナ院長です。今でも代替わりしていません。私が生まれる前から開設されていたらしいです」
「その人はいくつ?」
「わかりません。……けど、見た目は五、六十前後?」
「それはまた大きい範囲だ」
ルドさんの茶々に私はムッとします。
「だって、見た目が七年前とほとんど変わっていないんですから!」
ブレントさんは私の情報を、全てまとめるというくらいの素早さで手帳に記入していきます。素早き、速筆!
一通り話すと、ルドさんとブレントさんは二人して手帳を眺めました。
「シャル、僕の仮説なんだけど」
確心が持てていないのか、悩むようではありましたがブレントさんは語ります。
「ここは歌竜を育成するための施設じゃないかと思うんだ」
……。
ん。
…………。
え。
………………。
「はいぃぃぃい!?」
「シャル、今すごく味のある顔してるから戻って戻って」
「うん」
ルドさんの証言にブレントさんの意見も加わり、私は急いで真顔になりました。
「どういうことですかっ」
「確証はないんだけどね。院長は歌竜かもしれない。十年近く経って容姿が変化しないのはよほど珍しい。歌竜は普通の人間より寿命が長く老いが遅いことで有名だからそう思った。歌の授業、っていうのは歌竜が魔力を使うときに歌を用いるからじゃないかな。この土地は近くに海もあるし、かつては海で生活していたという彼らにはいいだろうね」
「なっ!」
まさか。そんな。でも、もっともらしいことを言われているのでそんな気がしなくもないです。
「これは持ち帰って話し合うに値するな……。うん。はやくファイと合流しないと」
「ファイさん!?」
「誰それ」
私とルドさんの台詞が被りました。
「シャルが行方不明になってからいろいろなポイントに聖歌隊は派遣されたんだけど、そのうちの一人がファイ。僕の後輩。シャルは一度会ったことあるよね」
「はい。ガラの悪い神官さんですね!」
「うん。まあ、そのとおりなんだけど言い方」
でも、私の中で彼の印象は最悪なので。いきなりしょっ引かれて(悪いことはしていないのに!)、おまけに悪態つかれるし。
「何そいつ。シャルに近づく輩ってどうしてそんなに多いんだよ」
ルドさんが、後輩の教育はしっかりしろよなーとブレントさんに文句を言いました。
「監視対象に不用意に近づくのは問題なんだけど、あれでも色々あるから」
「俺はフリーだから楽だなあ。先輩後輩のしがらみもないし」
「騎士ってそういうものなんですか?」
「いや。俺は王立騎士団と主専用のどっちもやってるんだ。だから騎士団でもある程度自由がきく。俺が何したって責任は俺の主にいくから」
この人は何を笑顔でのたまっているのでしょうね。
「……そろそろ行こう」
手帳をポケットに入れたブレントさんに、その場の全員が賛同しました。
だだっ広いエントランスを抜ければ庭があり、その先に門があります。私達は物音を立ってないようこっそりと__。
「姫さん」
「ヒメ。見つけた」
玄関まで後わずかというところで、聞き覚えのある声に制止されます。
「ワタシ達、置いていくの?」
振り返ると、悲しそうに瞳を潤ませたシイカと…………。
「姫さん、そんなことないですよね?」
微笑むユーニ。
さっ、と人影が私の前に現れたと思うと、数秒もしないうちに不快な金属の摩擦音と、火花が散っていました。
「シャル、大丈夫?」
オーディンさんとの抗戦にも用いた体験を構えたルドさんが、余裕たっぷりなのか私に問いかけます。彼の剣は手入れのおかげではない、きらきらした淡い光を纏った刃にユーニの二刀を受けています。
「とっさに戦闘姿勢にはいるなんて、流石歌竜?」
ルドさんが薙ぎ払うのと同時にユーニは飛び退り、二人の間には若干の距離ができました。
「ルドさ__」
「あんたは心配しなくていいから」
言い切ったルドさんの横顔は、飄々としていました。
「俺は勝つから」




