三四章・脱出作戦、の前に何があります?
「シャル!」
「ブレントさん!」
駆けてきたブレントさんの手を、私ははしっ、と握りました。
「お久しぶりです!」
「うん! そうだね! 僕、すごく心配したよ!」
再会の勘当を、友人と分かち合う。なんて素敵なことでしょう。まあ、こ、ここ交際の申込をされた相手ではありますが………………まあ、ルドさんと一緒にうろうろしているより、よっぽど安心します。
一人より二人! 二人より三人! さんそうでもヨット! よつぶでもゴマシオ!
ごほん。
まあ、ぶっちゃけ。
ブレントさんが無事でよかったな、と。だって、丸腰かどうかはわからないですけど、一般人じゃないですか。その点、ルドさんなら、得体の知れない奇人の根城でうろうろしていても気になりませんけどね。だって、強いし。神様相手に戦っちゃうような人ですから。
それに、なんとなくわかるんです。
ルドさんは、絶対に負けないって。
「気がする」程度ですけどね!
ルドさんと合流してから、すごく複雑な沈黙が、私達の間に生じました。いつも、うざいくらい明るいルドさんが、さっぱり喋らないんですよ。ただ、静かにしているんです。
「あの。ルドさんは、一人で来たんですか?」
「……ああ。ブレントもいるよ」
「どこですか?」
「どっか」
「え」
曰く、侵入してすぐに置いてきたそうです。困っただろうな、ブレントさん。
「……」
「……」
それ以降、会話が成り立ちませんでした。
「えっと」
「……」
「ブレントさん、そのままで大丈夫ですか?」
「さあ?」
「さあ、って。武器(?)とか何か持ってないんですか」
「うん、多分ないね」
「え」
それはもう、困るとかそういう次元じゃない気がするんですがっ。大丈夫かな、ブレントさん。孤児院で死傷とか、ホラーすぎるのであり得ないとシンジたいんですけど、無事でいられる補償はないです!
「ルドさん」
「どうしたの、シャル」
「ブレントさんも見つけて、帰りましょうよ」
「そうだね」
私の提案に、ルドさんは頷きました。
「場所は、なんとなくわかるから」
そう言うルドさんの後に続いて、ただひたすらに、無言で行きました。
「シャル、大丈夫!? ルドに何かされなかったっ?」
ブレントさんは、さっきからそればっかりでした。孤児院の変人より、ルドさんの方が危険度高いってどういうことだ。騎士さんも信頼できない時代なんて世知辛すぎますよ。
「何もされてませ__」
ふ、と思い出すのは、ルドさんに向けられた視線。
「どうしたの、シャル? ま、まさか何かされたの!?」
「しないよ」
ルドさんが、呆れたようにブレントさんの頭をはたきました。
「そんなこと、するわけないだろ。変なことなんて」
「お前の変と僕の変はずれてるから、安心できない」
私の手を握ったままでブレントさんがルドさんを睨むのを、私はただ口をつぐんで眺めます。
悠長だなぁ。
なんて言うか、私達には危機感が足りないような気がしますね、うん。どんなに奇っ怪な出来事に遭遇しても、いまいち恐くないんんですよ。自分達がおかしな城にいて、すぐに脱出するべきだっていう自覚がないというか。
「うーん。ルドの証言は微妙に信用できないけど、シャルに何かあったわけでもなさそうだから、いいか」
小首を傾げつつ納得したそぶりのブレントさんは、私の手を離しました。
「よし! じゃあ、帰ろう」
私は、目を大きく見開いてブレントさんを見上げました。
「金魚草に、ですか!?」
「うん」
私はさっき離れたばかりのブレントさんの腕をとると、ぶんぶんと上下に振りました。ほとんど無意識ですが、すごく嬉しいんです!
私、実際にこうなってわかりましたが、数日でも金魚草を離れるとすごく怖いんです。お義父さんに会えないことも、コーヒーの豆を挽けないことも、お菓子を作れないことだって、常連の皆さんと話せないのも、すごく、嫌。
「シャル……」
私のおかしな行動に、ブレントさんは何もいわず、ただ微笑んでくれました。
「でさぁ」
あくびが混じった声で、ルドさんが口を開きました。
「ブレント、どうするつもり?」
「後輩を、街で待たせてる。聖歌隊のコネでいくつか方法を用意しているから」
「この数日で?」
ルドさんが、顔をしかめました。そう言えば、そうですね。っていうか、ここは王都から離れているはずなんですけど、どうしてすぐにここまで来られたのかな、私達。
「シャル、っていうか歌竜監視用の地点が多いんだ」
ブレントさんは、苦笑しました。
「って、歌竜監視用……。私一人のために、よくそかまでできますね、聖歌隊の皆さん」
「いや。君だけじゃないよ」
「はい?」
「この地帯には、歌竜が多く棲息していると、噂があるからね」
「は……?」




