三三章・合流しますは最高の味方です?
超遅刻です!
その割に短くて浅い話ですみません!
階段を、猛スピードで駆け下りました。院長はそれほど急いでいないのかゆっくりときているようです。それがわかったのは、遠くから院長の笑い声が聞こえるから。怖い!
ホラー小説か、って感じですよ。一度ニーナさんがデビューする前に書いていた小説達を読ませてもらったことがありますが、その中にあっためちゃ怖い怪奇モノを思い出します。
というように考えなしで階段を下りた私ですが、具体的にどうしようか全く決めていません。どうしよう。
薄れた記憶を手がかりに隠れられそうな場所を挙げていきますが、悠長に悩んでいる暇はありません。とりあえず、私が起きた部屋にでも行きましょう。あそこに服置いてきちゃったので、回収せねば!
それにしても、人生って凄まじいものですね。時を経て得体が知れなくなっていた院長。その人にグルな友に拉致され、連れてこられた孤児院。私の記憶が正しければ、ここはこんなカオスな場所じゃなかったんですけど。
ああああああ! もう!
どうして奇人変人が多いんですか! 意味わからん! 院長の毒素にやられちゃったとかですかね。その可能性が否めませんね。って、私だって危ないってことじゃないですか。嫌ですよ、ルドさんとかオーディンさんとか、あと、一応お義父さんとかブレントさんも入るかな? まあ、そのあたりの人みたいになるのは勘弁願いたいです、むしろ却下です。
というか、本当に静かです。多分、院長のターゲットは私。で、その標的がうろうろしているのに院長の味方である孤児のみんなと職員が出てきて引っ捕らえようとしない、という事実にかなり不安にさせられます。孤児院の全員で行く散歩がありますが、今がたまたまそのとき、とか? 確率的にそのせんはないと思った方がいいでしょう。じゃあ、実は他の部屋で息を潜めている的な? なら、もしかして……まさか…………!
そういう仕様?
決まった人だけが私を追いかけて、残りは影で見ている、みたいな!
…………………。
私、追い詰められる趣味とかないんですけど。別の人にやっちゃってください。私は喜劇とか向いてないんでリアクション芸とか期待されても応えられる自信ありませんよ。
なんて、現実逃避はほどほどにして。
目的の階に辿り着いた私はとても珍妙な格好をしていました。「抜き足差し足忍び足」っていうらしいですけどね?
昔…何歳の頃ですかね。お義父さんが旅行のお土産として仕入れてきたニホンの絵に、ニンジャっていう黒装束の人達が描かれていました。で、ポーズがヘンテコでして。それが密偵を生業とする彼らが足音を殺すために使用したものだとか。
……信憑性ないですけどね! だって、明らかにおかしいですから、あの絵! あんなんで敵に見つかったらきっと逃げられませんよ。というか私なら、まず恥ずかしくてフリーズしてしまうでしょう。察するに、子ども向けだからおもしろおかしいテイストを加えられたのでしょう。そうであってほしい、ニホン!
じゃなくて。
「あほらしっ」
自分でやっといてバカバカしくなった私は、小声で言い捨てぶんっと腕を振ります。特に意味のない行動ですけど、今までの恥を振り払うような意味があるのでしょう。なんか自分で自分を分析するって変だな!
とりあえず足音を極力抑えて私が目覚めた部屋へ。ドアが開いていたし、場所も記憶していたので心配はないですけど、もし中に誰かいたら? シイカは小柄だし逃げられる気もするけど、院長の豹変っぷりを見たらすっごい危険に感じられるし、ユーニは優しそうだから手荒なことはしないだろうけど、体格差もあるし、力で言ったら圧倒的に私の負けです。いつも店の仕事はなんでもやっているのに全然筋肉つかないんですよねぇ…はぁ。
限りなく部屋の近くまで来たところで壁に張り付き、ドアの開いた部分から中を覗き込みます。見える範囲には誰もいません。よし、ちゃっちゃと服だけ手に入れて帰っちゃいましょう!!
ドアは出て行ったときに開けていたので、するりと私は入れました。だから、ノブを挽く必要もありません。あ、そう言えば、がちゃがちゃやるのが一時期すごい面倒、家のドアを全部開けていたことがありました。年頃の娘のすることじゃないね、とお義父さんに言われてやめました。あのときの私、どんだけものぐさだったんだ。
「ぎゃぁっ!」
突然でした。片手で口を塞がれ、片手で腕を掴まれ後ろに引き寄せられます。ぽす、と軽い音がして私はいきなり意味のわからん行動にでた人物に倒れ込んでしまいました。まあ、後ろ向きでブレーキかけろとか無理なことですけどね。
「…シャルじゃん」
「はへぇ?」(訳:あれ?)
なんか、聞き覚えがあります。ううん。違う。私は、この人の声を聞き間違えるなんてことはありません。多分、どうしてか不明ですけど、絶対って言えるくらいそう思えてしまう。
口許にあった手が外れる前に、もたれかかった状態のまま相手を見上げました。
「ルドさん!?」
「うん、俺…」
いつもの調子の声でしたが。ルドさんは心なしか驚いているようでした。瞬きが多かったし、私を見下ろす瞳が少し丸かったです。
「よかった」
左手で私の腕を掴んだまま、右手を額に当て息を吐くルドさん。ひょっとしなくても、私の無事に安心してくれた? …自分のことを心配してくれている人がいるって嬉しいことですね。
「ルドさん、ありがとうございま__」
と、人がお礼を言っている最中だというのにルドさんは素早くこちらの行動を抑えました。つまり剥ぐです。
「何するんですかっ」
必至でするりと逃げ、睨み付けました。
「……?」
頭の中で展開されていた私の文句が、全て消え失せました。きっ、と視線を鋭くする私を、安堵したように、眩しそうに、でも、恐れたように見るルドさんの青い瞳を見てしまったんです。だから、その視線だけが気になってしまったから。
どうしてでしょう。
お義父さんも、ルドさんも、どうして私を怯えが混じったような色で見るんですか?
私はまだ。
何も知らない。
ブレントは次回あたりで出るかと…。




