二六章・これは襲撃ですよね!?
「はっ」
唾棄する、とはこういう感じでしょうか。ものすご〜く、様になった「はっ」でした。きっとこの方はいつも何かに対してこういうリアクションをとっているのでしょうか?
ああ、それが事実ならその気持ちわかりますよ。最近の世の中は意味わからないことだらけでイライラしますからね。
「どうしてオレがお前の指図を受けなきいけないんだ。大体、オレがオレの姫さんに触れちゃいけない理由なんてこの世の中には微塵もない!」
ドン! と言い切った男性に、ルドさんは眉をひそめる。
「え、何、こいつ電波野郎なわけ?」
「さぁ?」
いきなり現れていきなり跪いていきなり姫さん呼びしてくる人をまともとはいいにくいですけどね。あ、前二つはブレントさんの行動と同じですね!
「…この方の言うとおり」
今まで黙っていたもう一人ーー私の方ほどの身長の女の子ーーが、頷きました。「この方」とはルドさんのことでしょうか。
「ユーニはおかしい。ヒメはユーニのものじゃない。ワタシ達のヒメ」
この子絶対、主張することが間違ってますよ。
「僕、一つだけ確信を持って言えることがある」
ブレントさんがぽつりと、
「シャルの知人は変な奴が多いね?」
「この二人がワタシの知人だという証拠はまだないですよ…」
「ていうかそれ、自分も変人だって言ってるようなもんじゃん」
私達がこそこそ話していると、不快そうな咳払いが聞こえました。
「姫さん。初対面の相手をいきなり突き離してくるような野蛮な輩と親しくするのはどうかと思いますよ」
姫さん…あ、私に向かっての言葉だったんですね。野蛮な輩…ルドさんですか。確かにいきなり人のことを突き放すのはどうかと思いますけど、そのおかげで私は混乱が止まったのでなんとも言えません。
「あの…」
そろそろ気になってきたので、私は切り出すことにしました。
「あなた方は、どちら様ですか?」
すると、二人は黙って、しばらくこちらを凝視していました。
えっと…なんでしょう、この言いようのない気まずさ。最近よく気まずい状況に陥りますけど今日は一位を争うくらい気まずいかもです。ただ見つめられるだけ、って。
そんな沈黙を破ったのは、男性ーーユーニさんとおっしゃるようですーーでした。
「はぁぁぁぁ」
長くて深い溜息を吐ききると、ぐしゃぐしゃと頭を掻きました。藍の髪が光を受けてきらきらと輝きました。
「あんのオバサマ…余計なことしやがって」
すごく忌々しげに呟いた言葉、私にはよく聞こえませんでした。
「ヒメ…本当に私達のこと覚えていないの?」
上目づかいで見上げてくる女の子。とっても可愛らしいですが、彼女の期待に応えることはできない私です。だって、覚えていないものは覚えていないんですから!
「すみません、覚えてないです」
ゆるりと首を横に振ると、とても哀しそうな顔をされました。うぅ、なんだか自分がふがいなく思えちゃうくらい可愛い。
「それは残念。でも、ヒメはワタシ達のヒメだから安心して」
「…」
今度ばかりはキュン、ってなりませんでした。どの要素で安心しろと!? 今までの流れで不安になることはあれど、安心できることはさっぱり見あたりませんから!
うわぁ、この子も変人さんと同類か、という私の視線には気づかず、女の子は手を握ってきます。瞳がすごい純粋で無垢な感じですけど、純真だからいいってもんじゃないですよ。
「う〜ん。でも、思い出してもらった方が都合がいいんだよなぁ」
「無粋」
ぼそりと漏らしたユーニさんは、女の子に脛を蹴られていました。めちゃ痛そうでした。
「姫さん」
脚をさすりながらユーニさんが言いました。
「オレの名前がユーニ、こいつの名前がシイカ」
女の子はシイカちゃんというんですね。
「それでも、思い出せませんか?」
「…すみません」
こう言うほかに、ありません。
お二方が本当に私の知り合いならば思い出したいです。それでも思い出せないんですから仕方がありません。
「そう、ですか」
ユーニさんは落ち込んだような表情でしたが、こちらを見るとにっこり笑いました。
「シイカじゃないですけど、姫さんが生きていて、オレのの前にいてくれれば、何も変わりません」
言っていることが全然理解できません。けど。でも。ユーニさんの言葉は私を安心させてくれる、妙なぬくもりがありました。
「ユーニさ…」
私は、違和感に気づきました。ユーニさん、って呼び方が、いまいちしっくりこないんです。ついでに言えば、シイカちゃん、っていうのも変な感じです。
「そうだ…うん」
私は一人で納得し、二人に向き合うと行って見ました。
「ユーニ、シイカ」
あ、驚いちゃうくらい馴染みますね。前からずっと使っていた呼び名みたいで。
「ヒメ、思い出したの!?」
私の正面にいたシイカちゃんが痛いくらいの力で私の手を握りました。彼女に瞳の色は、歓喜と高揚。
「え、いや」
思い出したって…、と戸惑うを私をよそに、二人は喜び合います。
「ユーニ、ユーニ! ヒメがっ!」
「ああ。よかった」
何がいいんでしょう。私は中心人物的なポジション(と思われる)のに、一番置いてけぼりなんですが。
「姫さんの記憶は戻るはずだ」
「うん!」
えー。なんかそこはかとなく面倒そうなこの人達の間で話がまとまりつつありますねぇ。うっわ、嫌なよーかーんー。
「じゃあ姫さん、行きましょう」
ユーニさんが私の手を握りました。いや、掴んだ、という方が正しいですかね。私を抱きかかえているルドさんが避けようとしたの結果、そうなっちゃいました。
なんだろう。そろそろ嫌な予感がピークに達してきましたよ? これで呑気に「私達の組み合わせ、変な画だろうなぁ」なんて思っていられるほど私は楽観的ではありません!
「ねぇ、シャルをどこに連れて行くつもりなの?」
ルドさんが発する気だるげな声。でも、怒っているんだなとわかります。
「お前は関係ない」
ぎろりとルドさんを一瞥したものの、私にはにっこりスマイルを向けてユーニさんは言います。
「少し無理を強いてしまいますが、これも仕方ないんです。お許しください」
無理を強いると言われて「はい、了承しました」って言えるほど今の状況わかってません。そういう台詞は詳しい説明の後にですねーー
ボン!
私の思考は、その音で遮られました。気づけば店内は灰色の煙で満たされています。なんか有害そう! これ、吸っちゃって大丈夫なやつですか?
とか思っていると、背後で何かがずるりと崩れ落ちました。
背後。私の後ろにいるのは、ルドさんです。
回されていた腕が私から離れたのは、わかりました。
「シャル、平気?」
焦ったようなブレントさんの声。
「わ、私は平気です。でもルドさんが…」
腕が離れただけ。そう思いたいですが、違うような気がします。なんだか、嫌な感じ。不快感が足下からじわじわとせり上がって、今にも私を飲み込んでしまいそうな。不安に押しつぶされてしまいそうな。
「今そっちに行く、から」
ブレントさんの声がしますでも、どこから聞こえているんでしょう。視界が灰色で埋め尽くされているだけで、こんなにも心もとないとは想像もしませんでした。
どうしよう。今、私はどうしればいいんでしょう。
激しくなる動悸を聞こえないふりをして、なんとか冷静さを取り戻します。
ですが。
「ごめんなさい、ヒメ」
え?
尋ねる時間もありませんでした。ただ、首に鋭い衝撃が走りーー私は意識を手放すこととなりました。
最後に感じたのは、背負われる感覚。そして、伸ばされた手。
掴まないと、と思うのに身体がいうことをきかなくて。
「シャル…」
その声がルドさんのものだと理解したのは、目覚めた後となりました、
次回、幕間かもしれません。
もしかしたら、三人称かもしれません。
又は、シャルが出てこないかもしれません。
未定ですが、お付き合いください。




