幕間5・その悩みは大きすぎるので彼女は困る
彼女は、悩んでいた。
彼女には家族がいる。
全員と血が繋がっているわけではないが、彼女はわが子達を愛していたし、自分でも慈しんで育てていると思っている。
最初は、一族の中で肉親がいない子供を養うつもりだった。だが、気がつけば路頭に迷っている子供など、無関係の子供まで抱え込んでいた。だから湯水のようにあるわけではないにしろ、それなりにある資産で孤児院を始めることにしたのだ。
社会に出ても苦労しないように一通りの教養は身につけさせ、世に送り出す。大変だったそれも成長したかつての子供達の協力によって楽になり、彼女はこんな日々がずっと続けばいいと思うようになっていた。
そんな日常にある少女が紛れ込んでから、彼女の日々は一変することになる。
その少女は、藍色を織り交ぜた黒髪をなびかせ、孤児院の前に立っていた。見覚えのない人物を不審者だと子供の一人が報告してきたので駆けつけた彼女を、深海を切り取った瞳で真っ直ぐ見据えている。
彼女よりずっとずっと年下の二十歳に届いているかもわからない少女は、院長が誰かを確認した後、真剣な声音で告げた。
『この子を育てていただけないでしょうか』
少女が抱えていたのは、真珠のように白いおくるみにくるまれた赤ん坊だった。
『今頼れるのはここしか、貴女しか、いません。私ではこの子を安全に育てられません。だから…だからっ……!』
ずい、と抱えた赤ん坊を差し出す少女は今にも泣きそうだった。もしかしたら、家族がいないのかもしれない。ならば、こんな若い少女が一人で赤ん坊を育てるのは大変だろう。
同情した彼女は赤ん坊を受け取り、責任を持って育てると約束した。
少女の手から離れた赤ん坊は彼女の腕の中で泣き叫んだ。それはただ赤ん坊だから、というだけではなく、悲しいから、というように思えた。
『ごめんね』
少女はどうしようもない、と言いたげな笑みを浮かべながら、まだ生えてきたばかりの赤ん坊の前髪を整えてやる。
『待っていてね。貴女が私にくれた希望の「灯り」を、貴女にもあげるから』
少女は泣きたいだろうに微笑した。それから視線を彼女に移し、頭を下げる。
『どうか、よろしくお願いします』
切なる願い、といった雰囲気だったからだろうか? 振り返ってみると、自分でも肩入れをしすぎたかもしれないというくらいに、彼女はその赤ん坊を可愛がった。大人になっても困らないように、なるべく側にいてたくさんのことを教えてきた。
それが吉と出たか凶と出たか、未だに彼女はわかっていない。
ただ、わかっているのは十七年前に赤ん坊を託してきた少女が彼女の一族の長であったという、衝撃的な事実だけ。
さて。
話は戻るが、彼女には悩みがある。
赤ん坊が無事に育ったのはいいことだが、悩みの種も一緒に育ってしまったのが問題だ。
気まぐれで彼女は、育てた子どもの中で一番一族の本家に近い子供達を赤ん坊と共いさせたのだが、育った子供達は手に負えない問題児であった。
かつての孤児が成長し、彼らを引き取ったことにより孤児院は随分落ち着いたが、一時はどうなることかという風だった。けれど、もういない。ずっと平和が続く……そう、思っていたのに。
戻ってきてしまったのだ。とんでもない、野望を抱いて。
「はぁ…」
片眼鏡越しに見た綺麗な景色は現実逃避にもってこいだが、悩みと真剣に向き合うには向いていない。
「はあぁぁ…」
より一層深い溜息を吐き出し、彼女は目をつむった。
この悩みは、手に負えない。
次回ぶっ壊します宣言のしばらく後、やっと「幕間忘れた!」と気がつきました。
なのでぶっ壊すのは次話です。
上手くやりたいです。




