十七章・舌打ちする人多いです
神様に申し訳ありません、なアレンジが多いですが、見逃してください。
私、思うんですよ。オーディンさんってかなり好戦的なんじゃないか、って。
私は目の前で戦っているオーディンさんとバルドルさんを見ました。
…オーディンさん強いですよ。
バルドルさんは、少しずつですが、確実に体力を削られていますし、押されています。見た目から察せますけど、バルドルさんは体育会系じゃないですよね〜。おまけに裁判官なら実戦なんて縁が遠いですよね。
「ローブが邪魔だな。脱ぐか」
少し下がってオーディンさんがローブを脱ぎました。……その下は、見事に黒ずくめでした。黒好きだな! 日焼けしたくないんでしょうかね。女子か! あんた女子じゃねぇだろ! でも、オーディンさんは私と身長が変わらないくらいなので、どんな格好をしても美貌と相まって中性的に見えます。女子になるのもいいかもしれませんね…。
とかいう隙に、トールさんがなにやら呟きながら億劫そうに手を掲げました。
「では、行くぞ。覚悟しろ、不届き物!」
「誰がだ! このクソーー」
二人はかけ、剣を交えようとしたそのときでした。
「静まれぃ、この馬鹿者共が」
そのかけ声と共に音が轟きます。トールさんが何かやったのでしょうか? 呟きからわずか数秒のことです。ですから、バルドルさんの言葉も続きました。
「親父」
その一言が放たれた後、二人の間に雷が落ちました。ぜっつみょ〜う♪
それよりですね、バルドルさんの言葉ですよ。…わーお? だって、「クソ」の続きが「親父」、ですよ。続けてみれば、「クソ親父」。父親を罵るときによく用いられる、スタンダードかつ直球的な罵倒ですね。
じゃなくて!
誰が親父なんでしょう? このかんじでは、オーディン、さん……?
「愚か者、民間人を目の前にして何をやっている。ロキですら大人しくしておったのに…まったく」
トールさんのオーディンさん達への呼称が「馬鹿者」から「愚か者」になっていますが、ロキさんは何もつっこまずにどや顔で「まあね〜」。
「そうだよ。俺が介入したらもっと面白いことになってしばらく俺が退屈しなくてーーうおっ、やめて! オーディン、切っ先向けないでっ!」
むかつくオーディンさんの気持ちは分からないでもないですよ。だって、ロキさんはネタにする気満々でしょうから。
「お前…」
オーディンさんは低く言いました。
「ロキか?」
今更っすか。今、気がつきましたか。全く知らない人相手に戦闘してたんですか…。
「オーディンさん、普通の人だったら「神様なのでこの人の珍騒動見逃してください」じゃ、すみませんよ?」
「いや、戦っていると我を忘れてしまう。おまけに水曜は私の日だ、力が満ちてくるからな…久々に戦いたかった…」
「戦いたかった、って…」
「結果的に我が息子と友神なのだから大丈夫だ」
我が息子と友人……。いや、友人ではないでしょうね。友神、でしょうね。ということは、この人達も神様ですか…ははぁん。私の友人だと名乗ったのもそういうことですね。私にアリア様の生まれ変わり疑惑があるからですね。
「っていうかオーディンさん、お子さんいたんですか…」
バルドルさんはオーディンさんに似ていなーーあ、ちょっっと面影あるかもしれません。でもなぁ。身長はどう見てもオーディンさんより高いしなぁ。神様だからなぁ。人間でもそういうのあるしなぁ。
「子供と言っても昔の話だぞ?」
「縁、切ったんですか?」
「違う。神には神のシステムがあるのだ」
カチン、とサーベルを鞘に収め、オーディンさんはめんどくさそうにバルドルさんを見ます。
「バルドル。説明してくれないか? 私はヘタでな」
「知ってる」
いつの間にか剣が手元からなくなっている(というかどこから出した物なんでしょう)バルドルさんは、前に出てきました。
「神だって寿命があります。寿命がきたら一度消えて、寿命を迎えて気体となった古い神と集まりあい、新しく生まれます。高位の神なら集まり会った神の中心角になり、その人生を歩める。前世の記憶もありますが、関係性はリセットです。まあ、皆そんなの面倒だと言っていますし僕もそう思うのでオーディンとは親子として接しています。ですが、互いにもう別の神として生まれている身ですから、父がどこの誰に懸想して添い遂げようと邪魔する義理はありません。複雑な心境にはなるでしょうが」
神様って深いんですね。よく分からないですけど。ああ、後でブレントさんに詳しい話を聞かなければ。
「そう言えばお前達、どうしてシャルロットのことを知っていたのだ?」
「フギンとムニンですよ。最近貴方が下界にいて相手をしてくれないと寂しがっていましたよ」
「フギンと…ムニン? オーディンさんの恋人さんですか?」
「ま、まさかっ」
バルドルさんが激しく頭を振って否定します。貴方の話じゃないでしょうに。
「そうだ。あいつらは恋人でもなんでもなく、ただの付き添い鴉だ」
付き添い鴉とはまた新しい。
「そして恋人なのはバルドルの方だぞ」
「え…二股ですか」
まじ引くわー的な目をした私に弁解しようとしてあたふたするバルドルさん。
「ち、違っ! 恋人なんか、恐れ多くてっ…そのっ…片想いで、僕の…それにムニンは男ですから好きにはなりませんにょ」
にょ。噛みましたね、バルドルさん!
「つまり、バルドルさんはフギンさんに恋をしている、と?」
「そ、そそそそのようにはっきりとは…」
顔真っ赤です。この人いじるの楽しいですね。
「シャルロットさん…そのようにからかうのは控えていただけませんか…?」
「でも、友達になるにはこういった会話も重要ですよ」
「シャルちゃんナイス〜! あのねぇ、フギンもまんざらじゃない感じなんだよ、シャルちゃん」
「マジですか? それは…面白いですね」
わたしのからかいに便乗してきたロキさんの顔。ものすっごいイイ笑顔。人をいじることが好きなんでしょうね。
「おい。貴様ら。そろそろ年少の者をいたわってやれ。色恋でからかわれるのは結構恥ずかしいのだろう」
トールさんの制止で仕方なくロキさんは黙ります。トールさんはオーディンさんみたいに時代がかった口調ですが、彼の方が常識神っぽいですね。
「トールさん…ありがとうございます。父さん、そう簡単に人の個人情報を漏らさないでください」
切実な願いですね。
「申し訳ないが」
私達がわいわいやっていると、声がかかりました
「貴方達を連行させてもらう。大人しく私の言うことを聞いてくれ」
振り返ればそこには神官様? どうしてこんなところーーこんなところというのもなんですが、金魚草のある場所は、とても神官が来るような場所ではありません。
というか、「連行させてもらう」って言ったのこの人ですか?
「ちっ。敬語など面倒なだけだ! お前ら、付いてこい。四の五の言う奴は、ぶった切るぞ!」
なんですか、このーーガラの悪い神官さん!?
オーディンならグングニル使えよ、と今更気がつきました。
気をつけます。




