十五章・旧友は急に訪れるものですか?
ある日、お義父さんが言いました。
「ごめん。僕はお前に謝らないといけない」
これ以上何かあるのかこのクソ親父ーーゲフンゲフンッ。お義父さんのことは、本当に憧れていますよ? いや、ホントマジで。
「僕、実は三十六歳なんだ」
「はあ…」
「さばをよんでいたんだよ!」
「はあ…」
正直、「だから?」ですよ。本人は三十三だと言っていますが、初めて会った十年前には二十六だと言っていましたから、今そんなこと言われても特にどうも思わなくって。っていうか見た目だけは二十代前半なので実年齢とかあんまり気にならないですよ。
「まだあってーー」
「お義父さん、それはどうでもいいので仕事してよ。珍しくお客さんが多いんだから」
「うぅん。面倒だね」
お義父さんはため息をついて店の中を見渡しました。今日は珍しく、お客さんが多いんです。カウンターにオーディンさんとデビットさん、仕切り席にルドさんとブレントさん、そしてニーナさん。この方達は全員知り合いですが、他にもいました。仕切り席の一番奥にオレンジ色の髪の男性と、黒髪の精悍な顔つきのお客様がいらっしゃいました。
「すみません」
びしっと手を挙げながら、黒髪さんが言いました。
「はい、少々お待ちください」
私は注文を書き留めておくための紙とペンを手に、私は新しいお客様のいる席に向かいました。
「ブレンドティー」
「と、ホットコーヒーとアップルパイ」
黒髪のお客様の横からにょ、っとオレンジ髪のお客様。
「ブレンドティ−、ホットコーヒー。それとアップルパイですね。ご注文は以上でよろしいでしょうか」
「うん。いいよー」
オレンジ髪のお客様が、不自然なほどにこにこした顔で言いました。色々気になることがあるのですが、私情ははさまないようにしているので少々お待ちくださいと言ってその場を離れます。
カランコロン。
新しいお客様のようです。デビットさんでしょうか。
私は、ずっとデビットさんに会いたいと思っていました。……あ、恋愛的なのじゃないですよ! ルドさんとオーディンさんのやる必要があったのか分からない乱闘のときに、何か知ったような素振りを見せていたのでそれについて聞きたいと思ったのです。お義父さんはのらりくらりとしていてよく分かりませんけど、私はまだ知らないことがたくさんあるようですし、そのままでいるのも歯痒いのでデビットさんに聞いてみたいと思っていたのですがーー来客は、別人のようですね。
金髪、というか銀髪? みたいな髪色の男性でした。オレンジ髪さんより若い、でしょうか。どちらかといえば黒髪さんと同年代に思えました。うわっ、まつげ白くてキラキラしてる! 女子より綺麗じゃないですか!?
「あの、トールかロキという客はいますか?」
「はい?」
「待ち合わせをしているんですけど」
「ああ、ごっめんねぇ〜!」
ぶんぶんと手を振りながらやって来たのは赤髪さん。
「ロキ…お前、シャルロットさんに説明しないといけないじゃないか。
「あれれ? 説明したつもりだったんだけど」
美人さんは怪訝な顔でオレンジ髪さんことロキさんを見た後、確認するように私を見ました。私は慌てて首を横に振ります。
「…ロキ?」
「あはは」
「お前はまだ嘘をつく癖が抜けていないみたいだな」
初対面の人間を巻き込む嘘つきとか…はた迷惑だな!
「すみませんでした、ご迷惑をおかけして」
「あ、いえ」
美人さんは良い人かもしれません。
「シャルちゃん、シャルちゃん、こいつは俺達と同席なんだけど、アイスティー追加していい?」
「はい。少々お待ちください」
私は一礼して厨房に入ります。中ではちゃんとお義父さんが茶葉の確認をしていました。
「お義父さん、注文が入ったんだけどーー」
お義父さんに注文を伝えます。
あ。
ロキさんは、どうして私の名前を知っていたのでしょう。彼らが来てからは一度もシャルと呼ばれていないはずですが……。
「お待たせいたしました」
私はロキさん達のテーブルに品物を置きました。
「では」
「あ、待ってください」
美人さんがひそめた声で言いました。
「お冷やのおかわりを」
差し出されたのはコップ。ですが、その下にはコースターがありました。
「これ、は…」
「くれぐれも、ご内密に。黒髪の騎士様には、絶対に見せないでいただきたい」
黒髪の騎士…ルドさんでしょう。考えなくても分かります。
「……では、おかわりをお持ちします」
聖女だ竜だと色々言われてかなり混乱していますが、自分が政府に観察されていることくらいは理解しています。ですのでこのコースターに何かあっても私に大きな被害が出ることはないでしょう。きっと。
まあ、ぶっちゃけ私の身なんていいんですよ。一度捨てようと思った身体なのでどうなろうと構いません。だからって死んでもいいというわけではありませんが。金魚草が崩壊しなきゃ…いいですかね。
私はコースターをエプロンのオポケットに滑り込ませ、厨房に行きました。そして、レモン水を注いでテーブルに運ぶとルドさんの口説き文句(?)を無視してお義父さんと厨房の仕事を代わってもらいました。
『シャルロット・ブランジェ様
僕達のことを、覚えているでしょうか? 急にやって来て怪しいと思われるでしょうが、旧友です。
というか、まだ貴女の友人でいられているのなら、僕達はとても嬉しく思います。
話があるので閉店後に裏口でお会いしたいと思います。よろしければ、会計の際にこのコースターをお渡しください、
バルドル』
友人。私の友人で彼らのような人に心当たりはありません。ですが、十年前に会った人なら? 私も、あの頃には友人がいました。どんな人たちかは覚えていないけれど、いつもいつもイsっよにいて、遊んでいたはず…。
身体が震えます。
うろ覚えだった過去が明確になるのではないかという期待に、笑ってしまいそうになります。それとともに禁忌に触れるような恐怖もあって。
ああ、私はどうなっていくのでしょう?




