十三章・問題があるのです
「オーディンさんが神様だという証拠を見せてください!」
「往生際が悪いなぁ」
ルドさんの言うことは真っ当かもしれませんが、自分が聖女だの竜だの言われて「はい、そうですか」ってなるわけないじゃないですかぁ! こっちは混乱しすぎて涙目なんです!
「うぉっ。泣かなくてもいいじゃん」
ルドさんが呆れてるのか動揺しているのか、狼狽します。なんか思春期の娘と上手く接することのできない父親(お義父さんも一時期そんな風になってました)みたいですね。
「あぁ、もう! 涙拭け! あとがつくから」
上着のポケットから乱暴にハンカチを取り出してルドさんが渡してくれます。
「ほら」
触られたらグーパン(グーでパンチ)が飛んでくることをよく理解していますね。さっすが〜!
「洗って返しますね」
「いい、いい。安物だし」
私も食い下がりましたが、ついには折れて厚意に甘えることにしました。
「私が神だという証拠、か。この前も見せたように窓ガラスを割って見せたじゃないか。お前も私がやったことだと分かっていたみたいだからてっきり思い出したと」
「あれはーー直感(?)ですよ!」
「それが思い出した証拠じゃないのか?」
うぐっ。
「て、っていうか、思い出したとか思い出さないとかってなんですか? 私、ただの末裔じゃないんですか!?」
すると、顔を見合わせる一同。それからみんなはオーディンさんに視線を集中。
「俺、知らないけど」
「僕も知らないなぁ」
「う〜ん?」
みんな初耳かよ。
「またもや私の勘違いか? シャルロット…でいいか?」
「ええ」
「シャルロットは血筋よりもっと強い共通点があったから転生した姿だとばかり」
て、転生。またファンタジックな言葉が飛び出しましたよ。
「転生云々は考えてもいなかったな。ブレント、調べた方がいいんじゃない?」
「分かってる。至急、嘆願書を提出するとしよう」
あ、プロフェッショナルですね! よく分かりませんけど、「その道」のプロっぽい会話だ〜! ルドさんが真面目に見えた〜。…その道って…神の、道……? すっげぇ胡散臭いですね。
「そこまで信用できないのなら、我が親友を見せよう」
しん…ゆう。と、私が怪訝な目をしている間に外に出るオーディンさん。
「えっと、親友、って神様でしょうか? 降臨するシーンを見せられる、とか?」
「天変地異とか起こされたらシャレにもならない」
「一般人に見えないように細工とかしてあるといいけど」
「嫌だなぁ。厄介ごとは避けたいねぇ、シャルロット?」
「うん、お義父さん」
そんなこんなで。
カランコロン。
ドアのベルが鳴り、ぱかぱかという蹄の音。
(馬?)
(馬だろうな)
(馬…)
(蹄で店が壊れないと良いねぇ)
多分、みんなこんな感じだと思いますよ。
「スレイプニル、なんだ? 入りにくいか?」
しばしの沈黙。そして
「ヒヒーン」
いななき。
「ほらほら! 皆、注目するといい。私の愛馬、スレイプニルだ!」
「……」
意味もなく拍手する私。白々しい音だけが喫茶店に響きました。
「スレイプニルはな、「馬のうち最高のもの」とまで賞される素晴らしき軍馬だ! 普通の馬とは蔵場物にならないほど素早く、空も飛べる。…まあ、脚が八本あるのは仕方がない…。神の子であるという点ではシャルロットとも共通しているな! な!?
「つまり、以上に速くて空も飛べる八本脚の馬、てことですよね」
身も蓋もない私の言葉により、沈黙がリターン。
「シャル…」
ブレントさんが「否定しきれないけど…でもなぁ」みたいな表情で私を呼びます。
「だって、この馬と一緒にされるのはちょっと」
ぱかぱかぱかぱか。
うるさいな。
「今までスレイプニルにのって降臨していたのだが」
「別の交通手段を見つけてください」
「では、フレキとゲリに乗るか。少々座り心地が悪いが…致し方ない」
「と」ということは、二匹(頭・羽)?
「その…フレキとゲリというのは」
「狼だが。少々食い過ぎで、私は最近ワインしか飲んでいない。だが、あいつらは食べさせれば強いから便利だ」
「やめてください」
八本脚の馬とか空腹の狼とか、街で見かけたら一大パニックですよ。それの行き先が金魚草とか、もっとヤバイですよ。
「そうだね。僕はことを荒立てないために金魚草をつくったんだから、わざわざ騒動を起こすのは嫌だな」
お義父さんはゆったりとした余裕の笑みで言います。笑みどころか、どこからか取り出した銀のネックレスをいじっています。和服とミスマッチ!
それに、とお義父さんは続けました。
「決定権は僕の手の内だ」
カチャカチャと鳴っていた音が止みました。お義父さんがネックレスをしまったようです。どこに? と思いましたが、袂はがっぽりスペースがあるのでそのあたりでしょう。あ、私、和服については少し知ってますよ!
その後、オーディンさんはしょんぼりしながらも、こっそり来店するというのを認めました。
「とりあえず、スレイプニル? とかのおかげでオーディンくんが神であることは照明されたのだが」
お義父さんは、堪忍したらどうだ、と言いたいのでしょう。いや、でもねぇ。
「本人に魔術を使わせるのが一番手っ取り早いんじゃないか?」
ルドさんがあくびをしながらぽんぽん、と私の頭を撫で叩きます(撫でられたような叩かれたような感じだったので)。
「まあ、そうだね。よし、シャルロット。魔術を使ってごらん」
「いや。いやいやいやいやいやいやいやいや。使ってごらん、で使えたら私、こんな平凡に十七年も生きてないよ!」
「そうだよね?」
主張変わるな、お義父さん! 私、疲れました。この会話やってると本当に疲れます。
「アリアは歌って魔術を使っていたが? シャルロットも歌竜であるのならば歌えばいいだろう」
「…」
私は黙りこくってしまいます。なんと説明すれば良いのか分からなくて。
「シャル、歌えないんだよ」
ルドさんが代弁してくれたことは、事実です。
私、歌竜(仮定)なのに、歌が歌えないんです。




