十二章・神は案外無慈悲です?
アップする少し前に改稿した二章を読んでから、どうぞ。二章に新たに加えたセリフがキーになるので(キーを付け足すな、ってかんじですよね。すみません!)。
「りゅ…う…?」
私、が…竜? 私が、竜? 大事なことなので二回言いました。
「これはショックが強いかと思って黙ってたんだけど」
「すみません。俺が本を預けてしまったから…判断ミスです」
「いや。僕もシャルロットの性格を忘れていたよ」
互いに謝るお義父さんとブレントさん。議論がヒートアップ中のルドさんとオーディンさん。困惑する私。
カオス!
「普段は大人しいけど、まだまだ好奇心あふれる子供なのに…!」
未だに悔いるお義父さん。なんか、その言葉は凄く癪なんですけど。
「とりあえず、「歌竜」? とやらについての説明を要求します。それから、全部話してもらったら」
私は好奇心に動かされていました。ずっと大人しくしていた反動か、破天荒人間達の影響かは分かりません。けれど、自分の身の上を知りたいという真面目な心も失ってはいなくて。
「私が聖女で歌竜であるという明確な根拠を示してください」
これ、ドッキリとかだったら許しませんよ。
ブレントさんの説明が長かったので要約しますと、歌竜というのは歌声に魔力を宿す希有な動物。その名のとおり竜で、鱗は宝石のように煌めき、瞳は水晶のような魅力を秘める…そうです。また、深海の中に竜の集落を築いているらしく、その近くを通りかかった船は美声に酔いしれて舵を取るのも忘れ、難破するとかしないとか。
ちなみに魔力というのは生物が生まれ持っている(基本的には小指のつめ半分ほどしかないそうです)見えない力で、それを大量に持っている人間が魔術師や魔道士(とにかく「魔」のつく職についている人の総称で)(それくらいは知っています)慣れるみたいです。あ、大量と言っても小指のつめ半分と比べたらの話なので「その道」の人からしたら魔力の量で差別が生まれたりとかもあるようです。
「僕は魔道士の行動を調査する、国家の機密部隊の一人だ。一応、これが正装」
ブレントさんはケープを少し摘んで掲げて見せます。
「でもそれ、神官の服じゃないですか?」
「うん…まあ、そうなんだ。表向きには魔道士と国家は良い付き合いをしていることになっているけど、国の方は常に相手を警戒している。そうういうの知られたくはないから」
おおぅ。国の仄暗い一面を垣間見てしまった気がしますよ? 私、ちょっと危ないところに片足突っ込んでるんじゃ……いえ。片足どころじゃない気がします。
「歌竜が貴重なのは元から数が少ない上に絶滅寸前っていう理由もあるけど、それだけじゃない。「普通の」動物なら人為的な何かがない限り、魔力を魔術として昇華できないんだよ。それに歌っただけで魔術が使えるのなら、「普通の」魔術師よりよっぽど効率よく魔術が使える」
「何故、効率が良いのですか?」
「魔術師は魔術陣を構成してからそれに魔力を注ぐ。で、魔力が行き渡ったらやっと陣が発動。それから魔術が使える。そんなことより、でたらめでも数秒歌っただけで魔術が使える歌竜の方が断然素晴らしい」
とんでもないな、歌竜。
「それでも、最近は陣を予め用意する人が増えているけどね」
では、とんでもなくはない、と。
「ちなみに歌竜はフィナリア教が生まれた時代で乱獲された、っていう説もあるから、さっきもちょっと言ったけど今では絶滅危惧種。…君の例もあるから少数民族、の方がいいかな。とにかく管理するのはそういう理由からなんだ」
少数民族、ですか。はあ。でも、アリア様が祖先だとしたらかなり血が薄れているはずですよ。
「何年か前に竜と結婚した女性がいる」
何年か前って。絶滅危惧されている割にひょっこりと現れるんでしょうか。うかつですね。
「魔術が使えるんだから、人間に擬態することも可能だろうね」
ブレントさんは家系図の、私の名前がある2,3ページ前を開いて見せます。
「ここの、ローという女性を見て」
ブレントさんが指さしたところにはローといいう名前が記されています。どうやらフィナリアの人間ではないようですね。他の特徴は…女性を示す赤の印と六芒星でしょうね。
「この六芒星は竜を表しているんだ。探すとちらほら見かけるよ。アリアのところもそうだし。…レチタティーヴォは神の子だから何とも言えないね」
神の子って…ねえ? なんでしょう、ものすごく胡散臭いんですけど。その子孫と言われている私って…なんなんでしょう。
「どう?」
ブレントさんが尋ねますが、
「いやあ…ブレントさんって、結構天然ですよね…」
説明だけされて「どう?」ってのもないでしょう。
「なんていうか、信憑性に欠ける話ですよね」
「だよね〜」
ブレントさんはふにゃりとした苦笑を浮かべました。
「僕だって好意を抱いていた女性が伝説上の歌竜だった、なんて知らされたときは驚いたよ」
意外でした。ブレントさんは、私を観察するために金魚草に通っていたのだと思っていましたから。内心軽蔑してたんですけど、そんなことはないみたいですね。
「僕は政府の犬だし、君に疑われるのも当たり前だ。言っていること全て嘘だと思ってもらっても構わないよ。ただ、君が歌竜の末裔である可能性が非常に高いのは事実だけど」
ブレントさんは、優しいです。私の意思を尊重してくれる。軽蔑していた自分がとても恥ずかしいですよ。
「それで、私が歌竜だという証拠は?」
「歌ってみれば分かる。と、思う」
曖昧な答えに私は顔をしかめます。そんなギリギリな賭に出る国で暮らすというのは怖いですね。
「そんな「かもしれないかもしれないかもしれない」的なあやふやな根拠で私に国家機密を話したんですか?」
すると、お義父さんが口を開きました。
「あやふや、っていうのもちょっと違う。だろう? ブレントくん」
「はい」
お義父さんの問いに一言返事をすると、ブレントさんは私に向き直りました。
「聖女の血筋か歌竜の血筋かまだ判明していないけれど、君の一族は神に好かれるんだ」
ページには、神々が起こしたらしい珍事件が年表になっていました。半分くらいはお祝いの席での事件や色恋沙汰です。そして、どれもアリア様が関わっています。仲裁役になったり想われたり騒動を起こしたり起こされたり……結構慌ただしい人なんでしょうか。
「君も見事にその血を引いているようだね」
「いや。私神様に会ったこととかないんですけど」
「いるじゃないか、あそこに」
「は?」
ブレントさんが視線をやった先には、ルドさんとオーディンさんがいました。
「ルドじゃないよ。オーディンのことだよ」
「へあ?」
驚きすぎて、変な声を出してしまいました。う〜ん、どう考えても神を虜にする声ではありませんよね。
「やっと出番か」
少し伸びをして椅子から降りると、オーディンさんは来ました。
「えっと…オーディンさんは、神様ですか?」
「なにその質問」
ルドさんの茶々も耳に入らないくらい私は混乱しています。でも、心の隅では違うと言ってほしい、と思っていました。ですが、「神様」とは結構無慈悲で。
「いかにも! 私が戦争と死を司り、詩を愛する神・オーディンだとも!」
ちっこいながらに胸を張るオーディンさん。勢いで結んでいた髪が揺れています。私より女子力ありそうですよね。ちっちゃいし(ひがみ)。
「私が初めてこの店に来たとき、お前の名前を確認しただろ?」
「そういえば」
『シャルロット・ブランジェはここにいるか?』
『やはりそうか。似ている』
『久方ぶりだな』
来店早々のぶっ飛んだセリフが私の頭を駆け巡ります。
「まさか、私のこと知って…?」
「もちろん。私は神だ。どこにいようとアリアの血は分かる。私はアリアの歌が好きだったんだ。もう一度聞きたいと思ってな」
これ、冗談にしてはーー凝ってますね。
オーディンは北欧神話の主神だそうです。面影ないですね。




