十一章・知らない方が良いことってあるんです
一番長いかもしれませんが、おつきあいただけると嬉しいです。
サブタイトルの長さと本編の長さが比例している…(修正したいです)。
「この話は僕より適任がいるから、そちらに任せるとしよう」
仕切り席に移動した私は、向かいにお義父さん、その隣にブレントさん、という位置で話を聞くことになりました。ルドさんとオーディンさんはカウンターで待っています。お義父さん曰く、「待機させておく」だそうです。
最初は不服そうなルドさんでしたが、一度オーディンさんに話しかけられてからは盛り上がっています。
「じゃあ、ブレントくん、よろしく」
「はい」
神官の服装をしたブレントさんは頷くと、私を見て、柔らかい表情を浮かべます。
「軽い気持ちで聞いてくれればいいよ。そんなに難しいことじゃないから」
ああ、ブレントさんの背後に光が見える!
「じゃあ、まず君の正体だね」
へ?
「君はね」
正体、ってその時点で難しい感じですけど!?
「聖女アリアの末裔なんだ」
この話、気軽に聞けるわけあるかぁぁぁぁ!!!!
聖女の定義は国によって違います。私達の住むリーデン王国では聖女は神の侍女のようなものという認識です。神が降臨すれば世話をして、神託があれば民に伝え、ときには神に身体を貸すこともあるとか。
侍女とはいっても神に一番近いので、政治に介入するなどの国を動かすことはできませんが国王と同じくらい崇高な存在です(この国が発祥のフィナリア教では聖女が神の妻となっていますし)。
私が、それの末裔?
滅相もない。私はただの元孤児で、喫茶店の主人の娘で、平凡で、家事しか特技のない町娘です。聖女の子孫なわけないでしょう。というか、ありえないです。
この国で聖女が誕生したのはたったの二回。月の聖女ことアリア・フィナリア様と、同じく月の聖女のレチタティーヴォ・フィナリア様のお二人です。レチタティーヴォ様はアリア様のお嬢様ですが、彼女は結婚したという記録も子供がいたという話も聞いたことがありあせん。だから、末裔がいるというのはありえないことなのです。
「レチタティーヴォに子供がいないなんて、誰も言っていないよ」
「で、でも」
ブレントさんはローブの中をまさぐってから、大きくて分厚い本を取り出してテーブルに置きました。
「彼女にも子供はいる。ただ、結婚していないだけだし戸籍上で親子じゃないだけだよ」
私は、目眩で倒れそうです。これを軽い気持ちで聞ける人はすごいですね。尊敬します、マジで。
「これは、国家が聖女の末裔を「管理」していくために秘密裏に作った家系図だよ」
家系図。家族多くないですか? スプーンの縦の長さくらい、厚いですけど。それに、「管理」って。
「この本は何百代も後の末裔まで記録しておくための物だからこんなサイズなんだよ」
「はあ」
私、さっきから「はあ」しか言ってませんね。
どういう反応をすべきでしょーー
「シャルロット?」
お義父さんが、優しくーー怒っています。オーラが怒気に満ちています。私は即座にブレントさんの手元の書物を見つめます。
「これにわたしのなまえがあるのでしょーか(棒読み)」
「そうだよ」
ブレントさんは書物の真ん中あたりを開き、私に見えるように向きを変えてくれます。
ふむ。なるほど、これは家系図のようですね。今にも途絶えてしまいそうですが、前のページを見ても、その前のページを見ても、家系図です。私は一通り見ると、ブレントさんの示してくれたページの最後にある名前を見て、ぎょっとしました。
「シャルロット…?」
私の名前がありました。ということは、私の実母(継母もいませんけど)の名前が分かる!? 私は鬼のような形相で線を辿りますが、母らしき人物の名前は、黒のインクで塗りつぶされていました(ついでに言うと父の名前は書かれてもいませんでした)。
「お母さんの名前は?」
このときの私の瞳は、懇願に近かったように思います。とにかく、肉親の名前が知りたかったのです。ですが。
「僕が記録者になったのはきみからだ。前任はもう死んでいるし、分からない」
私は明らかに意気消沈した表情をしていたのでしょう。ブレントさんが、
「僕はまだ地位が強くないけど、伝手を駆使して探している途中だから。できるだけ速く、見つけられるよう努力してる」
「…ありがとうございます」
その気遣いが、嬉しいのに、悲しくて。傷に塩を塗り込まれるような感覚です。でも、ブレントさんの優しさが伝わって。板挟み、ってこんな感じですかね。
「そうだ!」
私は無理矢理話題を変えます。
「家系図の一番最初を見せてもらっていいですか? アリア様の頃!」
「うん。どうぞ」
私は最初のページをめくります。家系図なのだから、そこから始まっていると思ったのです。
「あれ?」
ですが、読みは外れていました。あったのは目次です。よくよく考えれば当たり前ですね。この厚さで私の代がやっと半分なわけありません。最初から始まっていたのならもっと前の方にあったはず。
目次によると、最初は家系についての説明があります。新しい筆者への説明も兼ねているのでしょう。ですが、説明長すぎじゃないですか?
私は好奇心に従って次のページへ進みます。
「それは見ちゃ駄目ーー」
ブレントさんがはっ、としたように制止の声を上げますが、時既に遅し。私はもう、ページをめくり終えていました。常識人で冷静なブレントさんが慌てるほどの何があるのだろうと見てみると、竜が描かれていました。色つきで、白銀の竜が描かれているのです。
「えっと…『これからここに記す者達は聖女の家系であり、かの「歌竜」の末裔達であることが前提である。我々は足元にも及ばず、彼ら彼女らの恩恵を受けているということを忘れてはならない』……? え?」
お義父さんは、はぁー、と息を吐いてうつむき、ブレントさんは頭を抱え、ルドさんとオーディンさんはこちらに気づかず紅茶の銘柄について議論を交わしています。仲良くなったもんですね。
じゃ・な・く・て!
私は、聖女の末裔(仮定)。その証拠にこの本に名前がある。そして、この本に名前が記されている者達は「歌竜」とやらの子孫。
…………。
これ、知って良いことですかね? まずくないですかね?
オーディンは、次回以降活躍の予定…です。




