十章・人は、暗黒面を持つものですよ(泣)
ブレントが消えました(?)。ルドが純情(?)になっています。オリヴィエがSに目覚めます。
…………。
どれが本当か、読んで確かめてください。筆者も整理できないです。
「…………」
私はカウンターにブレンドティーの入ったカップをき、厨房に逃げ込みました。あれ? デジャヴ?
とりあえず、大きく深呼吸して目を瞑ります。これで、世界は元に戻ってる! はずですよ。出直しですね。
それにしても、最近は変なことばっかりですよ。私、境南か知り合いが仮装してどっきり☆、なんていうおかしな夢まで見ちゃって。はは。
「はは、ははははは。は…は」
壊れたように笑う私を心配そうに見る一同。
ちっくしょう! なんか私が馬鹿みたいじゃないですか! こっちからしたら馬鹿みたいな行動しちゃうほどあんたらがおかしい格好してるんですよ!
私は理不尽な現実に顔をしかめてしまいます。おいおい現実、人の父親と友人に何させちゃってるんです?
「どちら様で?」
「いや、僕だよ、僕」
「これが世に言う僕僕詐欺…?」
手紙で親族を装って金をだまし取る詐欺があるそうですよ、ちまたで噂になってます。うちはターゲットになんかならないと思っていましたが、まさか変装までしてくるとは。恐ろしいですね。
「シャルロット」
声までそっくり。
「お前、義父さんのことを信じられないのかい?」
信じたく、ないでしょう? 仮装パーティーを楽しむ父親とか。
「う〜ん。しょうがない。ルドくん」
お義父さんが指をパチン、と鳴らすとルドさんが軽く笑ってカウンターに入ってきました。なんかよく分かりませんが、怖い。
「る、ルドさん?」
「ちょっと、ごめんね」
は?
気がつくとルドさんにお姫様だっこをされており、生理的に受けつけられなかった私は抵抗する力が失せて硬直しています。
「うわぁ、その目つきか。普通、美形にこんなことやられたら赤面して動かないのに、そんなに嫌そうな顔でこっち見るなんてなぁ」
私、ルドさんのことを異性として意識してないですし。っていうか、この人自画自賛してますよ。
「友人を見てきゃーきゃー言ってるのも変でしょう?」
「…俺、ちゃんと友達って思われてたんだ…」
ルドさんは、一瞬ぽかんとすると真っ赤になって俯いてしまいました。この人なにげにプライド高いから、庶民に友人とか言われるの、嫌なのかもしれませんね。
「お〜い、ルドくん。青春してないではやくしてね」
お父さんの声がかかり、ルドさんは私を変な集団の輪の中へ。
「ちょ、え?」
私は「え、何コレ? イジメ?」みたいな顔でキョロキョロします。へたり込んでいるので、見下ろされている緊張感が凄い。
「かーごめ かーごーめ」
お義父さんがニホン語で歌を歌い始めます。ニホン語って、呪文に聞こえるのでこういう状況だとすごく怖いんですよね。
「お義父さん、やめて」
「かーごの なーかの とーりぃはー」
お義父さん、ノンストップ。
「大丈夫だ」
恐怖でぶるぶる震える私にオーディンさんは静かに、
「私も何が起こるのか分かっていない」
大丈夫じゃないですよ!
あ、でも、仲間意識があると、少し、ら…く?
お義父さんは一通り歌うと、大人しくしない罰だとかなんとか言って微笑みました。何、この人。十年一緒に暮らしていてもよく分からない人ですね。
「シャルロット」
お義父さんのひんやりとした声に、鳥肌が立つのを感じました。この人は、たまに恐ろしく冷ややかな声を出すのです。
「君に全てを話そうと思っているんだ。昨日の会話も聞かれていたみたいだしね」
げっ。やっぱり聞いてはいけないものだったんですね。それより、お義父さんの背後には目でも付いているんでしょうか? 又は、超敏感感知機がある、とか? いや、厨房の裏口を使って二階に上がるからでしょう。
お義父さんは、まだ話しています。私はただただ怖いという思いを抱え、甲板をイメージして作られた店の床をじっと見つめています。
「でね?」
我に帰ると、お義父さんの顔が真正面にありました。
私のあごをすくい、上を向かせました。
「人の話はちゃんと聞くように」
とても優しい声がこの場に不似合いすぎてかなり白々しい響きになり、私の耳に届きました。それからお義父さんは何事も無かったかのように立ち上がり、話を再開します。
「僕達は、平穏で緩やかなこの生活を手放してまでお前に全てを話してやるんだから、お前は現実から目を背けないでしっかりと耳を傾けるんだよ? いいね?」
「…はい」
…………現実逃避って、重要です。この緊迫感には耐えられません。よし。速くも約束破ってやろうじゃないですか(反抗期ですからね!)。
とりあえず分かったこと。
〈お義父さんは、サドかもしれない!〉




