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お客様は神様です?  作者: 黒一もえ
3・給仕にも謎があります?
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九章・きっとこれは夢ですよ

 昨夜、「自分」について考えていた私は厨房で目を覚ましました。

「はっ! 開店時間!?」

 起きて開口一番がこれでした。私ってば、職業病さん。てへっ♪ ……ガラじゃないことはやらない方がいいですね。

「おはよー」

「うん。おはーー」

 !? 壁にもたれかかった状態の私の正面には、しゃがんでこちらを見ているルドさんがいました。

「お義父さんじゃ…ない?」

「そこか〜」

 ルドさんはけらけら笑うと私に紅茶を差し出しました。

「これは?」

「俺が金出すから、おごり」

 まさか、ルドさんに奢られる日が来るとは。

「いただきます」

 マッチャじゃない分いいですかね。甘い物と一緒だとあれも好きですが、単体は欧州舌の私には合わないんです。

 口に含んだ紅茶の香りがすぅ、と身体に染みこみ、眠気が薄れていきます。

「流石、金魚草の茶葉」

「自画自賛?」

「いいえ。お義父さんを褒めているんです」

「ファザコン…」

 違いますよ。私は呆れ顔になります。

 お義父さんはたった一人の家族だから、大切なんです。儲かってもいないバーをどうやって長年経営しているのか、とか、客がそんなにいないのに海外旅行に行く資金を貯められるのか、とか、そういう話は深くまで問い詰めません。相手も話しませんし。だから、溝を感じてしまうんですけど。

「それより、どうやって入ってきたんですか?」

「オリヴィエに頼んだ。さっき家に戻ってったよ」

 お義父さんか…。そう感じたとき、昨日の会話(盗み聞き)がよみがえりました。


『あの子は、とても大切な存在だ。丁重に扱わないと』


 丁重に扱わないと、って家族に対する言葉じゃないですよね? こういうとき、相談相手がいないと少し困ります。

「シャルは、どうしてここで寝てたの?」

 ルドさんが唐突に呟きました。

「まあ、諸事情の末……」

「悩み事? 俺でよければ相談のるよ」

「……」

 私はルドさんをじっと見つめます。

「あ、いや。冗談だからさ」

 私の沈黙をどう感じ取ったのか知りませんが、ルドさんは慌てたように踵を返します。お義父さんといいルドさんといい、人を何だと思っているのでしょう。

「ん?」

 ルドさんがゆっくり振り返り、自分の上着の裾を見ます。重みを感じたのでしょう。当たり前です、私が掴んでいるのですから。

「ルドさん、口は硬い方ですか?」

「え…まぁ…職業柄…」

 騎士(自称だけど)も口が硬くないとできないご時世なんですか。難儀ですね。

「じゃあ、相談します」

「え? 俺でいいの?」

 自分で言っておいて何、動揺しているんですか。

「ルドさんくらいどうでもいい相手なら、遠慮無く話せる気がするんです」

 私は苦笑しました。人に頼るのは苦手です。自覚しているくせにこんな口調になってしまう自分が、とてもおかしく感じられました。

「昨日の夜のことですよ」


 私が話し終わると、ルドさんは腕組みをしました。

「確かに、それを聞いたわけ?」

「はい」

「ふぅん」

 それから訪れる、息苦しい沈黙。

「私、お義父さんとちゃんと会話できるか分かりません。っていうか、あの話は私が聞いても良いものだったのでしょうか」

「断言はできないけど…オリヴィエは置いといて、デビットはあんたが聞いていることにも気づいていないだろうし、聞かれて良いと思っていないはずだ」

「何故」

「だって、デビットはあんたの前で怒らないから」

 確かに、デビットさんは私が小さい頃から可愛がってくれました。どんなに期限が悪そうなときでも、私の顔を見ると笑顔で対応してくれます。素じゃないのは少し悲しいですが、優しさが感じられて、嬉しいです。

「とりあえず…」

 ルドさんは立ち上がりました。

「店、開けたら?」

 あ。




 店を開いた後、誰も来なくてヒマなので朝食を摂りました。皿洗いをしているときにオーディンさんがやって来て、カウンターに座りました。

「ご注文は?」

 ルドさんと一緒にしなければ、この人も善人のはず。そう信じて、私はにっこり接客。

「ブレンドティーを」

 オーディンさんはフードを脱ぎ、ついでだし、とでもいうようにローブごと脱ぎました。

「…」

 中も黒ずくめでした。どんだけ黒好きなんですか…。

 私は厨房に入り、ブレンドティーを用意しました。オーディンさんはこれを気に入っているようなので、嬉しいです。

「お待たせしまーー」

 お店には、お義父さんとブレントさんがいました。ですが、裏口も、入口のドアも、空いていません。入口は厨房からだと見えませんが、音で分かるはずなのに。

 いや。そうじゃなくて。もっと、変なことがあるんですよ。

「なんで、扮装してるんですか?」

 ルドさんは先程まで着崩していた騎士の服をきちんと直し、オーディンさんはローブを身につけ直していました。ブレントさんは、神官の服を身に纏っていました。ローブの上に、同じ生地のケープ。そして両肩にはパリウム。お義父さんは、真っ白な生地に恐ろしく凝った金と銀の刺繍が施されており、雰囲気はブレントさんの物に似ていました。

「これが、僕らの本当の姿だよ」

 お義父さんが、いつもと変わらない微笑みで、そういいました。

 …………。

「んなっ!」

 私のリアクション、これです。


 私、夢を見ているのかもしれません。

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