七章・一段落、着かせません?
破壊された言ってもいい、凄惨な状態の喫茶店内に、私は立っていました。
窓ガラスは全て割れ、装飾品は砕け散り、壊れた物達がぴかぴかに磨いたはずの床の上で無残な姿をさらしています。
「さあ、どうしてくれましょう」二コッ。
私は、ゆったりとした笑みで店内を見回し、床のガラス片を摘みました。
「シャ、シャル?」
やっべ、やっちまったな! みたいな声でルドさんが私を呼びます。はんっ。そんなんで振り向くわけ、ないでしょう! 私が誠心誠意働いてきた大切な店を、ぶっ壊したことに関しては、ルドさんも共犯ですから!
私はルドさんの声を無視してすたすたと歩いて黒ずくめさんに詰め寄りました。
「お客様。店内をこのように下訳をご説明して頂けますか?」
「あの男が斬りかかってきたからだろう」
「…」
事の発端はルドさんです。問い詰める相手が増えたことに嫌気がさしてきますが、仕方がありません。ファイトっ、私!
「そういうことではなく! なぜ、ガラスを割った、のか、っていうこと…」
私の言葉は切れ切れになっていました。疲れたからではありません。息が切れているわけでもありません。ただ、自分の言っていることに疑問を感じたのです。
ガラスは、変な音がした後に割れました。ですが、音は私の聞き間違いかもしれませんし、ガラスとの関連性を裏付けるものもありません。
それなのに私は、ガラスを割ったのが黒ずくめさんだと知っていました。というか、確信していました。
「……?」
私は、この状況に覚えがありました。でも、これを思い出してはいけないような気がしてなりません。頭ががんがんするし、悪寒もするし。う〜ん。
「そうか」
黒ずくめさんの気配が、一気に華やいだのがわかりました。背景に、「パァァッ!」という字が見えそうなほどの笑みを顔に浮かべています。
「え、へっ!?」
私がぎょっとして目を見開いていると、イイ笑顔の黒ずくめさんは私の手をしっかりと握りしめました。
「え、ちょ、なっ」
もしもーし、私。何も言葉になっていませんよ。まあ、動揺するのも仕方がありません。私、男の人に触ったこと、ほとんどないんですよね。ルドさんは鬱陶しいので触られている意識はないにですが、ブレントさんデビットさんで「セーフ」ってくらいなんです。生まれてから接したことのある人間の数が少ないので耐性がなくて、ね。
そんなことよりルドさんが立っている気配がするんですけど!? この隙に斬りつけようとか思ってませんよね?
「思い出したのだな!」
はい…?
そのとき、ルドさんがべりっと黒ずくめさんを引き離しました。
「安易にシャルに触らないでくれないかな?」
「安易に触った覚えはないのだが」
黒ずくめさんの表情は、元に戻っていました。あの笑顔が不気味に感じられるくらいの淡々とした雰囲気ですよ。
「とりあえず、弁償、して、くだーー」
ばたっ。
「しゃい」
私は、ルドさんに腕を掴まれた状態のまま、意識を手放しました。
私が目覚めたのは、あの惨劇から二日後の朝でした。
給仕用の黒いワンピースと白いエプロンを身につけて喫茶店に入ると、誰もいませんでした。そして、喫茶店は元に戻っていました。
「あれ…?」
このときの私は知りませんでした。
「黒ずくめさん、本当に弁償してくれたの、かな?」
あのお客様が嵐の予兆で、めちゃめちゃにしたルドさんこそ正しかったのかもしれなくてーー
「まあ、いっか」
新しいお客様が来るということを。
ちなみに、私はお義父さんにベッドに連行されて大人しくすることになったので、仕事はしばらくおあずけかと思います。ちっ。
次は幕間を予定しています。めちゃめちゃですが、読んで頂ければ幸いです。
そして、看板に偽り感ありますが、よろしくお願いします。




