五章・お客様が再来店です
黒ずくめさんがやってきた次の日。店のドアには、新しいノレンがありました。模様はなく、紺色でした。
「そういえば…」
昨日のノレンの欠片を、捨てていないのです。お義父さんはだいぶ思い入れがあったようなので、捨てるか私が縫ってみるか、悩みに悩んで爆睡してしまったのです。
「どうしようかな」
ふむ、と考え込み、とりあえず朝の清掃をします。黒いワンピースの袖をまくり、法規とモップで店内を駆け巡る。言葉だとカッコ良いですが、やってる方は疲れます。そしてただの掃除です。
掃除も終わり、ドアに開店の看板をかけて、やっと金魚草の営業が始まります。
外がどれだけ騒がしくても、この店だけは世界と切り離された海底。
暗示のように心の中で呟くと、フリルがガ氏ら割れた白いエプロンを着け、カウンターに入ります。
カランコロン。
おや、早朝のお客様…ルドさんでしょう。
「いらっしゃいませ」
「ああ」
…違いました。黒ずくめさんです。
「え…と」
予想が外れて口ごもります。べつに、誰が来てもいいのですが、予想が的中しなかったことがショックだった。小さい頃は誰が来るかを当ててお小遣い稼ぎをしたので自信があったのに…くっ。
「どのお席にいたしますか?」
彼も常連になるのでしょうか。それは、困ります。ひじょーに困ります。
「昨日の席にしよう」
うむ、と一人で頷き、黒ずくめさんは着席します。
「そうだ。昨日金を払わずに出て行ってしまったのだったな」
ちゃんと覚えていてくれたようですね。かなり意外ですが私から切り出すのもどうかと思っていたのでありがたいことです。
喰えおずくめさんを黒い札入れを開けます。
「っ!?」
もさっ、と中から出てきたのは大量の札束。こんなの持っている人いたんですね…貴族でも最低限しか持って歩かないのに、たかが街の喫茶店に来るのにどんだけ持ってきているんですか。箱入りのお嬢様じゃあるまいし。お前お嬢様じゃねぇだろ! ですよ。
「いくらだ?」
私は金額をいいます。なんか、お札一枚でおつりがくるのにここまで持ってこられると嫌みに思えちゃいます。
おつりを渡すとーー
カランコロン。
誰かが来ました。
「いらっしゃいませ」
「よう、シャル!」
デビットさんです。お義父さんが夜に営業しているバーの常連さんですが、金魚草の常連さんでもあり、私の数少ない友人です。もっとも、イメージでは「伯父」ですけど。
「俺もいるんだけど」
ルドさん。いたんだ。
「それよりさあ、暖簾があるのによく入って来られたな」
ルドさんは黒ずくめさんに歩み寄り、微笑みます。
「あの布か。あれは力が弱い。前とは比べものにもならない」
黒ずくめさんは瞬きをすると応答しました。この人達、何言っているんですか? 全く意味の分からない会話です。
「力が弱い、って。あれ、普通なら十分退魔できたんだけど」
「私は「魔」じゃない」
タイマ…? 大麻…? 違うでしょうね。
「まあ、いいや。斬るだけだし」
ルドさんの口から不穏な言葉が飛び出し(この人、だいたいの時は違った意味ですけど不穏なこと言ってますね…)、私は「え」と眉をひそめて、黒ずくめさんを見ます。端正な顔には余裕の笑みも、嫌悪の感情も、怯えも、困惑も、浮かんでいませんでした。ただただ、何も思っていないような無表情。うわぁ、ルドさん、超イタイ人になってますよ。あしらわれているどころか相手にもされてない。
私がそんな風に思っている間にルドさんがすらりと鞘から剣を抜きます。……ホンモノ…ですねぇ。うぅん。今度から、「店内で抜刀禁止」って張り紙やっておきましょうかね。
…
じゃなくて!
私はこのカオスな空間に目眩を感じてしまいます。私はどう対処すればいいのでしょう。
「大丈夫だ」
いつの間にか隣にいたのはデビットさん。
「ルドが失敗したことはない。上手くやるさ」
やる…殺る? oh。私の聞き間違いですよね! オッケー、大丈夫、平気、へいき、へー、き……?
ちょ、ちょっと、人の店で、戦闘しないでくださいね!?
お前お嬢様じゃねえだろ! は、
ハマ○ーンをイメージしました。
パロネタも盛り込みたいです。




