第2話■当ててこられたっていうのをまずいったん無くしてください
◇2026年2月20日
■当ててこられたっていうのをまずいったん無くしてください
純は、直子は、純が駆けつける前に
「こんな事、おかしいです、防犯カメラ、監視カメラを確認してください、私何もやってません、あちらが当ててきたのが、写っているはずです」
と現場に来た警察官に言った。
それから脇野精神病院の裏の路地から、京橋商店街に警察官に促され、移動。
饅頭屋の角に自転車を止めた時に、純が合流し、直子と向き合った。
「どうなってるん」
「よくわからん、なんかお母さんが悪いみたいになってるけど、監視カメラ見てもらったら一発で分かることやし」
それから現れた若い警察官、盛山敦志が歩み寄ってきた。
「監視カメラを、確認しましたよ、《僕らは答えを持ってるんです》」
答えを持ってる?
「私が、ぶつけているんですか」
「カメラを確認しましたよ」
「この短時間に、たぶん10分くらいしか経ってないと思いますが、確認本当にできたんですか?」
「できましたよ」
この「僕ら答え持ってるんで」
そして、このセリフは重要なものでもある。
「これからね、ここで、奥さんがどないしはったのかを、僕ら聞いていきますわ」
こうやって、あった出来事を書いていくうち、全てがもう、「警察官が」最初からターゲットを追い込み、示談金、保険金を支払わせるための、お芝居、セリフの連続だったことがよく分かる。こんな事が、京橋警察交通課では行われていたのだ。
※なお、後日談になりますが、私、工藤直子は5月19日に、京橋警察交通課で、供述調書を取られた段階で、横断歩道の監視カメラ映像を確認しています。検事さんが見せていいと言ったそうです。そして、そこには、私が後ろから下坂啓二に追跡され、後輪に前輪を接触させられている姿が写っていました。私が彼に力を加えることは全く不可能な映像を確認済みです。
ここから先は、録音の文字起こしに、状況を加えたものになります。区別のために、録音証拠の文字起こし部分は【録:】でくくります。
盛山敦志「【録:順番に聞いていきますね、この今日の状態を把握しておかないと、後日、当たってないところが、当たったとかで言うてこられたら困るんで、確認していきますね】」
工藤直子「【録:身体にも一切当たってへんし、そんなん、何もなってないのに病院行くとか、具合悪なるなんて】」
盛山敦志「【録:ハンドル、持ってるでしょ、止まってる自転車にぶつかってきたわけじゃないんです、お互い動いてるんで、あなたの主観で言うてはるだけやから、お互い動いてるんで、お互いに対峙する方法はあると思うんです】」
盛山警察官は語気を強めた。「【録:だから、当たってこられたという、表現をまず無くしてください、絶対にそれは間違ってます、当てられた、それが露呈しちゃうと、余計怒られちゃうんで、火に油やと思いますよ、日本語はちょっと、難しいんですよ】」
工藤直子「【録:追いかけてきて、力づくで押さえてきて、救急車呼びはったんですよ。それで乗らずに帰らせて】」
盛山敦志「【録:だからそこは、言いたいことは分かります」盛山警察官は急に、声を小さくした。「そこは僕らにも、……言いたい事と、言えることと、言えへんことがある】」
何……なんだそれは?それはどういう意味なんだ?救急車を呼んで、自分は乗らずに帰らせている時点で、詐病、詐傷だよな。「《《僕らにも、言えへんことがある》》」って、本当にこいつら、警察官なのか?
盛山敦志「【録:まあ、これはちょっと分からないと思うんで。で、もう先ほども言ったんですけど、こんだけ警察に言われて、もうどうしてもこんな診断書、仮に人身事故になったとしても】」
京橋のJRの高架下に当たる横断歩道なので、電車が通るたびに、大きな
「【録:ガタンゴトン】」という走行音が入る。盛山警察官は言葉を止めた。
盛山敦志「【録:言うたら、診断書出してこられて、『警察の手続き上、人身事故にします』ってなったとしましょう、仮にね。それでも、奥さんの選択肢としては、言うたら、いいや、『こんなん絶対怪我になるはずない、私は払いません』っていうのも、それに応じないのももう、任せます。一つの選択肢ですよ、それはね、僕は一般論でしゃべってます。ただね、いやいや、そうなった場合】」
ここで、盛山警察官はウハハと言う笑いをはさむ。録音で、笑い声が入っている。何一つ笑う要素のないところで。
盛山敦志「【録:おかしいやろ、当たって逃げてんのに】」
工藤直子「【録:私は、後ろから、当てられてます!】」
直子は信じられない思いで、声を震わせながら言った。
でも、警察官は、これは、私にぶつかってきたあの男が「当たって怪我をした」というのを、本当に鵜呑みにするのか?いやそんなわけはない。横断歩道の監視カメラもあるんだし。でも、「僕ら答えを持ってるんで」?
しかも、当たり屋だと自分で言っている。なのになんだ?暴力をふるってきてこんな、被害者だと、警察は一度たりとも私に「何をされたか」を聞かない。
どういうことだ?しかし、監視カメラ見ても?いや、相手に怪我などさせているわけはない事は、それではっきりわかってるんじゃないの?直子はこの時点ではまだそう、思い込んでいた。
さっき、盛山警察官が言った、いいや、「『こんなん絶対怪我になるはずない、私は払いません』っていうのも一つの選択肢ですよ」
当たり前じゃん、私から一切の力を相手に加えたわけはない。怪我どころか、こちらが寄ってこられたんだから。こっちが怪我するところだよ。だから、直後に
「警察呼ぶで!」と振り返って叫んだんだ。
だから、盛山警察官の言う事は、全くそのお通りだ。直子は……盛山警察官は、私の味方をしてくれている?その可能性もその時は思ったのだった。
盛山敦志「【録:ただ、何度も言いますけど、そうなったら、相手の方がもしかしたら告訴してくる恐れはあるんで、その場合のリスクもちゃんと考えといてもらわないといけない。事故起きてて、ぶつかってる事実はあります。で……】」
……事実があります?
工藤直子「【録:何でですか?告訴?私が引っ張って倒されたんですよ?。私が何か払わなくちゃいけないって言われて、納得いかない】」
盛山敦志「【録:《《それは僕らが言及する話じゃないんです。そこは、もう、帰って息子さんと考えてください》》】」
直子は息子、純の顔を見た。純は、うん、と小さく頷くように目を伏せた。
盛山敦志「【録:今はまず、そのまず当てられたっていう概念をなくしてください。お互い動いてるんでね、あなたにも一端はあります。で、なおかつシチュエーションで見たら、横断歩道上の出来事で、相手さんはなおかつ歩行者、ってなったら、《《もうこれ、民事上ね、100ゼロですわ。》》いわゆる、こっちの方が全然、確かに、僕ら警察ね、よっぽどのことがない限り、その割合とか言わへんねんけども】」
録音のここのセリフで、盛山警察官は《《ほくそ笑んで、クスクス笑い声》》を出している。直子には、なぜそこで彼が笑うのか、意味が分らなかった。
直子は運転免許を取ったことがない、講習も受けたことがない。「100ゼロの意味」が、警察がそれを言う意味が、分かっていなかったのだ。
いや、100%あなたが悪いと、言われている事は分かるのだが?
盛山敦志「【録:もう、このシチュエーションでやったら、100ゼロ。うんもう間違いない。民事上も確かに。ほんで、言うたら向こうの人からしたら、その言うたら歩行者の相手さん、自転車でバーンてぶつけられて、行っちゃったってなったら、それは逃げられたって感覚に陥るじゃないですか、ほんで『待てぇ!』って気持ちも分かるでしょ?】」
工藤直子「【録:はぁ……?】」
盛山敦志「【録:そんな優しく詰め寄ることないじゃないですか、『あなたさっきぶつかりましたよね、いったん止まってもらっていいですか』なんて冷静に話せる方いないと思うんですよ、たぶん怒ってると思うんですよ、普通に考えたら。ねっ『それはそうかも』でしょ?】」
このあたりの、録音を聞いてほんとに、盛山警察官は「へっへっへっへ」と笑いながら、楽しそうにこのセリフを言っている。
盛山敦志「【録:だから相手さんの気持ちも分かると思うんですよ】」
工藤直子「【録:ふーんそうかぁ……?】」
直子の頭の中では、脇野病院の裏の路地での、下坂啓二の大騒ぎ、暴力が浮かんでまた身震いした。
盛山敦志「【録:その、上下はありますよ?もちろん、その人によって、うん】」
ここで、少し、また語気を落とした。
盛山敦志「【録:だからそれが、例えば奥さんにとって、ちょっとびっくりするくらいの、ね、……あのー憤りやったっていうだけであって、……難しいと思うけど……でも、怒られる理由としては意味わかるでしょ?理屈は通ってるでしょ?】」
びっくりするくらいの憤り?頭の中がグルグルで、下に襲われた時の事、自分を「当たり屋だと言ったこと」、その時点では、動画を見返していないので、全ては自分の中の「動転した記憶でしかなかった」。
しかし、びっくりするくらいの、憤り?なんか、そんなんじゃない。気持ち悪い、狂気のセリフだった。
下坂の「たすけてーーーーーぇ、わーこわいわ、カメラ写しとるわ、お前も写しとったらぁ」
盛山敦志「【録:で、なおかつびっくりしたことで、ガーって動画撮って、『見てください!』って。歩行者側で事故にあって逃げて行った奴を、追っかけていくじゃないですか。ほんで逆に事故起こして逃げて行ったやつが、こうやって携帯カメラ振りかざしてくるんですよ?どう思います?逆に怖くないですか?】」
工藤純「【録:そっちからしても、そう思ってしまう事でもある……か?】」
盛山敦志「【録:そうです!それを、相手さん思われているわけですよね】」
工藤直子「【録:うーん……まぁでも】」
って、それだけの事を、今来た盛山警察官が、下坂啓二から聞いたんだろうか?
いや。下坂啓二は、ずっと、私に掴みかかりながらハンズフリーで電話をし続けていた。コイツと、繋がっていたのか。そしたら、あの大騒ぎの間も、それを電話越して聞いていたのか。
盛山敦志「【録:だからね、今ここで『その程度』という考えを持ってしまうとダメなんです。言うたら、真剣な人相手にする時に、へらへら笑って言ったら、なんやねんコイツ、ってなるでしょう?だからね、温度感を間違えると、相手さん余計怒っちゃうんですよ】」
録音の、ここで、どういう訳なのか、盛山警察官の「へへへへ」という大きな笑い声が入っている。それは、まるで悪魔のような、恐ろしい笑い声が。
何度か、録音を聞いているけど、最初からこの「へへへへ」という音声は、ビックリする大音量で記録されている。
話の流れでも、なぜ、そこでそんな笑う状況なのか?iphone15plusでの録音だ。
ガチでこいつら、「グル」だ。
そう、もう、ずっと動画消さされた時から、下坂啓二は「仲間の警察」を呼んで、私が下坂啓二に当てたという話を通そうとしているんだ。
盛山敦志「【録:僕は一般論で、今までの皆さんのケースを知ってるからこそ言えるだけであって、選択肢としては色々ありますよ、もちろん。徹底的に私も戦います、民事裁判起こされてる方もいますよ。2年3年かけて、今もまだ、されてる方いますわ。僕聞きます、3年前の事故で。まだやってる。徹底的にされる方っていうのはそれぐらいされる。何を天秤にかけるかですよね、一個一個】」
そこで、また電車の走行音で、かき消される。何を言われているのか分からない。
盛山敦志「【録:事故起きててぶつかってる事実は、あります】」
工藤直子「【録:めっちゃ追いかけてきて、引き倒されて、めっちゃ元気やったんですよ】」
直子は泣きながら言った。
盛山敦志「【録:それは……僕らには、言及できない】」
盛山敦志「【録:だから、こんなことで怪我するはずないやろっていう主張をされて、それに対して、いやでも《《診断書あるんですよって持ってこられるじゃないですか》》、当然。議論として、話の流れとして。逆に、これで怪我をしないんですよっていう、何か別の資料を出さないといけないんですよね、奥さん側が。なんでそれが言えるんですかって当然なると思うんで。自分がこうやって運転しててぶつかったわけでもないのに、なんでそんな根拠はなんですかって、まあ今流行りのね、言うたら】」
盛山警察官は、少し口ごもった。
「【録:ジャパニーズ...なんか、言い方あるじゃないですか、横文字のカタカナの。僕はあんまようわからんくて、僕は証拠って言いますけどね。証拠。証拠持ってきてくださいね】」
工藤直子「【録:根拠?エビデンスの事?】」
盛山敦志「【録:そうそうそれ】」
後ろからぶつかってこられて、何の根拠?
いやこれは、防犯カメラの映像を見て?それは証拠にはなっていないのだろうか。
しかも、エビデンスって《《自分の知らない言葉をなんか持ち出す》》、……バカみたいなというか、自分がバカだと証明しているみたいな言い回しを、なぜする?この警察官。
盛山敦志「【録:証拠がないことには、やっぱりね、そんなん言うたら、一緒じゃないですか。ましてや相手は診断書がある。それに勝てる何かを持っていかないことには、その証拠不足で負けちゃうんで。『いやいや、そんなん、ないっすよ、ないっすよ』だけじゃ、誰もね、信じてくれない。奥さんの気持ちは……、僕らが言及できない】」
奥さんの気持ち?を?僕らは言及できない?警察が?後ろから、姿が見えない角度から当ててこられて、それを言及できない?
盛山敦志「 【録:後ほど、お手続きできる感じですか?例えば自転車の点検をしましょうか、その後の時間は我々の方で、奥さんの言いたいことを言ってもらう時間を設けさせようとは思うんですけど。ただ、その前に警察の手続きをしていこうかなと思います】」
純と直子は顔を見合わせた。これは……どこまでもガチで私が、警察に事故を起こしたという形にされようとしているんだ。
純は、ぐっと、こぶしに力を込めた。「こんな、異常な事があっていいのか」という言葉を目を見開いて、しかし飲み込んだ。
純はこれまで、あらゆる場所で、直子と自転車をこいできた。2025年の夢洲での大阪万博も、何度も母と走ってきたんだ。その中で、そんな、誰かと接触するような走行をしてきたか?
そんなことはあり得ない。僕は知っている。この、異常な発言をするこいつら……まさか。
「警察は刑事事件、国が犯罪者の刑罰を決める手続きを行うもの」しかし、相手に金を払えだと?告訴されるだと?それは民事じゃないのか?
警察は「民事不介入」。事故の時に、一切被害者にも加害者にも、そういう話はしてはならないのではなかったのか?
本当に、本気で警察官が、こんな発言してくるって、自分の直感は、やはりこれは当たっている。
「母、直子は、交通事故を、でっち上げられようとしている」……警察官に。
そして、純は考えた。ここまででも充分、「民事不介入」の法規違反だと思うが……これは、こいつらもっと決定的な事をこの先言う可能性が……あるぞ。
直子を横断歩道の角まで、盛山警察官は誘導し、角にある饅頭屋の少しのスペースに自転車をいったん停めさせた。
「【録:ガタンゴトン】」という走行音が入る。
盛山敦志「【録: 自転車運転してるときって、カゴに荷物は入れてありました?】」
工藤直子「【録:はい、前かごに】」
鞄を入れて見せた。
工藤直子「【録:あの……」直子は盛山警察官に切り出した。「あの人に、一度謝ってみたいんですけど、どうですか、そしたら……】」
盛山警察官の目が、笑ったように見えた。口はマスクで隠されて見えないのだが。
盛山敦志「【録:わかんないです。相手さん次第。相手さんがどういう風に納得して、納得しましたって言ってくれれば……】」
フン、というような抑揚で、嬉しそうな勝ち誇った目をする。
そして、謝ってみると言った時のあざ笑うような声。
工藤直子「【録:わかりました。一応、……謝ってみます】」
この異常な事から、頭のオカシイあの男から、グルの警察からとにかく解放されるには、ここは謝ってでもなんでもいい。
仕事に、ピアノレッスンに帰宅しなくてはいけない。こんな事で……。直子の脳裏には彩人君、真理子先生、その後の華ちゃんの顔が次々に浮かんだ。
彩人君のレッスンは、真理子先生に頼むことが出来たが、華ちゃんのレッスン時間19時15分までに帰りたい。
この時でさえ、この後の絶望的な、警察のトンデモ捜査が繰り広げられようとは、直子と純は想像だにしなかった。
盛山敦志「【録:言ってみないとわかんないんで。後で。後で。まあちょっと全部諸々僕らの手続き終わらせてもらっていいですか。その間、ちょっと検討しといてください。想定とかね。】」




