ー 009 あの日の約束は守られた
湿気を帯びた風は俺の体に纏わりついている。
体が重く、こんなに暗くなってもすぐに家に帰ろうとも思えない。
家と言っても大神殿が用意しているラナキラの独身寮。
つまり帰っても俺を待っている者は誰もいねえ。
まあ、その前にとっくの昔に家族を全員失っているからそんなもんは最初っからねえんだけどな。
俺は赤ん坊の時に家族を失った。
それは一つの村をいとも簡単に壊滅状態にさせた大災害と魔物共の襲撃によるものだったらしい。
そのせいで俺は家族どころか故郷までもなくしてしまった。
そんな中でどうして赤ん坊の俺だけが生き残ったのかと言えばマイカイの力だ。
マイカイの何でもお見通しの力で俺の居場所がわかったんだとさ。
そうやって救出された俺はそのまま大神殿のあずかるところとなり今に至る。
こんな生い立ちのせいか俺は他の奴等とどうも上手く馴染めねえ。
別に仲が悪いってことじゃねえんだ。
ただ、他の奴等が言う普通って意味がずっとわからないでいる。
普通に~?
普通って何だ?
普通に嬉しい?
普通に悲しい?
普通に家族を作る……。
俺にはそう言った普通がない。
だからかもしんねえが俺はこのもやもやした気持ちが何なのかがわからねえ。
どのぐらい前から感じているかは忘れたがこの気持ちはどんどん強くなっている。
何とも言えねえむしゃくしゃした気持ちにさせられる。
「……くそっ!」
その気持ちにおし潰されそうになった俺は駆け出していた。
目的地はない。
気持ちの赴くがままに走り続けた。
そしてどのぐらい長い間走ったかわからないが止まった。
辺りにもうすっかりマカヒキで集まっていた輩の姿はない。
あるのは星空をうつした海だけで上下に同じ星空が広がっている。
その海から聞こえる波の音はほとんどしない。
俺以外に人もいないせいか静寂をそのまま表した空間となっていた。
「ぜぇぜぇ……何してんだ俺!」
そう言った俺は頭を抱えその場に座りこんだ。
するとまたあの気持ちが攻めて来る。
「俺にどうしろって言うんだ!!」
俺はその気持ちがどこかに行くように声を張り上げた。
「……カイ」
すると聞き覚えのある声が俺の名を呼ぶ。
「ア……ヌエヌ……エ?」
そして俺がゆっくり顔を上げるとそこに星空を背景にアヌエヌエがいた。
しかも、にこにこ笑って俺を見下している。
「どうしたの、カイ?」
呆然となった俺にアヌエヌエはそのままの笑顔で聞いてきた。
「別に何でもねえよ! お前こそ何してたんだ!」
ムカついた俺は声を荒げた。
「カイのためにずっといのってた」
まだアヌエヌエは笑ってやがる。
「ふざけんなよ!」
勢いよく立ち上がった俺はまた声を荒げた。
「ねえ、カイ。やくそく!」
それでもアヌエヌエは笑っている。
「はぁ? 何のだよ?」
俺の勢いは少しだけ減った。
「もういっかい、アヌエヌエっていってくれるってやくそく」
ずっと、にこにこしているアヌエヌエに俺は頭をグシャグシャッとかいた。
「何下らねえこと言ってんだ?」
「くだらなくなんかない! わたしはやくそくまもったんだよ!
だからカイもまもって!」
アヌエヌエの頬は、ぷくっと膨れた。
なに機嫌損ねてんだよ?
怒ってんのはこっちだぞ?
「ほら、そんなこと言ってねえで帰るぞ」
はぁと溜息をついた俺はアヌエヌエに右手を出した。
「いや!」
するとアヌエヌエは、ぷいっと顔を背けた。
この反応は初めてだがさらに機嫌を損ねたか?
全く、ワガママはいつまで経ってもなおらねえんだから。
「……一回だけだからな」
俺が素気なく言うとアヌエヌエはそのまま頷く。
「……アヌエヌエ」
そして何故か頬が熱くなった俺がそう言うとアヌエヌエは、ぱっと俺を笑顔で見た。
「ほら! さっさと行くぞ!」
それから俺はアヌエヌエの手を取った。
次回 ー 010 どうして……




