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ー 008   またマカヒキの夜がやって来た

 アヌエヌエとあの約束をしてもう一か月が経った。

 俺はその間ずっと謹慎していた。

 所謂自宅謹慎ってやつだ。

 まあ、当然だわな。

 門限は二時間近く過ぎてたわけだし、アヌエヌエは泣いていたし。

 そのせいで大神殿の何人ものお偉いさんからえらく怒られてしまった。

 それでも命があるだけマシってもんだ。

 そんな俺は久しぶりに大神殿でのお勤めを始めた。

 一か月ぶりに来たが大して変わった事はない。

 大神殿の中にいる奴。

 流れる空気。

 聞こえる音。

 俺に集まる視線は増えた気はするが……。

 アヌエヌエがあんなことを言ったから気になっていたが何にも変わりねえじゃねえか。

 この分ならさっさとアヌエヌエもお勤めを終えれるだろう。

 それまで俺も真面目にお勤めするとするか!

 今日もパライバトルマリン島の太陽の光は眩しい。

 さっさとあの場所で休憩したいもんだ。

 そんなことを思いながら俺が衛兵のお勤めに就いていると

何人ものラナキラの仲間から話し掛けられた。

「マカヒキの夜は楽しかったかい?」

「禁断のお相手は誰だ?」

「俺はいつまでも親友だからな」

 話し掛ける内容はこんなからかいばっか。

 どうやら俺の自宅謹慎の理由が聞きたいってのが本音のようだが下らねえ。

 誰が言うかよ!

 それにお偉いさん方からアヌエヌエとマカヒキに行ったことは口止めされてるもんで、

誰にも言えねえんだ。

 俺はのらりくらりとそいつらのからかいをかわしていった。

 そして一応あの場所に行った。

 来るわけねえが少しばかし待ってみた。

 相変わらずここの居心地はいい。

 今日もいい風が海から流れこんで来ている。

「……さっさと猛ダッシュで来いよ」

 そう言って俺はその場を後にした。

 それからそんな日が一週間、一か月、半年と過ぎていった。

 その間で特に変わったことはない。

 パライバトルマリン島はずっと変わらず平和そのものだった。

 ラナキラである俺の力なんて一つもいらなかった。

 本当にアヌエヌエが言ってたことなんか起こるのかよ?

 それともアヌエヌエが努力してるから何にも変わんねえのか?

 だとしたら……。

「何でアヌエヌエだけ苦労しねえといけねえんだ?」

 そう言った俺は大神殿の壁を蹴った。

 すると、ガッと音がして少しだけその壁が崩れ落ちた。

 しくったな。手加減したつもりがこうだ。

 ラナキラは本当に力バカだ。

 ちょっとの力ですぐこうなってしまう。

 しかも自分は痛くもねえし、無傷。

 ……とりあえずずらかるとしよう!

 俺はこの場を黙って去った。

 その場に湿気のこもった風が流れる。

 そのせいかその日は異常に暑く感じた。

 そんなこともあったがまたマカヒキが行われる日となった。

 いつの間にかあの壁は修復されていた。

 一応、犯人はわからずじまいってことになっている。

 もしかしてこれもアヌエヌエのおかげなのか?

 聞いてみたいところだがあの日からアヌエヌエとは会っていない。

 何してんだよ。あれからもう一年も経ったじゃねえか!

 イライラしながら俺はマカヒキで賑わう中をあの日と同じようにあるいていた。

 あの日とほとんど変わらねえ。

 変わったのはアヌエヌエがいないことだけだ。

 いや、もう一つある。

 あの指輪を買った店がなくなっていた。

 既に何の店だったのかさっぱりわからねえようになってるってことは

だいぶ前には閉めたってことか。

 まあ仕方がないわな。

 去年行った時でも客は俺達しかいなかったんだし。

 あの店だった処はボードで隠され、ただの黒い壁となっていた。

 満天の星空の下、あの日と同じ風が俺の服とその壁だけを揺らす。

 そしてもっと強い風が吹いて来た。

 その風は湿気を帯びていて俺の体を強く押した。

 ああわかったよ。

 ここを去れって言うんだろ?

 その風にそう言われた気がした俺は言う通りにこの場を後にした。

 次回 ー 009   あの日の約束は守られた


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