ー 007 来年のマカヒキでな
俺は背負っているアヌエヌエのワガママを聞いた。
マカヒキのフィナーレの星空のようにアヌエヌエの声はかすんでいる。
それでもアヌエヌエは話した。
「カイ、これからこの しまにわるいことがいっぱいおこるんだって。
わたし、せいじょだからいっぱい、いのらなきゃいけないの。
この しまがしあわせでありますようにって」
行く先々にかがり火があり闇夜を照らしていた。
そのせいでゆっくり歩く俺の周りはみんな楽しそうにしていることがわかる。
俺の足音なんか全く聞こえねえぐらい笑っていた。
うるせえな。
アヌエヌエの声が聞こえねえじゃねえか。
文句を言いたいが今はアヌエヌエの声に集中する。
「わたし、いっぱいいのるね。
カイが、しあわせでいられますようにって……」
俺の足は、ピタリと止まった。
いや、動けねえ。
それどころか聴覚までいかれ、周りから聞こえていた音が全く聞こえなくなった。
「……何で俺なんかのために?」
俺は何とか声をしぼり出した。
俺の声はふるえている。
「だってわたし、せいじょだもん」
アヌエヌエの声もふるえていた。
そして俺の背を握る手に力が入る。
俺の手にも力が入った。
「わけわかんねえよ。お前が祈るのはいつものことじゃねえか」
「うん」
「じゃあ何で変なこと言うんだ」
「いっぱい、いのらなきゃいけないんだって。カイに、あいにいけなくなるぐらい」
一瞬、俺の手の力が緩んだ。
しかしすぐに力を入れる。
アヌエヌエをはなさねえように。
「……そうかよ」
それでも出たのはそれとは裏腹なアヌエヌエを突き放す言葉だった。
「カイはさみしくない?」
「別に」
「わたしはさみしいよ」
「ふーん……」
何でだろうな。
何で正直に言えねえんだろう。
何で俺もだとか一言を言ってやれねえんだろうな……。
結局アヌエヌエに大したことを言えずに大神殿付近まで帰って来た。
もうマカヒキの灯りは消え去り、ここも灯りがねえから満天の星空が目立つ。
そして俺の背でアヌエヌエは眠ったようだった。
あれから一言も喋らねえ。
「……っ!」
俺の足は前に進まなかった。
イライラしてそれどころじゃなかった。
「……おい、起きてんだろ」
知ってんだよ。
寝たふりしていることぐらい。
「……うん」
ほらな。
アヌエヌエはすぐに返事をしやがった。
嘘、つきやがって。
「さっさと祈りなんて終わらせてこい」
苛立ちを抑えながら俺は話した。
「うん」
聞えたアヌエヌエの声は小さい。
本当にイライラする。
それでも俺は話した。
「それとな、もし失敗しても気にすんな。
俺は強いからどうとでもなる」
「うん」
「あと、お前一人ぐらいなら守れっから」
「カイ?」
アヌエヌエが、ビクっとしたのがわかった。
「もし、そんなことぐれぇでお前を悪く言う奴がいたら俺が全員ぶん殴ってやる!
もし、魔物がお前を狙ってきたら俺が全部ぶったおす!
だからさっさと終わらせて帰って来い!
お前がそんなんだったら、イライラすんだよ!!」
今日の俺は変だ。
何言ってんだ?
知るか!
勝手に出てしまったんだから!
「……うん! やくそくする! らいねんのマカヒキまでにかえるって!」
しかしアヌエヌエの声はいつも通りとなった。
そしてそのまま話し続ける。
「だからカイ、まっててね?」
「へぇへぇ」
「もうっ! まってるっていって!!」
「わーかったって! 待っててやるよアヌエヌエ!」
「……っ!」
アヌエヌエが頬を思いっきり引っ張ったせいで思わず俺は禁断の言葉を言ってしまった。
すると俺の頬の引っ張りはなくなった。
「……もういっかい、いって?」
なに甘えてやがる!
「駄目だ」
「いってよ」
「……来年のマカヒキでな」
「うん!」
今日の俺はどうかしてる。
こんな約束をしちまうなんて。
しかし俺はアヌエヌエと約束してしまった。
次回 ー 008 またマカヒキの夜がやって来た




