ー 003 何かが足りない昼下がり
アヌエヌエとマカヒキに行く日の朝となった。
この日はまた雲一つない快晴。
太陽が出ている時間、俺は衛兵として大神殿の中を適当に回っていた。
一応こう見えても俺も一端のラナキラなんでね。
魔物が来ようが来まいがお仕事はしておかないと!
そして昼、うるさい大神殿のお偉いさん方の目を盗んでまたバルコニーのあの場所に来た。
もちろんあの便利グッズたちを持参して。
今日もいい景色だ。
海風も軽く木々を揺らし、いつもと変わらない景色をつくり出している。
しかし何かが足りない。
そう、アヌエヌエだ。
いつもならアヌエヌエが猛ダッシュで駆けて俺の腹にダイブするのにそれがない。
アヌエヌエの奴、何してんだ?
まあ今日の夕方には会うことになってるから
今ここに来なくともどうってことはないんだが何となくもやもやする。
「……んで来ねえんだよ」
て、俺は何言ってんだ!?
アヌエヌエはああ見えても聖女さまだ。
忙しいに決まってるじゃないか。
そういつもいつも俺の所なんかに来れるわけがない。
俺の所になんか……。
何かここにいてもつまんねえから戻るか。
そう思った俺は頭をブンブン振ってここを去った。
それからだらだらと時間が経ち、ようやくアヌエヌエとの約束の時間となった。
ほんと、今日は暑くてイライラした。
「カイ!」
そんなことを微塵も感じていないアヌエヌエは相変わらず猛ダッシュで来やがった。
しかも何だよあの笑顔は?
それに何て鮮やかな青色のノースリーブのワンピース着てんだよ?
それをパタパタ膝上でひるがえし、バタバタといつものサンダルで駆けて来るアヌエヌエ。
「わわっと!?」
お決まりのようにつまずきやがった。
くりっとした目が飛び出しそうになった光景がスローモーションになって見える。
そのおかげか俺はアヌエヌエがころぶ前に受け止めることができた。
「カイ!」
「カイ!じゃねえだろ聖女さま? けがしたらどうすんだ?」
「えへへ」
俺の腕の中で、にこにこするアヌエヌエ。
ころばなかったからよかったものの、どういう神経してんだよ?
あぁ後ろにいらっしゃるお偉いさん方の顔の怖いこと怖いこと……。
これって俺が悪いのか?
わけがわからん!
溜息が出てしまった俺がはなすとアヌエヌエの頬は、ぷくっと膨れた。
何故に怒る?
本当にアヌエヌエはよくわからない。
そんなアヌエヌエだったがすぐに頬の膨らみはなくなった。
お偉いさん方から何を言われてもずっと、にこにこしている。
俺はと言うと……例の魚の目になっていた。
やれ、外出時間は二時間だの。
アヌエヌエにけがさせるなだの。聖女だとばれるなだと……。
くどくどと時間をかけて同じことを何人ものお偉いさんから言われた。
耳にタコができてるなこれは。
それと言われなかったがお偉いさん方のその笑顔の後ろにある顔で悟った。
言われたことを一つでも守らなかったら俺の命はないんだと。
へぇへぇ、そんなこと言われなくともわかってるわ!
アヌエヌエは聖女さまだもんな。
言い付けは守るさ。
あの魚の目で俺はお偉いさん方に言ってやった。
するとアヌエヌエが俺の右手を取ってきた。
「カイ、いこう!」
ぎゅっと手を握るアヌエヌエ。
笑うアヌエヌエ。
今までで一番の弾けるような笑顔を俺に向けてくる。
アヌエヌエは本当に子供だ。
しかし暗くなり灯った柔らかいライトの光はアヌエヌエの顔を少し大人にみせた。
って、俺は何を考えてんだ?
昼間の暑さでどうかしちまったか?
ほら見ろよ、あのお偉いさん方の恐ろしい目。
やばいやばい、しっかりしろと苦笑する俺。
「カイったら!」
ほら見て見ろ
アヌエヌエの頬はまた子供のように、ぷくっと膨れた。
そう、いつものアヌエヌエじゃないか。
俺はそのアヌエヌエとマカヒキへ向かった。
次回 ー 004 マカヒキの夜




