ー 017 変なオヤジの手作り具だくさんペイストリー
不思議なことに握っているアヌエヌエの指輪から温かさが伝わって来る。
それはマカヒキの夜にアヌエヌエの手を握ったような感覚だった。
「カイ君。聖女さまはその指輪にこめたように君と家族になりたかった。
別に変な意味ではなく聖女さまを特別扱いせずに普通に接してくれる君となら
何でも言える家族になれると思ったんじゃろう」
「……」
オヤジは本当にマイカイとしての力は大してないのか?
オヤジから言われるほとんどがムカつくことに当っている。
だから悔しいことに何も言い返せねえ。
よお、オヤジ。どうせこの次は、ろちもんとか言うんだろ?
しかし俺は心の中で言ってやった。
「……」
ちっ、だんまりかよ!
イマイチ食えねえオヤジめ!!
「儂は食べられんよカイ君?
まあ、冷めてしまったが最後の一つの儂の手作り具だくさんペイストリーを食べないかね?」
相変わらずふざけたことを言うオヤジに負けた俺は
そのオヤジの手作り具だくさんペイストリーとやらを食べることにした。
ここで食べねえと後で面倒なことになる。
そして一口それを口に入れると冷めた割にはサクッとしたパイ生地の中にこれは……牛肉か?
小さいサイズの牛肉と玉ねぎ、じゃがいも、それに何かの混載が入っていた。
パイ生地からはバターのいい香りがしやがる。
そして中の具材からはピリっとした辛さが伝わって来た。
しかしこれはホットチリだよな?
こんな辛いものをガキに食わせて大丈夫なのかよ?
「ろちもん」
しまった。
満面の笑みのオヤジにそれを言われてしまった。
何だその勝ち誇った顔は?
そうさ!
辛いのが苦手で悪かったな!
俺はちょっとの量でも辛く感じるんだよ!!
またイラっとしながらもオヤジの手作り具だくさんペイストリーを食べ終わった俺が睨むと
オヤジは、うんうん頷きながら話始めた。
「なあ、カイ君。君にとって大切な存在の聖女さまの願いを覚えているかい?」
「アヌエヌエの願いだと?」
まだ口の中がほんの少しヒリヒリしている俺の口から言葉が出た。
「そう、聖女さまの願い。それは君の幸せだ。
ろちもん、生きている君のね?」
「……」
また勝ち誇った顔のオヤジから言われたくねえことを言われた俺の口は閉ざされた。
「カイ君、君は神殿長さまにどんな思いをぶつけたんじゃったか?」
くそっ、そんなことまでわかんのか?
どうやら悔しすぎて俺の口は暫くの間、開きそうにない。
そうさ、俺は神殿長に心の中で言った。
楽して死のうとなんか思うんじゃねえよ!!てな。
それなのに俺は死に場を求めて何年も放浪している。
他人に説教しておきながら自分はどうだとでも言いたいんだろう?
「まあの」
だよな。
言われるとは思っていたがイラっとする。
「月並みだがねカイ君、君は辛くとも生きなくてはいけない。
聖女さまが大切ならばね」
簡単に言うなよオヤジ。
それができたらこんなに苦労なんかしてねえよ。
「なあ、オヤジ。
えらそうに言うがよ、アヌエヌエは俺に何でも言うことができる家族になりたかったんなら
どうしてあの日のことを何も言わなかったんだ?」
開いた俺の口からはこんな下らねえ言葉しか出なかった。
わかってんだ。
言えるわけがなかったってことぐらい。
しかしどうしても俺の口からその言葉が出てしまった。
「そうじゃの……大切なカイ君にそんなつらいことは言えんかっただろう。
それに大切な父親にもな」
そんな俺に、ふぅと大きく息を吐いてからオヤジはそう言った。
そして睨む俺を、じっと見つめ話し始めた。
「話は少し変わるが儂のワイフも何も言わずに旅立ってしまった。
本当に急なことでな。
儂はマイカイとしての力のなさに自分を責め続けたよ」
急に重苦しい話となったが俺は黙ってオヤジのその話をきくことにした。
次回 ー 018 変なオヤジと嘘つきガキの過去




