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ー 016   変なオヤジから認めさせられたこと

「すまんねカイ君。ディランを運ばせてしまって」「

「……」

 ディランとは俺の隣でつっぷして眠ってたガキの名前だ。

 オヤジの話が長くなりそうなんであのガキを寝室に連れて行こうとしたが

あのガキは何をしても起きなかった。

 そしてオヤジはあのガキを運ぼうとしたが非力すぎて無理だった。

 で、オヤジに泣きつかれた俺が運ぶ羽目となった。

 ……嘘つけ。本当は運べただろうが!

「ばれたか」

 にっこり笑ったオヤジはそう言った。

 そんなムカつくオヤジと俺はもう皿に一つしか残っていない

オヤジの手作り具だくさんペイストリーがある机を挟んで座っている。

「ところでどこまで話したんじゃったかの?」

「てめえの店に俺達が行った時の話だよ!!」

 ムカツクことばかりするオヤジに俺は声を荒げてしまった。

「そうだったね。いやいや、歳は取りたくないもんだ」

「……」

 全くわざとらしいことしやがって!

 何、なはっはっ!て笑ってやがる?

 本当は覚えてんだろ?

 んなオヤジ劇場はもういいからさっさと話せと思った俺が無言でオヤジを睨むと

オヤジの目にまた涙が見えたが、はいはい言って話始めた。

「君達が儂の店を訪れるほんの数週間前にワイフは虹の袂に旅立ってな。

 あまりにも急なことで儂は暫くの間、店を閉めておったんじゃ。

 そしてそのまま店じまいしてワイフの故郷のこの地に旅立とうと思っておったんじゃが

君達があの時間に訪れる未来が見えてな、あの時間だけ開けておったというわけなんじゃ」

 こんな冗談の塊のようなオヤジにも辛いことがあったんだな。

 さすがにこんな話をきかされると何も言えねえな……。

「言うとるがな!」

 ……ちっ、また俺の心を勝手に読みやがって!

 少し目尻が上がったオヤジの目を俺は睨んだ。

「全く、聖女さまもこんなカイ君のどこがそんなによかったのかね?」

「知るか」

「では、カイ君は聖女さまのことをどう思っているのかね?」

「俺がアヌエヌエのこと……」

 オヤジに聞かれ俺は考えた。

 アヌエヌエはワガママで機嫌を損ねたら頬が、ぷくっと膨れて面倒で……。

「そんなことじゃない! 好きかと聞いているのだよ!!」

 また俺の子頃を呼んだオヤジはとんでもねえことを聞いてきやがった。

 俺がアヌエヌエのことを好きかだと?

 んなわけあるか!

 だいたい歳を考えてみろ!!

 俺とアヌエヌエは何歳歳が離れてると思ってやがる? 

「歳は関係ない! 儂とワイフも一五は離れておったぞ」

 オヤジ、そんな歳の差だったのか……。

 えっと、オヤジが上だよな?

「ろちもん」

 だよな。

 つい心の中とは言え、聞いてしまった。

「いや、そういうことじゃなくって!

 アヌエヌエは子供だ!

 そういう目でみれるわけねえだろ!!」

「人を好きになるのにそういう目とはどういう意味だね?

 君が聖女さまを失ってどういう気持ちになったのか思い出しなさい!!」

 オヤジに怒鳴り返された俺の頭にあの時の光景がくっきりと蘇った。

 そう、アヌエヌエが光となって消えたあの光景。

 その時に感じた心の痛み。

 いまだに続いているその痛み。

 いや、それ以上前から感じていた嫌になる気持ち。

 それが俺がアヌエヌエに抱いていた思いなのか……?

「そうだよカイ君。君にとって聖女さまは掛け替えのない大切な存在だったんだ。

 そして聖女さまも君と全く同じ思いだったんだよ。

 だから儂にあの文字を刻むように依頼してきたんだ」

 えらく真面目な顔で真面目なことを言ったオヤジは、じっと俺を見つめてきた。

 何でこんな変なオヤジからそんなことを言われなきゃいけねえんだ?

 イラっとしたが俺は素直にそのオヤジの言葉を受け入れてしまった。

 そう、アヌエヌエは俺にとって掛け替えのない大切な存在。

 それを認めた俺はアヌエヌエの指輪を、ぎゅっと握った。

 次回 ー17 オヤジの手作り具だくさんペイストリー


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