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ー 014   幸せの指輪

「儂は長年パライバトルマリン島のあの店で宝石商を営んでおった」

 マイカイだと隠してたオヤジは自称手作り具だくさんペイストリーをもぐもぐ食べながら話した。

 ちなみに俺はまだ一つも手をつけてねえ。

 そして右隣に座っているあのガキは次から次へと腹に入れていく。

小さいわりには信じられねえ食欲だった。

 どんだけ食えば気が済むんだ?

「あの店は儂のワイフと始めた店でな、それなりに繁盛していたよ。

 それもこれもワイフのおかげなんじゃがな。

 あっ、これもワイフから教わったんじゃった」

 そんな俺達の前でにまにましながら話すオヤジは

また手作り具だくさんペイストリーを右手で一つ取った。

 これもって、恐らくその手作り具だくさんペイストリーの作り方のことなんだろうが……。

 その前にこのオヤジに嫁さんがいたのか?

「ろちもん」

 またオヤジは俺の心を読みやがった。

 何だその細めた目は? 自慢してるつもりか?

 イラッとした俺の前でオヤジの目尻は、デレっと下がった。

「可愛かったぞ? 写真みてみるかい?」

「……」

「そうかそうか。やっぱみたいわな。まっ、それはあとでな」

 んなことは言ってねえんだが目尻が下がりっぱなしのオヤジはまた話し始めた。

「ワイフのデザインしたアクセサリーは大人気でな。

 特に指輪が一番じゃった。

 そして噂が噂を呼び幸せの指輪なんて呼ばれるようになったんじゃ」

「幸せの指輪……?」

 俺が、はっとすると手作り具だくさんペイストリーをまた右手で取ったオヤジは小さく頷いた。

「そうだよ。聖女さまがカイ君にねだった指輪だ。

 君は今までその指輪を大事に肌身離さず持っているだろう?」

 そしてオヤジはその手作り具だくさんペイストリーをふりふりと揺らした。

 何のつもりか知らんがそんなこともわかんのかよ?

 図星を突かれた俺の眉間にしわが寄る。

すると、もぐもぐと手作り具だくさんペイストリーを食べ終わったオヤジは得意気な顔をして

俺を見ながら机に置かれてあった白いナプキンで手を拭き出した。

「カイ君。一つ聞くがその指輪に聖女さまがこめた思いを見たかい?」

 そしてそのままのムカつく顔でそう言った。

「アヌエヌエがこめた思いだと?」

 そう言った俺の右眉がピクッと動く。

「やはり幸せの指輪を知らんかったか?」

「知るか」

「酷いな」

 何故かオヤジの目に涙が見えた。

「……何で泣くんだ?」

「だって、儂はそれで一躍有名になったんだもん」

 そしてさっき手を拭いたナプキンでオヤジは涙を拭った。

 こいつは何を言ってんだ?

 しかも変な言葉遣いしやがって!

 わけがわからなくなった俺がオヤジを睨んでいるとオヤジは席を立って

すごすごと部屋を出て行った。

 しかしある物を持ってすぐに戻って来たオヤジは元居た席に座った。

「カイ君、これでその指輪の内側を見てごらん?」

 そしてそう言ったオヤジは俺に持って来た物をすっと手渡してきた。

 俺がそれを受け取るとそれは小さい筒状のルーペだった。

 何でそんなことをしねえといけねえんだとは思ったが俺は言う通りにすることにした。

 どうせそうしねえとオヤジは面倒臭いことをしてくるに決まってるからな。

 そう思った俺は懐に入れていたアヌエヌエの指輪が入った巾着袋を取り出した。

 この小さな青い巾着袋にあの指輪はずっとしまっている。

 俺がパライバトルマリン島を出てからは一度も開けてない。

 開ける勇気がなかった。

 あの指輪を見るとどうしてもアヌエヌエのことを思い出してしまう。

 アヌエヌエのことを思い出すとどうしようもない気持ちから責められ苦しくなる。

 しかし手放せなかった。

 何故か絶対に手放したくなかった。

 だからずっと持っていた。

 そんな指輪が入っている巾着袋の口を縛っている紐にふれた俺の指はふるえた。

 次回 ー015   アヌエヌエが指輪二こめた思い

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