ー 011 神殿長
バンッ!
激しい音がして勢いよく扉は開いた。
俺はようやく目的地である神殿長の部屋に到着した。
そして目に飛び込んできたのは机に置かれた白いテェーセットで優雅にテェータイムを楽しんでいる神殿長の姿だった。
あんなデカい音がしたにもかかわらずテェーカップを右手に持って啜っている。
その神殿長の装いは白の足首までのワンピースで所々金の装飾がされているものだった。
そう、こんな時間だがすぐにでもお勤めを始められる姿。
一体、何を考えてやがる?
上がった息を整えながら俺は少し考えた。
すると、カチャリとテェーカップはソーサ―に置かれた。
「やあ、カイ。時間通りだね」
そして俺を微笑んで見た神殿長は優しい声でそう言った。
その目も穏やかなもので誰からも親しみが持てるものだろう。
神殿長と言ってもこいつは俺より五つだけ歳が上の男。
髪は整った黒い短髪で肌の色と瞳の色は俺と同じだが俺からすればはるかにきゃしゃな体つき。
それはこいつがラナキラではなくマイカイだからだ。
しかしこいつのマイカイとしての能力は他の奴等に比べずば抜けて凄い。
こいつのおかげでパライバトルマリン島はこの二六年間平和なわけで俺も命拾いした。
そう、こいつの全てを見通す目で俺はあの時に助かった。
だからこいつには俺がこの時間に現れるってこともお見通しだった。
「聞きたいのはアヌエヌエのことだろう?」
だから俺が言いたいこともわかっていた。
「カイ、あの娘は聖女だったんだ。あの娘もそのことは重々わかっていた。
だからあの日に笑って旅立ったんだよ」
しかし納得がいくわけがなかった。
「……てめえ、それ本気で言ってんのか?」
当然、俺の口からはこんな感情のない言葉しか出ない。
「ああそうだよ」
神殿長は優しく微笑んでテェーカップを取った。
それからテェーカップに入っていた飲み物を飲みほしてまたソーサーに置くと
また、カチャリと音がした。
「もう一度だけ聞く。本気でそれ言ってんのか?」
俺は我慢の限界だった。
たぶんどんな答えを聞いても次に俺が起こす行動は変わらなかっただろう。
「もちろんだよ。私もアヌエヌエもそれがパライバトルマリン島のためだって思ってたか……」
神殿長が全てを言い終わる前に俺は殴りかかっていた。
すると机に置かれていたテェーセットは、ガシャンと音を立て粉々になった。
それどころか机も凄い音を立て、元の形は見る影もなくなった。
神殿長が座っていた椅子だけは遠くに飛ばされたがその姿をまだ保っている。
神殿長はと言うと馬乗りになっている俺の下で微笑んでいた。
左頬は腫れ、唇は切れて血が出ているのにもかかわらず俺を優しく見つめてくる。
「……何、てめえは笑ってんだよ?」
肩で息をする俺は憎しみの目で神殿長を睨みつけた。
このまま殴り殺してやろうと思った。
「カイ、そうしてくれていいんだよ?」
こんなこともわかんのかよ。
本当にムカつくな。
神殿長の奴は笑ってそう言いやがった。
「ああ、てめえが望むようにしてやんよ。だがな、その前に一つ答えろや」
そう言った俺の声は怒りにふるえていた。
何で……何でアヌエヌエはこんな奴の言うことを素直に聞いたんだよ?
「……それはね、君のことが好きだったからだよ」
また神殿長は笑って俺の心の声に答えた。
「ふざけんな!! アヌエヌエはてめえの本当の娘だろうが!!」
俺はこの部屋が、ビリビリとふるえる程に怒鳴った。
アヌエヌエはこいつの実の娘だった。
それなのにこいつはアヌエヌエにパライバトルマリン島のために、
いや、俺のためにその命を捧げろと命じた。
「そうだね。だけどあの娘は私の娘の前に聖女だったんだよ」
神殿長の奴はまだ笑ってやがる。
どうやら望みを叶えてほしいようだ。
次回 ー 012 見えなかった未来




