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81 深淵より凝視するもの



 この回を書くため、何十年かぶりに古典SFの名作を読み返しました。



 甲一種QJ型アストラル体育成プラント子機。

 それがこの世界に設置されたセフィロトの正式名称だった。

 製造番号は815963。

 つまり、この世界は超越者たちによってエーテルを生産するために創られた、八十一万五千九百六十三番目の世界ということになる。


 はるか彼方に過ぎ去った過去において、人為的な進化の過程で肉体という檻を脱ぎ捨てた超越者たちではあったが、非物質的な精神生命体に到達した彼らといえども、存在しつづけるためにエネルギーが必要であることに変わりはなかった。


 彼らが必要としたエネルギーは生体光子(バイオフォトン)

 人類を含む脊椎動物からアメーバのような原生単細胞の無脊椎動物、細胞核を持たない細菌、植物にいたるまで、およそ有機化合物で構成されたあらゆる生物が、日々の活動を営むなかで生成する微量の光。

 超越者は、このバイオフォトンをみずからの出自である古い文明への畏敬と懐古を込めてオーラと呼び、オーラを物質化した元素をエーテルと名づけて、すべての力の源泉とした。


 高次生命体として肉の(くびき)を脱したにもかかわらず、血と肉を由来とする低次生命体がいなければ生命を維持できない。

 矛盾するジレンマのようにも思えるが、生態系の頂点に位置するものがもっとも生態系に依存するという自然の法則に当てはめれば、至極当然の帰結でもある。

 結局のところ、超越者などと自称して神のごとき力を(ふる)い、数多の世界の生殺与奪を(ほしいまま)にしようとも、彼らが動物の一種であることにはちがいない証左でもあった。


 とはいえ、彼ら超越者が生態系という概念の上位捕食者(トッププレデター)に位置するかというと、答えは否である。


 肉体を持たず、消化による栄養吸収という化学反応を必要としない超越者が、生存のために他の命を奪うことはない。

 むしろ、生物の旺盛な生命活動こそが彼らの欲するエーテルの源であるかぎり、多種多様な種の繁栄は自分たちが存在するための前提条件ですらあった。

 その意味で、膨大な種類の有機生命体が繁茂する惑星は彼らにとってエネルギー生産工場であり、惑星の持つ恒常性を利用してみずからが欲するように生命の繁殖システムを作りあげた超越者は、まぎれもなく生態系の生産者だといえた。


 そして、生産者である以上、その最優先目的は品質の向上と効率的な生産性にあるという普遍の真理は、超越者にも当てはまった。


 いかにして、必要最小限のコストで高品質のエーテルを大量に生産するか。


 いくつもの銀河系を使い、天文学的な回数の試行錯誤を繰り返したのちに彼らがたどりついた法則は、多くの基本原理がそうであるように、拍子抜けするほどシンプルなものだった。

 強靱な肉体を持ち活発な思考活動をする知的生命体ほど、多くのバイオフォトンを放出する。

 換言するならば、生命力の強い者ほど強烈なオーラを発する。

 この結論に到達したとき、超越者たちが創造する世界の方向性が決まった。

 弱肉強食による激しい自然淘汰である。


 理想とする生産工場を建造するため、超越者たちはまず最初に徹底した惑星改造(テラフォーミング)をおこなった。


 生命体の放つオーラを物理作用へと活性化させる精神物質を、惑星のコアから生成。

 その精神物質は大気中に混合されることで触媒として作用し、オーラをエーテルへと元素変換することが可能となる。

 変換されたエーテルは、地殻内部に血管のように張り巡らされたエネルギー流通路に取り込まれて惑星内部を循環し、さらに高純度エーテルとして精製される。

 そして精製の過程で排出された不純物をエネルギーとして、コアから新たな精神物質を生成、大気中に放出。

 このプロセスを回転させることで、惑星自体を外部から燃料を投入することなく稼働する閉鎖式自動エーテル精製機へと造りかえたのだ。


 大気中に充満した精神物質は、意思による物質的な事象への干渉を可能とさせる。

 思考を起点とした物理現象の発動。

 つまり、魔法である。

 超越者たちは地に魔法をもたらす精神物質を魔素と呼び、エーテルを循環させながら魔素を吐き出す惑星の血管網を、古の東洋思想に由来する龍脈と名づけた。


 長い時間と技術の粋を集めて必要とする環境を作りあげた超越者たちは、自分たちの目的に合致するよう幾世代にもわたって品種改良を積み重ねた多様な生物たちをそこに播種した。

 そうしてできあがった惑星こそが、魔素に満ちあふれた大地を舞台に、圧倒的な身体性能を誇る異形の魔物が跋扈(ばっこ)し、魔法という強大な力を手に入れた幾種類もの人類が互いの生存圏拡大を競ってせめぎあう、この世界だった。


 環境適応性能と肉体改変能力を強化された魔物は、どのような厳しい自然環境下であろうと迅速に身体を作りかえることで適応し、より強靱な肉体を求めて生存競争を繰り広げる。

 人類は進化の停滞を回避するために、異種間で交配可能なエルフやドワーフ、獣人やヒューマンなど多彩な特性を持つ知的種族が作りだされ、種の存続と繁栄を求めて競いあう。


 爆発的な繁殖力で地を埋め尽くし、知的水準を高めながら文明を発展させていく人類と、猛烈な勢いで自身を進化させながら生物としての頂点を目指す魔物。

 超越者たちは、この二者の生死を賭けた闘争のなかにこそ、燦然たる生命の輝きを見出したのだ。


 しかし、闘争は結果として勝者と敗者を生みだす。

 天敵を排除し尽くしたのちにもたらされる繁栄はいずれ停滞のときをむかえ、緩やかに個体数を減らしながら衰退へといたる事実は、歴史が証明する必然でもあった。


 より強力なオーラを放つ個体を育成するための競争原理と、高い水準で一定量のオーラを放つ群叢(ぐんそう)を維持するための共生原理。

 互いに相反するふたつの命題は、本来であれば進化の法則として交互に繰り返されるものであったが、超越者たちは自然の摂理などという迂遠な概念にとらわれることなく、同時に成立させる道を模索した。


 生存本能を無視して強者へと立ち向かう精神の強さと、血肉を沸騰させて(まばゆ)いオーラを放射する肉体の強さ。

 必要なものは強さであり、重要なものは生命力を底上げするために獲得した強さを種全体で共有する手段だった。

 そのためには、強さという概念を定量化し、再分配可能な数値として蓄積する必要がある。


 獲得した強さを蓄積する。

 この発想の転換を得たとき、エーテルの生産効率向上を至上命題とする超越者の合理化追求は頂点に達した。

 すなわち、惑星に生息するすべての生物の肉体と精神を分離したのである。


 精神生命体である超越者たちにとって、それはある意味当然の結論でもあった。

 純然たる思考こそが生命の本質である彼らからすれば、肉体とは意思に付随する不便な活動器官でしかない。

 ましてや魔法が存在し、精神による身体能力の向上が可能となったこの世界において、肉体は改変可能な構成要素にすぎないとすらいえた。


 分離された精神は、エーテル精製技術を応用して結晶化され、惑星上空の隣接次元に設置されたコントロールセンターにて一括管理されることになった。


 大地から切り離された星の世界に位置することから、結晶化された精神は古代言語にちなんでアストラル体と名づけられ、もとから保持していた自意識は数値に変換されて結晶内部に詰めこまれた。

 超越者たちは肉体と同様、自我もまた交換可能な部品のひとつとみなしたのだ。


 アストラル体には、自意識アイデンティティデータと肉体の身体数値(マテリアルデータ)をワンセットにした個体識別記録インディビジュアルユニットが収納され、そこには生物の種を示す分類学上の階級、雌雄といった基本項目から、筋力、骨格強度、知力、内包魔力といった肉体及び精神の特性、果ては反復修練によって身につけた技能(スキル)まで、個体の運動性能を規定するあらゆる数値が変数として設定されていた。


 地上において生命を得た個体は、その生涯をかけて強さを獲得しつづけ、設定された変数に強さを代入していくことで、己の肉体と精神をより強靱なものに作りかえてゆく。


 肉体の強さと精神の強さ。

 方向性の異なるふたつの強さは、アストラル体内部で一元処理されることによって直結した。

 超越者は統合されたこの強さを、かつて存在した素朴なアニミズムになぞらえてマナと呼称した。


 そして、マナを得て生命力を増大させる営みは、結晶であるアストラル体そのものをより大きく、より複雑な形状に成長させていく行為でもあった。


 地上において肉体が活動を停止させたとしても、別次元に保管されていたアストラル体は残る。

 成長して基本性能が上がったアストラル体に、新しいインディビジュアルユニットを挿入して地上の肉体と接続してやれば、種全体の生命力が向上し、繁栄は途絶えることなく続いていく。

 これこそが、超越者たちが見出した競争原理と共生原理を両立させる解答だった。


 アストラル体とはまさしく容れ物であり、再利用を前提とした魂の器なのだ。


 生命に対する冒涜などという禁忌意識を、超越者たちが抱くことはなかった。

 彼らの目的は採算を度外視した崇高な生命の実験をおこなうことではなく、産業動物を飼育してエネルギーを収穫する徹底した経済活動にある。

 生命の尊厳などというエゴイズムに満ちた感傷に(とら)われて家畜に自由を与えることは管理放棄にほかならず、ましてや大量絶滅に繋がりかねない無軌道な繁殖を放置するなど、それこそ生命に対する冒涜だった。


 超越者たちは、みずからが作りだした生命の織りなす力強い営為を、真摯に祈った。


 強さを。

 立ち塞がるものすべてを蹂躙する(つよ)さを。

 孤高を目指して(かえり)みることのない(つよ)さを。

 強者が強者を生み出し、互いに相剋しながら命を継承してゆく有為転変の輪廻。

 (まばゆ)く輝く生命の奔流こそが奇跡であり、地に満ちる驚異である。

 我らはすべての生命に敬虔なる感謝を捧げ、それを糧としよう。


 そしてセフィロトもまた、胸に祈りを抱いてこの世界にやって来た一人だった。




90年代に海外SFの洗礼を受けた中二病患者にとって、オーバーロードやガイア理論はいまだ魅力を失わない単語のひとつです。あと軌道エレベーター。


今回、念願かなってこれらを用いた話を書くことができましたが、作者は論理的思考ができないバカなので、必要以上に理屈っぽくなってしまいました。反省しております。後悔はしていません。


ファンタジーの世界構造や魔法理論に対して、それっぽい筋道がないとなんとなく座りが悪く感じてしまうのは、SF厨二病患者の宿痾なのだと思います。



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