第四章 17『休息』
四凶討伐――。
その報せが探偵社本部へ届いた頃には、すでに日は沈み始めていた。
夕焼けに染まる空の下、傷だらけの四人がそれぞれの戦場から帰還する。
火神爆。
神威滝壺。
暁照夜。
罪道斬刹。
誰もが満身創痍だった。
だが、その顔には確かな達成感がある。
世界を脅かした四凶。
その全てを、自分たちの手で倒したのだから。
探偵社本部の医務室。
消毒液の匂いが漂う室内には、ベッドが四つ並べられている。
「いてててて……」
一番最初に声を上げたのは爆だった。
包帯だらけの体を起こそうとして、脇腹の痛みに顔を歪める。
「お前は、本当に学習しないな」
隣のベッドから滝壺が呆れた声を飛ばした。
こちらも包帯だらけだ。
だが意識ははっきりしている。
「仕方ねぇだろ。あんな化け物みてぇな奴と戦ったらこうなる」
「私の相手はもっと面倒だった」
「はいはい」
適当に流され、滝壺が小さくため息を吐く。
反対側では照夜が天井を見上げていた。
いつもより静かだった。
長い戦いだった。
体の傷はほとんど残っていない。
だが疲労までは消えない。
全身から力が抜けていく感覚だけが残っている。
「終わったな……」
ぽつりと照夜が呟く。
その言葉に、医務室の空気が少しだけ柔らかくなった。
斬刹も壁にもたれながら目を閉じる。
「終わったなァ」
短い言葉だった。
だがそれだけで十分だった。
全員が同じ気持ちだったからだ。
しばらく静寂が続く。
すると医務室の扉が開いた。
「みんなー! 生きてるー!?」
元気な声と共に入ってきたのは聡美だった。
その後ろには看護班の面々もいる。
「なんだよその確認」
爆が苦笑する。
「だって心配したんだから!」
聡美は頬を膨らませながら爆のベッドの横へ。
そして包帯姿を見て顔をしかめる。
「ボロボロじゃん」
「まあな」
「無茶したでしょ」
「多少は」
「多少じゃないでしょ」
即座に返され、爆が笑う。
そんなやり取りを見ていた滝壺が鼻で笑った。
「夫婦か」
「違ぇよ!」
「違います!」
二人の声が綺麗に重なる。
その様子に照夜と斬刹まで吹き出した。
久しぶりに医務室へ笑い声が広がる。
戦いの終わりを実感する瞬間だった。
そして――。
「なあ、聡美」
爆が不意に口を開いた。
「ん?」
「せっかく休暇もらえたからよ」
頭を掻きながら視線を逸らす。
普段なら敵にも臆さない男が、今だけは妙に落ち着きがない。
「その……」
照夜は無言で見守る。
滝壺も察したように口元を押さえる。
斬刹はニヤニヤし始める。
「デートでも行かねぇか?」
一瞬。
医務室の空気が止まった。
「……へ?」
聡美の顔が赤くなる。
耳まで真っ赤だった。
「な、なななな……」
「…嫌ならいいんだ」
「嫌じゃない!」
即答だった。
そして言った本人がさらに顔を赤くする。
爆も負けず劣らず真っ赤だった。
医務室に沈黙が落ちる。
その沈黙を最初に壊したのは照夜だった。
「おい」
「なんだ」
「俺らいるんだけど」
「知るか」
「気まずい」
「私もだ」
照夜と滝壺の即答に斬刹が笑い出す。
「じゃあ全員で行けばいいんじゃねぇか?」
「は?」
爆が固まる。
斬刹は悪戯っぽく肩をすくめた。
「休暇なんだろ」
「確かにな」
照夜も頷く。
「たまには悪くないんじゃね?」
「私も別に構わないぞ」
滝壺も続く。
そして全員の視線が聡美へ向く。
彼女は少し考えた後、
「みんなで行くのも楽しそうだね」
と笑った。
爆は天井を見上げた。
「俺のデート計画が三秒で終わった」
「「「諦めろ」」」
三方向から同時に言われる。
爆は深々とため息を吐いた。
だが、その顔には笑みが浮かんでいる。
長い戦いだった。
苦しい戦いだった。
何度も死を覚悟した。
それでも今、自分たちはここにいる。
仲間がいる。
笑い合える時間がある。
それだけで十分だった。
窓の外では夕陽が沈み始めている。
束の間の平和。
だがそれは確かに、彼らが戦って勝ち取ったものだった――。




