表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マンダラ  作者: メメメ
第四章 『四凶討伐篇』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/86

第四章 18『束の間の休日』

 四凶討伐から数日後――。


 久方ぶりの休日だった。


 探偵社本部の正門前。


 休日ということもあり、普段は戦闘服や制服ばかり見慣れている面々も、それぞれ私服姿で集まることにしている。


「おっせぇなぁ」


 腕を組みながら爆が欠伸を噛み殺す。


 黒いスカジャンの背には金糸で龍が刺繍されている。中には白いオーバーサイズのパーカーを着込み、ダメージ加工の入った黒のカーゴパンツにハイカットスニーカー。


 普段の荒々しい雰囲気そのままに、街を歩けばまず目を引く格好だった。


「お前が早すぎるんだ」


 後ろから声。


 振り返ると滝壺が歩いてくる。


 黒のカーゴパンツに灰色のパーカー。


 その上から薄手のミリタリージャケットを羽織り、短い髪も相まって遠目には少年にしか見えない。


「お前マジで男にしか見えねぇな」


「殴るぞ」


「休日ぐらい穏やかにいこうぜ」


「お前が言うな」


 即答だった。


「会って早々喧嘩かよ笑」


 そのやり取りを見ていた斬刹が鼻で笑う。


 黒地に派手な刺繍の入ったスカジャン。


 細身のジーンズ。


 ブーツ。


 銀色のアクセサリー。


 どう見ても不良だった。


 本人も否定する気はない。


「お前ら朝から元気だな」


「斬刹、お前も大概だろ」


「俺は平常運転だ」


 そんな会話の最中。


 女性の歓声が聞こえた。


「来たぞ」


 滝壺が呟く。


 そして現れたのは照夜だった。


 白のシャツに黒のロングコート。


 細身のパンツに革靴。


 髪も綺麗に整えられている。


 休日のモデルか何かと言われても納得する姿だった。


「相変わらずだな」


 爆が呆れる。


「何がだ?」


「モテそうな見た目」


「そうか?」


「自覚ねぇのが一番腹立つ」


 滝壺が溜息を吐いた。


 そして最後。


 少し遅れて現れた聡美に爆の視線が止まる。


 白いワンピース。


 淡いカーディガン。


 長い髪を揺らしながら歩く姿は、仕事場で見せる凛々しさとはまるで違う。


「お、お待たせ」


 少し照れながら笑う。


 その笑顔に爆が数秒固まった。


「爆」


「……あ?」


「口開いてる」


「うるせぇ」


 滝壺に肘で突かれる。


 聡美はその様子を見て小さく笑った。


 休日が始まった。


 ◇


 街は賑わっていた。


 買い物客。観光客。露店。音楽。人の熱気。


 平和そのものだった。


「うぉ…」


 最初に足を止めたのは斬刹だった。


 視線の先は楽器店。


 ショーウィンドウに一本のエレキギターが飾られている。


「お前まさか」


「ちょっと見てくる」


「絶対長いぞ」


「知らん」


 即答だった。


 そのまま入店。


「行ったな」


 爆が笑う。


 そして数分後。


「すみません」


 女性の声。


「え?」


 声をかけられたのは照夜だった。


 見知らぬ女性二人が話しかけている。


「よかったらお茶しません?」


「連絡先交換でも――」


 滝壺が吹き出した。


「ほら来た」


「またか」


 爆も苦笑。


 照夜は困った顔をしていた。


「少し行ってくる」


「頑張れよ」


「何をだ」


 そう言いながら照夜も離脱。


 結果。


 爆、聡美、滝壺の三人行動となった。


 ◇


「これ飲んでみたい!」


 聡美が指差す。


 長蛇の列だった。


 最近流行りらしい。


「じゃあ買ってくる」


「え、一人で?」


「すぐ戻る」


 爆は列へ向かった。


 そして。


 問題はその直後だった。


「ねぇねぇ」


 男の声。


 聡美が振り返る。


 チンピラだった。


 三人。


 どう見ても面倒なタイプである。


「可愛いじゃん」


「暇?」


「俺らと遊ばね?」


 滝壺が前に出た。


「断る」


「おぉ怖」


「男かと思ったら女じゃん、丁度いいや」


 空気が冷える。


 滝壺の眉が僅かに動く。


 だが刀はない。


 相手は一般人。


 殴るわけにもいかない。


 だからこそ面倒だった。


「行こう」


 聡美の手を引こうとした瞬間。


 男が肩を掴もうとする。


 その時だった。


「――触るな」


 低い声。


 男たちの動きが止まる。


 振り返る。


 そこにいたのは爆だった。


 身長百八十五センチ。


 鍛え上げられた体。


 鋭い眼光。


 無言で立っているだけなのに圧がある。


「なんだよ兄ちゃん」


「俺の大事なツレなんだ」


 一歩前へ出る。


 男たちが無意識に下がった。


「指一本でも触れてみろ」


 爆の目が細まる。


「タダじゃおかねぇぞ」


 声は静かだった。


 だが。


 静かだからこそ怖い。


 男たちが顔を見合わせる。


「……行こうぜ」


「やべぇわ」


「失礼しました〜…」


 逃げるように去っていった。


 爆は最後に一言。


「失せな」


 それだけだった。


 ◇


「すごいな」


 滝壺が素直に感心する。


「何が」


「喧嘩売らずに追い払った」


「当たり前だろ」


 爆は肩を竦める。


 そして聡美を見る。


「大丈夫か?」


「う、うん…」


 聡美は頬を赤くしていた。


 先程の姿が脳裏から離れない。


 守られた。


 そう実感してしまったから。


「どうした?」


「…な、なんでもない!」


 慌てて顔を逸らす。


 爆は首を傾げる。


 滝壺は全て察していた。


「鈍感」


「?」


「なんでもない」


 ◇


 夕暮れ。


 街がオレンジ色に染まる。


 再び合流した五人。


 斬刹はギターのカタログを抱え。


 照夜は何故か疲れ切っていた。


「何があった」


「聞くな」


 珍しく疲れている顔だった。


 全員が笑う。


 日が沈み切るまで遊び続け。


 そして帰る時間が来る。


 探偵社本部前。


「じゃあな」


「また明日」


 滝壺と斬刹が歩き出す。


 照夜も続こうとした。


 その時。


「聡美」


 爆が呼び止めた。


 全員が止まる。


「ん?」


 振り返る聡美。


 爆は頭を掻いた。


 そして。


「…今度はちゃんと二人で行かねぇか」


 一瞬。


 空気が止まる。


「今日みたいな全員じゃなくて」


 照夜が露骨に嫌そうな顔をした。


 斬刹は吹き出す。


 滝壺も口元を緩める。


 そして。


 聡美は微笑んだ。


 戦場では見せない。


 誰よりも柔らかく。


 誰よりも美しい笑顔。


「うん」


 迷いなく。


「行きたい」


 その返事に爆も笑う。


 照夜は面白くなさそうに鼻を鳴らし。


 斬刹はニヤニヤが止まらない。


 滝壺もまた、静かに微笑んでいた。


 長い戦いは終わった。


 だからこそ――。


 彼らの日常は、これから始まるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ