第四章 16『光影の終着』
檮杌の拳が、照夜の胸を貫いた。
骨が砕け、肺が潰れ、背中から血が噴き出す。
普通なら、それで終わりだった。
だが――照夜は、終わらなかった。
「……悪いな」
口から血をこぼしながら、照夜が笑う。
床に散った血が黒く染まり、影となって蠢く。肉片も、砕けた骨の欠片も、闇に溶けるように形を変え、次の瞬間には照夜の体へ吸い寄せられていく。
傷口が塞がる。
胸の穴が埋まる。
折れた骨が、まるで時間を巻き戻すように噛み合っていく。
「俺はもう――倒れねぇ」
檮杌が腕を引き抜いた瞬間、照夜の指先から無数の影糸が飛び出した。
それは黒い触手のように空間を走り、檮杌の腕を、脚を、首を、胴を絡め取る。
「グ、オオオオオオッ!!」
檮杌が暴れる。
影は千切れる。
だが、千切れた先からまた伸びる。
切っても、裂いても、潰しても、影は尽きない。
照夜の背後で、白い光が膨れ上がった。
「これで終わりだ」
影が檮杌を縛り上げる。
光が一点に収束する。
照夜は右手を前に出し、静かに息を吐いた。
「――天照」
白光が放たれた。
檮杌の咆哮が、光の中に消える。
影に縛られた巨体は逃げることも防ぐこともできず、眩い閃光に全身を焼かれ、黒い灰のように崩れていく。
それでも檮杌は最後に腕を伸ばした。
照夜を掴もうとする。
殺そうとする。
だが、その爪が届く寸前、影の糸が腕を引き千切った。
「……終わりだ、檮杌」
光が爆ぜる。
城のような広間を揺らす轟音。
そして、すべてが静まり返った時、そこに檮杌の姿はなかった。
照夜は膝をつきかけ、すぐに踏みとどまる。
体中の痛みは残っている。
けれど、傷はもうない。
血も、肉も、すべて影となって戻っていた。
「……はは」
照夜は小さく笑った。
「俺も、だいぶ化け物じみてきたな」
そう呟きながら、彼はゆっくりと立ち上がる。
四凶の一角、檮杌。
その討伐は、ここに完了した。




