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マンダラ  作者: メメメ
第四章 『四凶討伐篇』

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第四章 13『想い』

 潮風が荒れ狂っていた。


 砕けた甲板が海面を漂い、黒煙を上げる海賊船の残骸が波に揺れる。


 その中心。


 海面に突き出た巨大なマストの上で、二つの影が向かい合っていた。


 ひとつは白髪の青年。


 もうひとつは獣。


「グルルルルルル……」


 窮奇が喉を鳴らす。


 虎にも狼にも見える巨大な肉体。背から伸びる翼。全身を覆う黒い毛並み。そして、血のように赤い双眸。


 神話の災厄。


 四凶の一柱。


 その殺意が海を震わせていた。


 一方。


 罪道斬刹は静かに刀を構える。


 右手に一振り。


 左手に一振り。


 二刀流。


 不動明王との修行を終えた今の斬刹は、かつてとは比較にならない。


 それでも。


 それでもなお。


「強ぇな」


 額から流れる血を拭いながら呟く。


 左肩は抉られていた。


 脇腹には三本の爪痕。


 肋骨も数本折れている。


 それでも窮奇には致命傷らしい致命傷がない。


 斬った。


 何十回も。


 何百回も。


 だが届かない。


 万物斬は確かに通る。


 しかし、決定打にならない。


 窮奇が笑う。


「終わりか、人間」


 声だけで空気が震えた。


 巨大な前脚が持ち上がる。


 瞬間。


 海が割れた。


 轟音。


 衝撃。


 マストが粉砕される。


 斬刹は紙一重で飛び退いた。


 だが。


「ぐっ……!」


 右肩が裂ける。


 掠っただけ。


 それだけで肉が吹き飛ぶ。


 海面へ着地した斬刹が苦悶する。


 強い。


 圧倒的に。


 今までの敵とは比較にならない。


 だが。


 逃げる気はなかった。


 退く理由もない。


「俺がここで負けたら……」


 脳裏に顔が浮かぶ。


 火神爆。


 神威滝壺。


 暁照夜。


 探偵社の仲間たち。


 共に戦い、共に笑った連中。


 自然と拳に力が入る。


「だから負けられねぇんだよ」


 その瞬間だった。


 万物斬が微かに震えた。


「……?」


 斬刹が目を細める。


 刀身が淡く光る。


 今まで見たこともない現象。


 だが、それは一瞬で終わった。


 窮奇が動く。


「死ね」


 巨大な翼が広がる。


 暴風。


 津波。


 海面が数十メートル持ち上がった。


 黒い壁となった海が斬刹へ迫る。


 その奥から窮奇が飛び出した。


 牙。


 爪。


 翼。


 すべてが殺意。


 すべてが破壊。


 避けられない。


 そう確信した瞬間。


 斬刹の中で何かが弾けた。


「――万物斬」


 刀が光る。


 いや。


 刀ではない。


 想いだ。


 守りたい。


 負けたくない。


 生きて帰りたい。


 仲間の元へ。


 その感情が刀へ流れ込む。


 万物斬が応える。


 海が静止した。


 窮奇が目を見開く。


 斬刹が踏み込む。


 これまでで最速。


 これまでで最鋭。


 これまでで最強。


「――――ッ!!」


 二刀が交差した。


 閃光。


 衝撃。


 轟音。


 海が真っ二つに割れる。


 数秒。


 世界が沈黙した。


 そして。


 窮奇の右肩から胸元にかけて、巨大な斬撃痕が走る。


「なに……?」


 初めて。


 窮奇の顔から余裕が消えた。


 血が噴き出す。


 深い。


 今までとは比較にならないほど。


 確実な一撃。


 斬刹自身も驚いていた。


「今のは……」


 刀を見る。


 変わらない。


 見た目は。


 だが確かに違った。


 ただ斬ったのではない。


 想いそのものが斬撃になった。


 そんな感覚。


 窮奇が後退する。


 初めて。


 四凶が距離を取った。


「面白い」


 獣が笑う。


 口角が吊り上がる。


「なるほど。貴様の能力はまだ完成していないか」


 殺気が膨れ上がる。


 海面が沸騰する。


 空が軋む。


「ならば見せてみろ、人間」


 翼が広がった。


「その想いとやらが、どこまで俺に届くのかをな」


 四凶・窮奇。


 罪道斬刹。


 決戦は、さらに激化していく――。

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