第四章 2『灼界荒野グラディム』
赤黒い砂が、風に巻き上げられていた。
空は鈍く濁り、太陽はあるはずなのに、光はどこか死んでいる。
灼界荒野グラディム。
そこは、大地そのものが燃え尽きた後の世界だった。
「……暑ぃ」
輸送機から降り立った爆は、額に浮かぶ汗を親指で拭う。
足元の砂は黒く焦げ、ところどころに赤い光が脈打っている。地面の下を、マグマが血管のように流れているのだ。
遠くでは火山が噴煙を上げ、空へ黒い柱を突き立てている。
その横を、山のような巨大生物がのそりと歩いていた。
「聡美、聞こえるか」
『聞こえてるよ。爆くん、そこから北東に三キロ。重力異常区域を抜けた先に饕餮の反応がある』
耳につけた通信機から、聡美の声が響く。
「北東三キロね。了解」
『あと、気をつけて。そこにいる巨大生物は普通の魔獣じゃない。荒野世界の王系だよ』
「王系?」
『その土地で生態系の頂点にいる個体。下手な幹部級より強い可能性がある』
爆はそれを聞いて、にやりと笑った。
「いいじゃねぇか。退屈しなさそうで」
『……そういう反応すると思った』
聡美の呆れた声を最後に、通信が一度切れる。
爆は腰の刀――スルトへ手を添えた。
赤黒い荒野。
火山。
マグマ湖。
重力異常。
巨大生物。
そして、その先にいる四凶の一角――饕餮。
「さぁて」
爆は一歩踏み出す。
その瞬間、足元の砂が沈んだ。
「――あ?」
次の瞬間、地面が爆ぜた。
砂の下から飛び出したのは、巨大な顎。
まるでワニと獅子を無理やり混ぜたような魔獣が、爆を丸ごと呑み込もうと口を開けていた。
「いきなり食う気満々かよ!」
爆は笑いながら跳ぶ。
重力が歪む。
身体が一瞬、上ではなく斜め後ろへ引っ張られる。
「うおっ、気持ち悪ぃ!」
空中で体勢を崩しながらも、爆はスルトを抜いた。
赤い刀身が灼熱の空気を裂く。
「炎の型――」
刀にオドが纏わる。
刃の威力が増し、空気が焼ける。
「炎舞!」
一閃。
炎を纏った斬撃が魔獣の顎を横から叩き割った。
骨が砕け、黒い血が噴き出す。
だが、爆の表情は緩まない。
倒れた魔獣の奥。
さらに複数の影が、砂の中を泳ぐように近付いていた。
「へぇ」
爆は刀を肩に担ぐ。
「歓迎会ってわけか」
赤黒い砂丘の向こう。
火山の麓。
そこに、巨大な影が立っていた。
四つの目。
裂けた口。
腹部にまで並んだ牙。
喰らうためだけに生まれたような異形。
それが、ゆっくりと爆を見下ろす。
『爆くん』
通信機から聡美の声が震えて届く。
『反応、確認した』
「ああ」
爆は笑う。
恐怖ではない。
歓喜でもない。
ただ、身体の奥で火が灯る。
「見りゃわかる」
灼界荒野の熱風が吹き荒れる。
その中心で、四凶の一角が口を開いた。
世界を喰らう獣――饕餮。
爆はスルトを握り直し、獰猛に笑った。
「来いよ、化け物」
赤い髪が、熱風に揺れる。
「俺が先に、お前を焼き尽くしてやる」




