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マンダラ  作者: メメメ
第三章『アザトース襲来』

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第三章 4『黒刀の剣士』

 滝壺の宵丸から、黒いモヤが溢れた。


 無限呼吸法によって練り上げられた気が、刀身に纏わりつき、黒刀の輪郭をさらに濃く染め上げる。


 アザトースは笑う。


「いいじゃねぇか……斬れるもんなら斬ってみろよ!」


 踏み込み。


 拳。


 滝壺は宵丸で受ける。衝突の瞬間、校庭の地面が割れ、衝撃が周囲へ走った。


「重いな」


「そりゃどうも!」


 アザトースの追撃。滝壺は半身で躱し、黒いモヤを纏った宵丸を横薙ぎに振るう。


 刃がアザトースの右腕を捉えた。


 硬い。


 まるで鋼を斬っているような抵抗。だが、宵丸は止まらない。


 肉を裂き、骨を断ち、右腕を肩口から斬り飛ばす。


「――ッはは!」


 血が飛ぶ。


 しかし、アザトースは笑っていた。


 切断面が蠢く。骨が伸び、肉が盛り上がり、皮膚が覆う。


 次の瞬間には、新しい右腕が生えていた。


「俺は死なねぇんだよ」


「……再生か」


「腕も、脚も、首以外なら好きなだけ持っていけ」


 滝壺は表情を崩さない。


 ただ、宵丸を握る手に力を込める。


「なら、斬り続けるだけだ」


 黒いモヤが刀身から濃く噴き出す。


 滝壺が地を蹴った。


 速い。


 アザトースの懐へ潜り込み、斬撃を連ねる。肩、腹、太腿、脇腹。皮膚の硬さに刃が軋むたび、滝壺は呼吸を深め、宵丸へさらに気を流し込む。


 切る。


 裂く。


 断つ。


 アザトースの左脚が落ちた。


 だが、倒れない。


 切断面から新しい脚が即座に生え、踏み込み直したアザトースの拳が滝壺の肩を掠める。


 骨に響く衝撃。


 滝壺の身体が後方へ弾かれる。


「いいなァ! もっと来い!」


 アザトースが獣のように笑う。


 滝壺は口元の血を拭い、静かに息を吐いた。


「随分と楽しそうだな」


「楽しいに決まってんだろ。こんだけ斬られても死なねぇんだ。最高じゃねぇか」


「そうか」


 滝壺の瞳が細くなる。


「なら、黙るまで斬る」


 宵丸の黒いモヤが、さらに濃くなる。


 滝壺は低く構えた。


 次の一歩で、空気が変わる。


「無限呼吸法――雷の型」


 黒い軌跡が走った。


 紫電一閃。


 滝壺の身体がアザトースの横をすり抜ける。


 一瞬の静寂。


 直後、アザトースの身体に無数の斬線が走った。


 腕が裂ける。腹が割れる。肩が落ちる。脚が千切れる。


 全身を切り刻まれ、アザトースの肉体が黒いモヤに包まれながらボロボロと崩れかける。


 だが、それでも――。


「まだだァ……!」


 崩れかけた肉の奥から、再生が始まる。


 崩れる。


 治る。


 また崩れる。


 無限呼吸法の黒いモヤがアザトースの身体を侵食し、再生を許しながらも破壊し続ける。


 アザトースは歯を剥いた。


「痛ぇな……! だが、まだ動けるぜ!」


 ボロボロの身体で拳を振るう。


 滝壺は受ける。


 重い。


 崩れかけているはずなのに、拳の威力は落ちていない。


「しぶといな」


「不老不死なもんでなァ!」


 滝壺は刀を返す。


 黒いモヤを纏った宵丸が、再びアザトースの身体へ食い込む。


 斬る。


 崩す。


 再生させる暇を与えない。


 それでもアザトースは笑い、再生し、殴り続ける。


 ――この怪物を倒すには、ただ斬るだけでは足りない。


 滝壺は理解した。


 より深く。


 より鋭く。


 より完全に。


 宵丸に流し込む無限呼吸法の濃度を、さらに上げなければならない。


 黒いモヤが、夜の校庭を包む。


 その中心で、黒刀を構える女剣士と、不死身の戦闘狂が睨み合う。


 滝壺は静かに告げた。


「次で、さらに深く斬る」


 アザトースは狂ったように笑った。


「やってみろよ、剣士」


 そして、二人は同時に地を蹴った。

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