第一章31『赤い火種』
爆発の余韻が、夜の廃地にまだ残っていた。
焼け焦げた肉の匂い。砕けた瓦礫の粉塵。地面に広がる黒い血の跡。
それらすべてが、たった今までここにいた化け物の存在を証明している。
だが、火神爆は勝利の余韻に浸れなかった。
「……なんだ、これ」
怪物の残骸の中に埋もれていた黒い金属片。
それは肉に混ざっていたというより、最初から体内に組み込まれていたように見えた。
歪な生物。
人工物。
そして、尋常ではない再生力。
それらが示す答えは、ひとつしかない。
「誰かが、あれを作った」
滝壺の声は低かった。
爆はスルトを肩に担ぎ、奥歯を噛みしめる。
「ふざけんなよ。あんなもん作って、何がしてぇんだ」
「試していたのかもしれない」
斬刹が静かに言った。
「俺たちをか?」
「あるいは、怪物そのものを」
その言葉に、場の空気が重くなる。
倒した。
勝った。
生き残った。
それなのに、胸の奥に残る嫌な熱は消えない。
むしろ、戦いが終わった今だからこそ、その気味の悪さがはっきりと形を持ち始めていた。
「……帰るぞ」
滝壺が刀を納める。
「報告が必要だ。ここで考えていても答えは出ない」
「ああ。けどよ」
爆は振り返る。
月明かりの届かない廃ビルの奥。
そこに、ほんの一瞬だけ赤い光が瞬いた気がした。
見間違いか。
粉塵に紛れた火花か。
それとも――。
「誰か、見てやがったな」
爆が呟いた瞬間、廃ビルの奥で何かが砕ける音がした。
三人の視線が一斉に向く。
次の瞬間、闇の奥から小さな機械の破片が転がり出た。
通信機。
あるいは、監視装置。
爆の表情が変わる。
「やっぱりかよ」
怒りが、胸の奥で火を噴いた。
化け物を倒した達成感など、とうに消えている。
残ったのは、自分たちが誰かの掌の上で踊らされていたかもしれないという不快感だけだった。
「爆、追うな」
滝壺が制止する。
「今の体では無理だ」
「わかってる」
爆はそう言いながら、拳を握りしめた。
わかっている。
今追えば罠かもしれない。
傷も深い。斬刹も滝壺も消耗している。
それでも、腹の底から湧き上がる怒りは止められない。
「けど、次は逃がさねぇ」
夜風が吹く。
その風に乗って、遠くから微かな笑い声が聞こえた気がした。
男か、女か。
人間か、それ以外か。
判断できないほど遠く、薄い声。
だが、確かにこちらを嘲っていた。
「……いい度胸じゃねぇか」
爆はスルトを握り直す。
刃に、わずかな火が灯る。
小さな火種。
だが、それは消えない。
倒した怪物の残骸の前で、爆は闇の向こうを睨み続けた。
――この夜、彼らはまだ知らない。
自分たちが踏み込んだものが、ただの怪物退治ではなく、もっと大きな戦いの入口だったことを。
そして、火神爆という男の炎が、この先さらに多くの闇を焼くことになるということを。




