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剥き出しの右脚と灰色の空

 高校の入学式を数日後に控えた昼下がり。いつものようにリハビリを終えたその帰り、私は近所の公園に立ち寄った。

「よいしょっと……」

 入って直ぐのお稲荷様に手を合わせる人は少なく、残念ながら向かいのトイレが鼻に付く。ここに限ったことをいえば、壁打ち場があるのは珍しいだろう。老朽化の激しい壁打ち場。とはいえ、ここがあったことで物心つく以前から、私は硬式テニスに結び付きが出来た。遊びに来る時には、いつも引きずりながらジュニア用のラケットとボールを袋に入れて持って来ていた。父がボールを投げては、壁に向かってそれを打つ。インパクトの感触だけを手繰り寄せるように繰り返す時間は、最高だった。

〈栞、あの上ば狙わんと〉

 そう言って、ネットの高さに引かれたボヤけた白い線の上を父は指差す。

〈うん!〉

 私は、何度も何度もその場所目掛けてボールを打った。上手くコントロール出来ないことが悔しくて、毎日のように日が暮れるまでラケットを振るようになっていた。

〈スクールば通うか?〉

 ある日のこと、小学二年生になった私に父が言った。

〈うん!〉

 そうしてテニススクールへ通うようになり、大会にも出場するようになっていった。試合では、緊張で腹痛を起こしたり、ラリー戦が長くなるとカウントを間違えたりしていたけれど、中学二年の夏の大会では、全九州ジュニアでベスト16。翌年にはベスト4に食い込んで、確かな手応えを感じていた。

(私のテニス人生は、これから――)

 進学先も決まり、高校へ入学したら一層テニス漬けの毎日を送ろうと心に決めて、日々の練習に励んでいた年明けに事故に遭った。

「へ……?」

 間の抜けた声を出しながら見たものは、私の脚じゃなかった。正確には、私の知っている右脚の形をしていなかった。

「い、いや……」

 テニススクール周辺の歩道を走っていた私に、大型バイクが突っ込んだのだ。地面から響いた、粘りのある「ミシリ」という音は、とても異様だった。気付いた時には、灰色の空を見上げていた。頬に落ちた冷たい滴に起き上がろうとしてみたけれど、自分の脚がそんな状態になっているなんて思わなかったから、立てないことが不思議だった。肘をついて見てみると、膝が捻じ曲がり、脛の骨が剥き出しになっているのが見えた。

 私は、降り始めた雨の中で、絶叫しながら気を失った。

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