人騒がせなあすか
「ところでティナ、どうやって欲望の魔の手から護るんだ?」
俺は疑問をぶつけた。
「とりあえずこのジルを自由に動けなくするために木にくくりつけるのです」
ティナは自身ありげに答えた。
「でも、そんな事した所であすかは思念体だから寄生先を変えるだけじゃないか?」
俺はティナの顔を見た。
「簡単にそんな事出来るはずありませんわ」
ティナは得意げな顔を俺に向けた。
そんな時、バズが眠りから目覚めてテントから出て来た。
「師匠、何騒いでるんスか?」
バズは俺にたずねた。
「いや、大した事じゃない、気にするな」
俺はバズに答えた。
「大したことはないって言っても、ジルが木にくくりつけられてるじゃないっスか?」
バズは驚いた顔を俺に向けた。
「ちょっとジルが暴れてしまってな」
俺はしどろもどろになりながらバズに言い訳をした。
「なんか怪しいっス! ジル、俺が助けてやるっス!」
そう言うとバズは木にくくりつけられたジルのヒモを外そうとしたその時だった。
「うわあぁ~!」
バズは大声をだして頭を抱えた。
「バズ! どうした!」
俺はバズに駆け寄った。
「し、師匠! お、俺……」
バズは声を絞り出した。
「大丈夫か!」
俺はあわててバズの両肩をつかみ、返事を促したが何か様子がおかしかった。
「……レックス、我はお主の事を考えると我が心の抑えが効かぬのだ!」
バズの瞳は艶っぽく潤み、ハァハァと熱い吐息を俺に吹きかけてきた。
「バズ、冗談はヤメロよ!」
俺は戸惑いながら訴えた。
「もう、我慢出来ん!」
バズは俺を押し倒した。それはまるで一匹の獲物を狙うハンターのような面構えであった。
「いい加減にしろ! お前、あすかだろ! そんなおかしな事はやめて、おのれを取り戻せ!」
俺はバズに襲われながらも寄生するあすかを説得したが、抵抗すればするほど、バズの息は荒くなり興奮度合いを高めた。
「レックス、我の物になるんじゃ!」
力任せに襲ってくるバズに俺は恐怖を感じた。
「ぐあぁ~! やめるんだ!」
俺は叫び声をあげた。するとティナがバズの後頭部に手刀を叩き込んだ。
「レックス……」
バズはそうつぶやくと意識を失って、地面に転がった。俺はぼう然とその場に立ち尽くした。
「旦那さま、おケガはありませんでしたか?」
ティナが俺に聞いてきた。
「大丈夫だ、気にするな」
俺は気丈に振る舞ったが精神的ストレスが蓄積された。
「旦那さま、申し訳ございません。私の見当違いでありました」
ティナは自分の見込みが狂ってしまった事を詫びた。
「気にするな! こんな事誰にもわかんないんだから」
俺はティナの顔を見た。
「念の為、バズも木にくくりつけて置きます」
ティナはそう言うと、バズを木にくくりつけた。
少し落ち着いたので、俺はティナと魂の話をした。
「ティナ、魂って何だろうな?」
俺はティナに聞いた。
「突然どうしたのですか? 旦那さま」
ティナは俺の顔を見た。
「ジルを見て思ったんだけど、元々はコボルトとして生きていたはずなのにあすかの思念体に支配されて俺達の前に現れたら、俺達はそれを自然に受け入れてジルとして認識している、それってどういう事何だろうな?」
俺はティナに聞いた。
「魂って人の体内に宿る精神的な生命の源のようなもので、普通なら肉体とともに存続する精神的な部分を受け持っていると思うのですが、ヌシ様の憑依については若干、意味合いが異なるように思います」
ティナは独自の解釈をのべた。
「俺もティナと同じような意見だが、あすかの憑依するのも肉体を操るという意味では魂みたいなものじゃないか?」
俺はティナに意見した。
「旦那さま、それは少し違うと思います。ヌシ様の場合は思念という形で憑依する肉体に寄生します。ヌシ様の思念の本体はしっかりと離れた所に存在してて、憑依によって取り付く肉体とは完全に一体化しているとは思えないのです」
ティナは意見を述べた。
「でも、憑依する肉体の影響を少なからず受けているじゃないか? 現に欲望と言う病に取り憑かれているぞ」
「それでもヌシ様の場合、それは疑似的なもので、直接的に被るものに比べれば、影響は少ないと思います」
ティナが、俺の顔を見ながら話していると、急に様子がおかしくなった。
「ああぁ~ん!」
ティナは声をあげた。
「どうした、ティナ!」
俺はティナの肩を抱き寄せた。
「旦那さま、愛してますわ」
ティナは弱々しく頭を上げると上目遣いで俺を見た。
「ティナ、大丈夫か?」
俺はティナの顔を覗き込むとティナの様子がおかしいのに気付いた。
「我は、レックスの事を考えるとおかしくなる」
ティナは俺に覆いかぶさると粗い息をたてて俺の身体の自由を奪おうとした。
「お前、あすかか? いい加減にしろ!」
俺はそう言ってティナを引き剥がそうとした。しかしティナは離れなかった。
「レックス、我を何とかしてくれ! 欲望が押し寄せて、もう我の手ではどうにもならぬのじゃ」
ティナは悲壮な言葉で訴えるも抗い難い力によって俺の服を引っ剥がそうとした。
「おい、あすか! いい加減にしろ、これ以上続けるならお前とは縁を切る! それでもいいのか?」
俺はティナの顔を見ながら怒った。
「い、嫌じゃ、レックスと離れとうない」
真っ青な顔で俺に懇願した。
「まずはそこをどけ!」
「わかった」
素直に応じた。
「これからは俺のいう事をちゃんと聞くか? 聞くならお前の事、可愛がってやる」
俺はあまり深く考えずに口にした。
「可愛がってくれるのか?」
ティナの瞳が輝いた。
「嗚呼!」
俺は真剣な眼差しでティナを見た。
「あわわっ!」
ティナは言葉にならない声を出すと目の焦点が合わなくなってウットリとした顔で気絶した。
「おい、ティナ! しっかりしろ」
俺は気を失ったティナに必死に声をかけ続けた。俺とスコルン以外は皆意識を失っていた。
そんな中、スコルンは尻尾を振りながら
「わん!」
と吠えて俺のもとへ歩みよった。




