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ジルへ

 気を失ったままのジルから俺に念話が届けられた。


『スマヌ、レックス、奴の欲望に飲み込まれたようじゃ』


 弱々しく、ジルに寄生している思念体のあすかが俺に語りかけた。


「大丈夫なのか? とりあえず、ジルから抜け出してティナのリスに憑依しろ!」


 俺はあすかに提案した。


『わかった』


 あすかはそう言うとリスに憑依した。


「師匠、どういう事っスか?」


 隣にいたバズが俺に聞いてきた。


「お前には今まで黙っていたが、ジルの中に森の精霊のようなものが取り憑いて、ジルを操っていたんだ」


 俺はバズの顔を真剣に見て話した。


「森の精霊? そんなもん、魔法全盛のこの世の中にいるわけないっス! 師匠もそんな子供のおとぎ話を真に受けるなんておこちゃまっスね!」


 バズはへらへら俺を見て馬鹿にしたように笑いながら、自分のテントに向かって横になり、眠りについた。


「バズのヤロウ、俺の言う事を信じずに馬鹿にしやがって!」


 俺は怒りにうち震えているとティナが声をかけて来た。


「旦那さま、良かったではありませんか」


 ティナは俺の顔を見ながら告げた。


「何が良かったんだ?」


「バズが旦那さまの言った事をまともに信じない事です」


「確かに、そっちの方が都合が良いな」


 俺はティナの言うことに同意した。


「あすか、さっきの状況の説明をしろ」


 俺はあすかに命じた。


『我がアヤツに憑依して奴の精神をコントロールしておったんじゃが、年中発情期の奴の邪念が、抗えないほどの欲望を生み出し、我に襲いかかって来たんじゃ』


 あすかは述べた。


「今まではジルに憑依してても何事も起こらなかったじゃないか?」


 俺はあすかに言った。


『確かに今までは何事もなかったんじゃ、あの時までは……』


 あすかの声は次第に沈んでいった。


「あの時って、いつだよ?」


 俺はあすかにたずねた。


『この前も言った通り、レックスが我に笑顔を向けてくれた時、身体がゾクゾクッとして、ムラムラしてからじゃ』


 あすかが憑依したリスが何故か上目遣いで俺を見つめた。その様子を見たティナが嫌悪感を露わにした。


「ところであすか、お前は男か女か性別はどっちだ?」


 俺は思念体のような霊体らしきものに性別の概念があるのか気になった。


『我にもハッキリとした事はわからぬが、好意を寄せる対象が男ならば、精神はメス化するようだ、それも今回の一例だけに過ぎないが』


 リスのあすかは俺の顔をジッと見た。


「そういえば、人の形に実体化した際、女の子の姿だったな、でもあの時はまだ、欲望なんかとは無縁だったはずだけどな」


 俺はつぶやいた。


「無意識にヌシ様は旦那さまの事を一人の男性として好意をいだいて居られたのではないかしら」


 横からティナが気乗りしない感じで俺に進言した。


「ハハハッ! そんな馬鹿な!」


 俺は認めたくもないティナの言葉を誤魔化そうとした。


『我はレックスを異性として意識しておると言うのか?』


 ティナの言葉を聞いたリスのあすかはしばらく石のように固まって動かなくなった。


「ティナ、もしかしてお前、あすかの気持ちを知っていたのか?」


 俺はティナにたずねた。


「はい」


 ティナは短く答えた。


『レックス、我はこれからどうすれば良い』


 あすかが聞いてきた。


「まだ、もうしばらく、ジルで居てもらいたい」


 俺はリスを見た。


「旦那さま、いい加減にして下さい! ヌシ様も苦しむし、旦那さまも襲われかねないし、私は賛成できません!」


 ティナは俺に怒りをぶつけた。


「ティナ、俺だって本当はイヤだよ! だけどジルがいないとベースが足りなくなるんだよ!」


 俺はティナに思いのたけをぶつけた。


「バカ!」


 ティナは手のひらで俺の頬をたたいて泣き崩れた。


「スマン」


 俺は泣きじゃくるティナに声をかける事しか出来なかった。


『レックス、我はどうすればよいのじゃ?』


 あすかが心配そうに聞いて来た。


「コイツ単体じゃ、ただのありふれた粗暴なコボルトだ」


 俺は木にくくりつけられたコボルトの方を向いて続けた。


「あすかが憑依する事でコイツは心身ともにジルという人格を手にするんだ、あすかには申し訳ないないが、俺の頼みを聞いて欲しい」


 俺はあすかに懇願(こんがん)した。


『レックスがそこまで言うのなら、それで良いが、我が欲望に飲み込まれたらまたお主を襲うかもしれぬぞ』


 あすかは俺に忠告した。


「俺に考えがある」


 俺はリスのあすかを見た。


「考え?」


「そうだ、奴の発情をとめるんだ!」


「どうやって?」


「去勢するんだ! そうすると欲望がなくなるらしい」


 俺は自信ありげに答えた。


『奴の生殖機能を無くすと言う事か?』


「そうだ!」


『そりゃ、ちと可哀想じゃ』


「じゃ、どうするんだ?」


『我がコヤツを必要としなくなったら、もとに戻してやろうと思う』


「好きにしろ!」


 俺がそう言うとあすかはコボルトを去勢した後、憑依した。


 夜が明けて、暗闇から空が白み、朝を迎える頃、ジルは新しく生まれ変わった。


 

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