夜営をする
太陽の影が長く伸び始める頃、空気の匂いが湿った土の香りに変わった。
俺達はテントの設をするとたき火の準備をした。薪に火を付けると湿った土の香りに混じって、煙の匂いが漂った。
ティナはマジックバッグからは保存した肉などの食材を取り出して、食事の準備を始めた。鉄の串に肉を刺したものを多めに準備した。
太い薪が真っ赤に爆ぜ、特有の芳醇な木の香りと煤の匂いを漂わせているその横に串を並べて立てていった。
俺は三脚にティナから受け取った鍋を吊るして、その下に赤くなった薪を置き、肉と香味野菜を煮込んだ。
食事の準備が終わるとぼんやりとたき火の爆ぜる様子を眺めていた。炎の熱は顔を火照らせたが、あたりは冷気が漂っていた。
すると俺の隣には、気配を感じさせず近付いてさり気なく隣に座るジルがいた。
「ジル、どうした? 話でもあるのか」
俺はジルにたずねた。
「別に、何でもねえ」
ジルはそう言うと爆ぜる炎を黙って見つめた。
「旦那さま、出来上がったものを取り分けて先に食べていて下さい」
ティナが俺に向かって言った。
「ジル、バズ先に食べるぞ」
俺は隣のジルとバズに声をかけて取り分けたものをそれぞれに渡した。
「師匠、これ、美味いっスね!」
バズは俺の顔を見ながら肉の串焼きを頬張った。
「うん、そうだな、肉汁たっぷりで美味いな」
俺はバズに言葉をかえした。俺の足元にいたスコルンが俺の顔を見て、物欲しそうにしていたので、串焼きの肉を足元に置いたら、スコルンは尻尾を振りながら、肉にかぶりついた。
「美味いか?」
スコルンに声をかけた。
「ワン!」
スコルンは俺を見て返事をした。
「ジル、どうだ、美味いか?」
俺はジルの顔を見た。
「ああ」
ジルはそう言うと黙々と食べ続けた。
「旦那さま」
ティナは俺とジルの間に座り、ジルをどかした。
「何するんだ」
ジルはティナを睨んだが、ティナは気にする素振りもなく、俺の隣で会話をした。
「ふざけるんじゃねえぞ」
ジルはティナを怒鳴ると唸り声をあげて威嚇した。
「ふざけてるのはアナタの方かしら? ジル」
ティナはジルを睨みつけた。
「なんだと?」
ジルはティナに敵意を向けた。
「旦那さまに近づかないで下さるかしら?」
ティナはジルを威圧した。
「ちっ! わかったよ! 退けばいいんだろ、退けば」
ジルは捨て台詞を吐いて立ち上がると座る場所を移動した。
「旦那さま、何か被害に会われませんでしたか?」
ティナが俺の顔を覗きこんだ。
「あ、嗚呼、今のところ大丈夫だ」
俺はティナに返事をした。
「警戒は怠らないで下さい、何かあれば私に言って下さい」
ティナは心配そうな顔で俺の顔を見つめた。
「ありがとう、ティナ」
俺はティナの顔を見た。
たき火の勢いも落ち着いた頃、俺達は寝ることにした。
「旦那さま、私と一緒のところで寝ましょ」
ティナは俺の手を引っ張ってテントに押し込んだ。
「ジル、アンタは周囲を見張ってなさい」
ティナは冷たく言い放った。
「ティナ、別にあそこまで言う事ないんじゃないか?」
俺はティナに言った。
「ジルはもう今までのジルじゃありませんの! お気を付け下さい!」
ティナは俺に訴えた。
「わかったよ」
俺はティナの迫力に気圧された。
それからしばらくしてジルを寝かせるために周囲の警戒を俺はジルと交代した。
俺は周囲を警戒しながら、ぼんやりとたき火を眺めていた時だった。
「ハァ、ハァ」
俺の背後から奇妙な気配が漂った。
「誰だ!」
俺は後ろを振り返った。
「俺だレックス! もう我慢できねえ!」
ジルが俺に襲いかかってきた。
「ヤメロ!」
俺は必死に抵抗したが、ジルは我を忘れたかのように俺に覆いかぶさった。
「離れろ、ジル!」
俺は必死に訴えたが、ジルの暴走は止まらなかった。マウンティングの姿勢を取るとズボンを履いたまま、腰をヘコヘコし始めた。
俺はダメ元で憑依しているあすかに訴えた。
「あすか、ジルの中にいるんだろ、正気を取り戻せ!」
俺が必死に訴えるとジルの動きが一瞬、止まった。
「ぐあぁ~!」
ジルは雄叫びを発するとともに気を失って地面に倒れ込んだ。
「ジル、大丈夫か?」
俺はジルを抱えあげた。騒がしかったのか、ティナとバズが起きて来た。
「旦那さま、私、もうさすがにジルの事、許せませんわ」
ティナは気を失って倒れ込むジルを見下ろしながら、俺に訴えた。
「手荒な事はとりあえず辞めておけ! しばらく木にくくりつけて置こう」
俺はそう言って、ジルを木にくくりつけた。




