出発する
俺達はバジリコに向けて出発した。石畳の広場に響いていた喧騒が、遠ざかる門の重厚な軋みと共に消えていった。
「ねえ、旦那さま、追放したはずのジルが付いてきてるみたいですけど?」
ティナが俺に話しかけた。
「そうだな」
俺はティナの方を向いた。
「私、知りませんわよ」
ティナはあきれたようだった。
スコルンの認識阻害によって俺とバズ、ティナ、それにバズが帰ってきた時のどさくさに再びコボルトに憑依してジルとなったあすかとともに辺境伯領を後にした。
「ジル、体調はどうだ?」
俺はジルを見た。
「俺の事は気にするな」
そうつぶやくジルはいつものジルのように見えた。
「ティナ、いつものジルみたいだぞ」
「今はまだ、そうみたいですわね」
ティナは意味ありげなセリフをはいた。
俺達の視界にはただ一本、ゆるやかにうねる白茶色の街道が伸びていた。
俺はバズに声をかけた。
「バズ、気分はどうだ?」
俺はバズの事が気になって聞いてみた。
「だいぶ、落ち着いたっス」
バズは俺の方を向いて答えた。俺は立ち直ったバズを見て安堵した。
街を離れて数時間もすれば、人の手が入った景色は失われていった。
「師匠、バジリコまでどのくらいかかるっスか?」
バズは俺に尋ねた。
「そうだな、三、四日といった所か」
俺はバズに返答した。
街道の両脇には、腰の高さまである草地が広がり、風が吹くたびに銀色の波紋を描いていた。
「じゃあ、今日は夜営っスね」
バズは俺に確認した。
「そうだな」
俺は途中、目についた道標を見た。
苔むした石の道標が、かつてここを通り過ぎた無数の旅人たちの時間を物語っているように思えた。
「この辺で休憩にするか?」
俺は皆に呼びかけた。
「わかったっス」
バズがこたえた。ティナはマジックバッグから硬いパンを取り出した。
俺達は街道沿いのから離れた小川が流れる木陰でしばしの休息を取った。小川の冷たい水で喉を潤し、手元の硬いパンを噛みしめた。
俺はアイテムボックスから以前、捕獲した巨大フロッグを取り出し、スコルンに与えた。
スコルンは尻尾を振りながら、巨大フロッグにかぶりついた。
「どう見ても、フェンリルには程遠いな」
俺はスコルンを見てつぶやいた。
休憩を終えて俺達は歩き始めた。 遠くの丘の斜面に、石造りの小さな農家と、のんびりと草を食む羊の群れが見えた。
「のどかな風景ですね」
ティナが俺に声をかけた。
「人の気配みたいなものがあるとなんだかホッとするな」
俺はティナに答えた。
「俺は人がいないのが、こんなに心地よいとは思わなかったっス!」
バズはしみじみ声に出した。その後ろをジルは無言で付いてきた。
しばらく歩くと辺りは夕日に照らされ、地平線を黄金色に染めた。
「綺麗だ」
俺はその光景の美しさのあまり、つい声を出した。
「まあ!」
隣にいたティナが頬を赤く染めながら、俺の顔を覗いた。
「俺の顔になにか付いてるか?」
俺はティナに聞いた。
「いえ、何も」
ティナはなにを思ったのか、俺から目を反らした。夕日の中で恥ずかしそうにするティナを見て、何だか愛おしくなった俺は思わずティナを抱き寄せた。
「こんな特別な光景をこれからも一緒に見れるといいな」
俺はティナを抱きしめながらつぶやいた。
「そうね」
ティナは夕日を眺めた後、俺の顔を上目遣いで見つめた。
「日も暮れるし、この辺で夜営にするか?」
俺は皆にたずねたら賛成したので夜営の準備をした。




