ジルだったコボルト
俺は脱水症状を起こしているジルの縄をほどいて水を飲ませた。するとまもなく目を覚ました。
「気が付いたか、ジル!」
俺はジルの肩を揺すった。
「誰ダ、テメエ!」
ジルは俺を威嚇した。
「俺の事、忘れたのか?」
俺はジルの言葉にショックを受けた。
「俺ガ人間ノ事、知ルワケネエダロ! 俺ヲ、巣ノアル場所ニ戻セ!」
ジルは喚き散らした。
「ジル、お前、どうしちまったんだ」
人が変わってしまったようなジルに俺は気が動転した。
『落ち着け、コヤツはただのコボルトだ、お前の知るジルではない』
ノミに憑依したあすかが俺に念話で話し掛けて来た。
「ソンナ事ヨリ、美味ソウナ、エルフノメスガ、イルジャネエカ!」
ジルはそう言うと、ティナの背中に覆い被さり、マウンティングの姿勢を取るとズボンを着たまま、腰をカクカクし始めた。
「おい、ジル、どうしたんだ! そんな事、するんじゃねえ!」
俺は叫ぶとジルの首を掴んで無理やり引き剥がそうとした。
「手ヲ離セ! 俺は年中、発情期ナンダ! ジャマスルンジャネェ!」
ジルは俺の手を振りほどくと俺に噛みつこうとした。
「調子に乗ってんじゃねえぞ! 俺は王都でムラムラして以来、ずっと、欲望が沈黙してるんだぞ!」
俺は思いの丈をぶちまけた。
「ソンナ事、知ルカ! 俺ハ発情パワーデ、盛リノ真ッ最中ヨ! 羨マシイカ人間!」
ジルは腰をヘコヘコしながら、俺を嘲笑うかの様な目で見て、挑発して来た。
「この野郎!」
俺は思いの丈を拳に込めてジルを殴った。
「ぐぁっ」
ジルは言葉にならない声を発すると口から泡をふいて気絶した。ピクピク痙攣するも、腰は壊れた機械仕掛けの人形のようにカクカクと上下に揺れていた。
「テメエ、二度と俺に欲望を見せ付けて、馬鹿にするんじゃねえぞ!」
俺は捨てゼリフを吐いた後、ティナを抱き起こした。
「ケガはないか?」
俺はティナの顔を見た。ティナは怖かったのか知らないが、俺に抱きついてきたので、そっと肩を抱き寄せた。
「あすか! さっさとコイツに憑依して寄生しろ」
俺はあすかに命じた。
『いや、さっきも言った通り、もとに戻れないんじゃ、それを勝手にソヤツの縄をほどいて介抱したのはお主じゃ』
あすかは自分の正当性を主張した。
「言い訳はやめろ! ノミに憑依中のお前なんて片手で潰す事も簡単に出来るんだぞ」
俺はノミを摘んだ。
『ヒィィ!』
あすかが悲鳴をあげたその時だった。
「旦那さま、やめて下さい! ノミの姿になっておりますけど、そのお方はまぎれもないヌシ様ですよ」
ティナが俺に声をかけた。俺は思わず、ハッ! とした。
「すまん、あすか、欲望を失った焦りで、つい、我を忘れてしまった」
俺はあすかに謝った。
『まあ良い、これからは気をつけてくれ』
あすかがそう言うと、時が満ちて、ノミの束縛から自由になった。あすかはとりあえず、ティナのリスに憑依した。
「あすか、なんでコイツに憑依しないんだ?」
俺は疑問をぶつけた。
『ソヤツに寄生するとなんだか妙な気分になるんじゃ』
「妙な気分?」
『そうじゃ、なにか身体の内側から沸き立つ抗い難いケモノのような情念に支配されそうになるのだ』
「ソイツは欲望だな」
『欲望?』
「ソイツに完全に支配されたらあすか、お前はお前でなくなるぞ」
『我が我でなくなる?』
「そうだ、欲望に魅入られると次第に奴に身も心も取り込まれてゆくんだ、ソイツと上手く付き合う事が今後、生き残るコツだ」
『我は上手く付き合えるかのう?』
心配になったあすかは俺の方を見た。
「あすか、お前、ソイツに寄生していた時、女性にムラムラした事はなかったか?」
俺はリスのあすかを見た。
『そう言えば、レックスが我に笑顔を向けてくれた時、身体がゾクゾクッとして、その後、ずっとムラムラしっぱなしだった気がしたが……』
リスのあすかは俺の顔を真剣に見た。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ! コイツはオスだろ! 何で俺に発情するんだ!」
『普通なら寄生した生物の影響を多大に受けるはず何だが、我にもよくわからぬ』
あすかは自分の身に何が起こっているのか、まったく理解出来ていなかった。
「旦那さま、このコボルトを追放して下さい!」
ティナは突然キレ出した。
「そうはいうが、今や、大事なメンバーだ! そんな訳にもいかないだろ」
俺はティナの顔を見た。
「今は大丈夫かもしれませんが、ジルになったヌシ様はいつか必ず、旦那さまに襲い掛かります。その時の覚悟はありますか?」
張り詰めた表情のティナが俺に迫った。
「そう言われると困るな」
俺はティナに答えた。そんな時、バズが寄宿舎に戻って来た。




