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戦いが終わって、王都へ


 日暮れになる頃、ようやく王国軍の王国神楽隊が到着した事によって王国軍の全てが現地に集合した。


 俺達は冒険者で構成された傭兵部隊と共に周辺を片付けた後、撤収を開始した。


 俺達が王国軍の横を通り過ぎると王国神楽隊を見つけた。王国神楽隊とはいわゆる軍楽隊で主に要人の御前や国家の行事、軍隊の式典等で演奏活動を行い兵隊を音楽で鼓舞する機関だ。


 以前、俺が王国魔法アカデミーの生徒だった時、専攻していたのが神楽科だった。神楽科は吹奏楽の直接的なルーツを持つ神楽隊を養成する為の学科で俺はここで支援魔法の真髄を学んだ。


 一般的な軍楽隊と違う点は支援魔法を用い、聖女が隊の中心になっているという所だ。


 この国の音楽のエリート達が所属している部隊でもあり退役後の立身出世も約束されている。


 俺は懐かしく思い、知っている奴がいないか目で追った。


 そんな中、近衛兵に囲まれて移動している聖女を見つけた。『絶対聖女』との二つ名を持つビクトリアだ。俺にとって因縁の相手でもある。


 俺はその絶対聖女とやらと目があった。聖女は俺を見て軽く微笑んだ。聖女というだけあって周囲にいる者達はまるで神々しい者でも見るかのようにひれ伏していた。


 だが、それはこの聖女のほんの一面に過ぎない。俺はこのビクトリアには結構な目にあわされていたのだ。


 付き合ったオボえもないのに何故かヤツの恋人に仕立てあげられたり、俺好みの女子を近づけさせないように裏で手を回したり、ろくでもない事ばかりだった。


 他にも俺が親の仕送りの金を使い込み、生活に困窮した時、ビクトリアが俺のボロアパートに勝手に入って来て、高級料理を持ち込み、振る舞ってくれた事があった。


 ビクトリアがそれ等を取り分けて、俺に自らの手で食べさせてくれようとしたのを、俺が断ったら突然ブチギレ、この世のモノとは思えない顔で睨み付けられた事もあった。


 俺は今でもそれ等を思い出すだけで、身の毛がよだつほどで、出来れば二度と関わりたくない女だ。


 そんな事を考えていたらティナが声をかけて来た。


「旦那さま、また女の人を見ているのですか?」


「見てねぇよ! 俺を一体、何だと思っているんだ! ほら、行くぞ」


「待って下さい、旦那さま」


 そう言って歩き出そうと思って前方を見ると憤怒の形相で俺を睨み付けるビクトリアがいた。


 俺は恐怖を覚え、気圧されると思わず指が小刻みに震えたが、悟られまいと平静を装ってその場を後にした。思わず俺のトラウマスイッチが入ってしまった。



 俺達はクランに所属する冒険者たちと帰路につき、途中、飲み屋で祝勝会を開き、戦火を無事、生き延びた事に冒険者達と喜びをともにした。。祝勝会は深夜まで続いた。


 翌日、ギルドで三クラン合同の上級者パーティを集めた報告会が開かれた。それは同時に聴き取り調査も兼ねていた。


 俺達が会場に入ると俺達のクラン以外のマセラティ派とモーリス派の二大クランは重く沈んでいた。


 王国軍お抱えの魔導師すら軽く上回る攻撃力を見せつけられたら大人しくならざるをえないだろう。


 この後は終始、俺の所属するクランが主導権を握って会議をリードした。


「レックス君のおかげで他の二大クランを圧倒する事が出来ました」


 代表が俺達に言葉をかけた。クランの仲間達も喜んでいた。


「でも困った事になりそうですね」


「一体、何がですか?」


「王国魔導師すらも超える過剰な能力は王国に警戒されるかもしれません」


「はぁ」


 俺は気の抜けた返事をした。


「レックス君達は、これから大変な事になるかもしれないので今後、気を付けておいて下さい」


 そう言い残して、代表は会議室を後にした。


 俺は周りの希望に満ちた雰囲気の冒険者達とは対称的に暗い気持ちになった。


  

 後日、俺達は王城で王と謁見する機会を賜わった。魔王軍を王国から犠牲者も出さず壊滅させた事による祝勝会も兼ねてだ。


「レックス君、王城に到着したら失礼の無い様に重々お願い致しますよ!」


「俺達のパーティメンバー皆で参加するんですよね?」


「そう伺っています」


 代表が答えた。


「俺、自信ないっすよ、アイツ等の面倒見るの」


「貴族のマナーを理解してるのは貴方だけですから宜しく頼みますよ」


 そう言い残して代表は何処かへ行ってしまった。


「何だよ、俺がコイツ等の面倒を見るのか」


 俺は途方に暮れた。


「師匠、なに暗い顔してるんスか!」


「そうですわ! 元気を出して下さい」


 王都へ行けると思って気分が高揚しているバズとティナは陽気に俺に語りかけた。


「このメンバーでマシなのはジルくらいのものか」


 俺はジルの方を見た。


「レックス、心配するな。俺はマナーだけには自信がある。コイツ等の面倒は俺に任せろ」


 ジルは自信有りげにこっちを見た。俺はジルを頼もしく思ったが、少々、心細くなって来た。


「俺を信じろ!」


 ジルは俺の心の声を読んだのか、自身を売り込んで来た。


「ハァッ! お前の何を信じろと?」


 俺はジルに抱く不信感を口にした。


「クッ! 勝手にしろ!」


 俺にプライドを傷付けられたジルはふてくされて、その場を離れた。


「怒らせちまったな」


 俺はため息をついた。



 ジルを残したまま、俺達は乗合馬車で王都へと出発する事になった。


「師匠、王都が見えてきたっス」


「あの場所が人間の都なのですね!」


「おい、田舎モンみたいな発言は辞めろ」


 乗合馬車から王都が見えるとバズとティナはゴキゲンだったが、俺はこれからの事を考えると心配で頭を抱えた。


「師匠、見て下さい! 王城っス! 金ピカっスよ!」


「夢の国のお城みたいですわ!」


「お前らなぁ、いい加減にしてくれよ」


 馬車が王都の入口に停車するなり車外へ出るとバズとティナは田舎者ムーブを全開にした。


「謁見は明日だから宿屋に荷物置いてから食事に行くか」


「良いですわね」


「王都じゃないと食えない物を食べたいっス!」


「わかったよ」


 俺達は宿屋に荷物を預けると王都を散策しながら食堂に入った。


「好きなモノ食べていいぞ」


「いいんスか!」


 バズはメニュー表を手に取るも文字が読めなかった。


「何頼んで良いかわからないっス」


 シュンとするバズに俺はどんなモノが食べたいか聞いて店員に注文した。もちろんティナの分もだ。


 俺達の席に次から次に料理が運ばれて来たので食べはじめた。


 バズもティナも美味しそうに料理を口にしていた。


 庶民的な食堂でも、王都で経営してある食堂なだけあって、辺境伯領の同程度の食堂に比べると味は洗練されていた。


「それにしてもさっきの店、すごく美味かったんスけど、一皿、一皿がヤケにちんまりとしてたっスね」


「王都だからな、物価が高いってのもあるけど全体的にお高く止まってんのさ」


「それでも運ばれて来た料理は全て美味しかったですわ! とても洗練された味で参考になりました」


「二人とも何の料理が一番美味しかったんだ?」


「俺、鴨肉の赤ワイン煮っス」


「私はムニエルにピシソワーズ、フリカッセが良かったですわ! 家に帰ったら作ってみようと思いますの」


「師匠、なんの料理の事言ってるっスか」


「魚を小麦粉にまぶしバターで焼いたヤツと芋を裏ごししてクリームで煮込んだものを冷やした冷たいスープ、それにうさぎの肉をぶつ切りにしてクリームで煮込んだ料理だよ」


「シャレた名前なんかつけて、田舎者を馬鹿にしてるっス」


 バズは(いきどお)った。


「バズ、王都って所はそういう街だよ」


「俺、王都に幻滅したっス、好きになれない街っスね」


「そうだな」


 そんな事を言いながら、俺達は宿屋に戻った。




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