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出陣


 俺達は結局、何も食べずに外に出た。


「師匠、なん何スか! さっきの店、注文して待たすだけ待たせて結局何も出て来ないなんてどうなってんスかね!」


「そうですわ、今日は炊事しなくて楽が出来ると思ったのにあんまりですわ」


「あんまりなのはティナ、お前だろ! 仕方ない、屋台で何か食べるか」


「それが良いですわ」


 そんな会話をしながら屋台で食事を済ませ帰路に着く。


「旦那さま、その手に持っている板ってなんですの?」


 ティナは俺の持っている木の薄い板に気づいた。


「俺の知り合いが聖女になったと書いてある板だよ。さっきの屋台に捨ててあったのを拝借して来た。帰ったら詳しく読もうと思ってな」


 俺は答えた。


「まさか、私を捨ててその女と一緒になろうと考えてるんじゃないでしょうね」


 ティナは疑う様な目付きで俺を見た。


「んなわけ、ないだろ」


 俺は全力で否定した。


「本当かしら。まあ良いわ、そういう事にして置きます」


 全力で否定する俺の姿を見て誤解が解けたのか、ティナは機嫌が良くなった。


「王国兵士、増えましたわね」


「そろそろかもな」


「戦争はイヤっスけどあの魔導楽器を実戦で試せるかと思うとワクワクするっス」


 バズは期待に胸を踊らせた。


「バズ、俺達は基本、後方支援で強化魔法を使うくらいだ」


「チェッ! つまんねぇス」


「目立ち過ぎるのも良くないからな」


 そんな事を言いながら歩いて行くと寄宿舎に帰りついた。


 


 翌日、外を見たら次第にあたりが物々しくなっていた。


「魔王軍が来たぞ! ここから逃げろ!」


 逃げ惑う人々が現れ、注意を(うなが)す声が周辺に響いた。


 俺達はあわててクランに向かうとクラン所属のパーティの多くがランクの優劣に係わらず、傭兵部隊として活動する為の準備をしていた。


「各クラン各々、戦地に向かっています。我々も出陣します!」


「うおおぉぉ~っ!」


 クラン代表が呼びかけるとクラン所属の冒険者達はおおいに盛り上がり、その勢いのまま戦場へと向かった。


 俺達が、陣を構えるのは魔王軍を見下ろせる小高い丘の上だ。


 戦場には既に各クランから集められた傭兵の冒険者達が各々丘の上に展開していた。


 そんな中、貴族主体の王国軍の動きは鈍かった。


「また貴族のせいで俺達に犠牲が出るのかよ!」


「たまんねえなぁ!」


 冒険者達に王国軍と貴族に対して物凄い嫌悪感が渦巻いていた。


「魔王軍が攻めて来たぞ!」


「王国軍はあてにならん」


 そんな会話が冒険者主体の傭兵部隊から挙がった。


「大切な事は人任せにするな! 我々が我々自身の力でやり遂げるんだよ!」


 『夜明けの真相』のシルビアさんが全力で訴えた。


「ここの支援魔法と強化魔法は俺達に任せろ!」


 俺はシルビアさんの言葉に鼓舞されて、空間魔法を展開した。


「バンドシステムオープン」


 すると魔法陣が現れて、その中から魔導楽器のロックバンドシステムが現れた。


「何だ! あれは」


「あんな物、見た事もないぞ!」


「楽器のようにも見えるな」


「あんな物、何の役に立つんだ」


 それを見た冒険者達は驚愕してザワついた。そんな中、対立する他クランの冒険者達は何やらケチを付けて来た。


「そんな珍妙な道具、ただのハッタリだろ!」


「引っ込んでろ! ひよっ子!」


「そのこけおどし、さっさと持って帰りやがれ!」


 暴言を吐く冒険者の傭兵に、事情を知らない他の冒険者達は不快感を抱いている様子だった。


「俺はただの冒険者のレックスだ! 覚えておけ!」


 俺はそう言うとアイテムボックスに手を突っ込んで愛用のギターを取り出した。そして軽く掻き鳴らすと頭上空高くに落雷が発生した。


 落雷が、黒い箱の上に落ちると魔導エネルギー変換システムが作動し、ロックバンドシステムはまるで生き物のような気を放ち始めた。


 俺はギターをアイテムボックスに収納して、代わりに魔導ギターに持ち替えた。他のメンバーもそれぞれの定位置についた。


「俺達を信じろ! 決して後悔はさせねぇ!」


 スタンドマイクを手に取って叫ぶと左右の漆黒の箱から巨大な音で俺の声が鳴り響いた。そして俺達の楽器の音あわせをする音が漆黒の箱から鳴り響く。

 

 冒険者の傭兵達は呆気にとらわれながらも、しばらくすると何の根拠もないのに勝てそうな気分になっている様子であった。


「もしかして、コイツはいけるんじゃないか!」


「何か分かんねぇんだけど、勝てそうな気がして来たな!」


「やれる、俺達は勝てる! アイツ等がいれば必ず勝てる!」


「うおおおぉぉ~!」


 巨大な歓声が辺り一面から沸き上がった。



「チッ!」


 あてが外れた対立するクランの冒険者達は舌打ちをして悔しがった。



「支援魔法と強化魔法を頼むぞ!」


 そこにいる大多数の冒険者の傭兵達が声をあげた。


「任せておけ!」


 俺がそう言うと大歓声が沸き上がった。


 そして音量レベルを引き上げた。


「行くぞ! お前等!」


 俺達は一声かけて、演奏を始めると今まで聴いたことのない音楽に冒険者達からどよめきが起こった。 


 その場にいた冒険者達は一気に活気付いた。


「ウオオオォッ!」


 漆黒の箱からあふれる地を這う演奏の音色が地面を唸らせると、それと共に冒険者で構成された傭兵部隊に演奏の音色が強化魔法を纏わせた。


「これならイケる!」


 一斉攻撃に打って出ようとする傭兵達であった。


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