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俺達の師匠

 俺、攻撃用のフレーズを試してみたいっス」


「魔法攻撃は無効だぞ」


「わかってるっス! 俺が言いたいのは攻撃用の同じフレーズをいろんな解釈で繰り返しニュアンスを変えて弾いてみたら攻撃用として作用しなくても何か音楽的な作用が出てくるんじゃないかと思うっス」


「音楽の作用で相手の感情を刺激出来ると言う事か」


「それっス! おそらく曲の表現力をこの音楽バトルで極めたら今後の戦闘が物凄い事になると思うっス」


「あの魔導ギターを試しただけでドラゴンを半殺しに出来るんだし、そこへ表現力を完璧な程、身につければ魔王ですら敵でなくなるかもな」


「けど、バズ、それお前のソロパートの時だけやれよ!」


「わかってるっス!」


 バズは軽く答えた。


「本当にわかってんのかよ」


 俺は途方に暮れた。 


ドラゴンの事で関係がギクシャクしているジルの方に目をやると


「俺の事は気にするな」


 そう言ってその場を離れた。


 その後、食事を軽くとった後、俺達は就寝した。



 翌日、ボス部屋の扉を開けると前回同様、ダークフェンリルの上に馬乗りになったクラウスが飛び下りてステージに立った。


「キヤー! クラウス」


「本物だ」


「クラウス最高だぜ!」


 そしてクラウスコールが起きた。


「何か、話す内容も展開も前回と全く同じ感じっスね」


「そうだな、俺達の事も初見と思っているのかも知れないな、リセットでもしたのかもな」


 俺はあの時のクラウスとはもう会えないんだなと思うと悲しくなった。


 その後の展開も全くといっていい程、バンドの演奏、観客のノリ、光の点滅具合、など同じ様な展開だった。


 そうこうしているうちクラウス達の曲が終了した。


「どうだね、我々の演奏は、期待にそえたかね」


 クラウスが挑発して来る。


「相変わらず凄えな」


 俺はヤツ等の演奏をコピーして見て、凄さが身に沁みていたので、心から出た言葉だった。


「相変わらず? まあいい、次は君達の番だ。見た目だけの偽物でないことを期待しているよ」


 そう言い残してクラウスは去った。


 前回は余裕がなかったから分からなかったが、どうやらクラウスはバンパイアのようだ。


 俺達はロックバンドシステムを使って演奏する事にした。


「なに! 我々と同じ魔導楽器を使用するというのか!」


 クラウスは驚愕した。


 何故、俺がロックバンドシステムと呼ぶのかと言えばクラウス達がロックバンドを自称しているから、それにちなんでだ。


 俺達は演奏を始めた。


 ステージのライトが一斉につき 、バズが腕を振り下ろした。 ピックが 弦を叩きつけた瞬間 アンプから爆発するような音が飛び出し 客席が揺れた。


 俺はピックを軽く握り、腕を振り下ろすと余計な力が抜け、ただ 音だけが 前に進んでいった。


 ステージの真ん中の奥の一段高い場所からティナがスティックを高く掲げ上げた。


 次の瞬間 バスドラムが地面を押し上げるように鳴り、 スネアが 鋭く 空気を切り裂き、ベースが低く太い線を描き始めた。


 ハイハットの細かな 刻みが曲の骨格を形作り 観客の足元にリズム が染み込んでいき、バンド 全体が一つの波のように うねり 始めた。


 ジルはべースと格闘するかのように低い姿勢で構え、太い弦を弾き倒した。ドラムのバスドラムと完全に同期し、膝でリズムを刻みながら、フロアの底を揺らし続けた。


「あの女のドラム、なかなかやるな」


「いや、ベースのコボルトも結構やるぞ」


 クラウスのバンドメンバーのアウルとバットがつぶやいた。


 曲の展開が変わる瞬間、ティナとジルが一瞬だけ視線をかわした。わずかな (うなず)きだけで 楽曲の温度が一段跳ね上がった。


 ソロに入ると事前の打合せ通りに、バズは音楽の作用で相手の感情を刺激する為の攻撃用の同じフレーズをいろんなニュアンスで繰り返し弾いた。


 弦を振るわせる指先の動きは 繊細でいて、一音一音がエモーショナルな旋律 へと昇華した。


 そして(あふ)れ出す指板の上を滑る 指先は、 光の筋となって音を紡ぎ出した。


「おい、あの野郎、エフェクトを使いこなしてるぞ!」


 クラウスのバンドメンバーのウルフが吠えた。


「リバーブにディレイか」


「オーバードライブにディストーションも使いこなしてるぞ!」


「モジュレーション系もだな」


 クラウスは驚がくした。


 

 この仕掛けがハマリ観客の感情を次第に変化させて行き、熱狂へと変えていった。



 俺達の演奏はクラウスの演奏を次第に圧倒していき、クラウスから余裕の表情を消し去った。


「すげえな、アイツ等」


「そうだな」


「あそこまでやる奴は初めてだ」


 バットとアウルとウルフは互いの顔を見合わせた。


  演奏を終えて、俺達が顔を上げた瞬間 、 静寂を 切り裂く、割れんばかりの拍手が湧き上がった。


 演奏終了後、クラウスが近付いてきた。


「我々の負けだ。期待した以上の演奏だった。あのリフが効いたよ! どうやら君達は本物の様だな」


「いや、まだ終わっちゃいない。最後にもう一曲聞いて欲しい」


 俺はクラウスに提案した。


「いいだろう」


 クラウスは(いぶか)しげな顔をするも同意した。


 俺達はクラウス達の曲を演奏した。



「何で、お前達が俺達の曲を弾けるんだ!」


「俺達はこのバンドの曲を目標に今まで練習して来た」


 クラウスは驚いた様子で俺達に尋ねた。


「ところで君達は我らと何処かで会った事があるのか?」


「ああ、以前な! アンタ達、最高にイカシてたよ」


「そうか」


「俺達は以前、ここに来た時、アンタ達の演奏を聴いて、衝撃を受けた! それからアンタ達に追いつこうと思って練習を重ねた。だが、全く上手くいかなかった」


 俺は拳を握り締めた。


「それでも諦めず、努力した結果、少しだけアンタ達に追い付けた。それでも全然足りない」


 俺はクラウス達に熱い思いを語った。


「そうか」


 クラウスは俺達の顔を見つめた。


「クラウス、アンタ達みたいな俺達が認める本物に本物だと言って貰えるのは俺達にとって、最高の名誉だよ! これから先、俺達はずっとアンタ達の幻影を追い続けるつもりだ」


 クラウス達の顔が涙で(ゆが)んだ。


「アンタ達は何時(いつ)までも、俺達にとって最高の師匠だよ!」


「そうか」


 クラウスは虚空を見つめた。


 すると強烈な白い光があたりを包み込み周りが見えなくなった。すると


「レックス、お前のギターレスポールなんだな、俺と同じだ! これから、がんばれよ」


 クラウスが笑みを浮かべ俺にエールを送った。


「バズ、俺と同じストラト系統だな! お前の事、応援してるぜ!」


 ウルフが弾んだ声で吠えた。


「ジル、良いベースだったぜ! お前の事、忘れねえよ」


 バットが超音波を発した。


「ドラマーの姉ちゃん、達者でな」


 アウルがボソッと鳴いた。


 クラウスのメンバーの声が次第に聴こえなくなり、その場に居た観客達も消えた。


 ボス部屋はもぬけの殻となったが、彼らの衣装とバンドセット、それと犬が何故かポツンと残されていた。


「大切に使わせて貰います。俺達の師匠」


 それ等を持ってボス部屋から出ると崩壊が始まった。俺達は転移魔法陣に乗って移動した。するとすぐにダンジョンは完全に崩壊した。


 地上に戻ると俺達はダンジョンクリアの達成感と充実感に妙な興奮を覚えながら辺境伯領へと向かう事にした。


 

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