ドラゴンがやって来た
翌日、あらためて楽器を手に取っものの使い方がいまいちわからない。
音の大きさを調整するツマミを回すとジーというノイズが響き、エフェクターを踏み込むたびに音が不自然に歪んだり反響したりした。
「これじゃあ、全く奴等の音に近付けない」
「どうするんスか」
「エフェクターとか言うのを外して、ギターとアンプを直接つなげる」
「どうしてっスか?」
「音が重なりあってボヤけてしまう。このままではクラウスの音を再現できない。まずは音を分別してソイツをひとつずつ解読して行く必要がある」
「なるほど、そういう事っスか! 俺も協力するっス」
まず俺達はギターの構造や音の出る仕組みを調べた。
「ギターの金属の板が振動を拾って、それが魔導エネルギーに作用して音が出るみたいだな」
「金属の板はピックアップって言うらしいっス! 丸い穴の代わりみたいっス」
「なるほど、ギターについてる突起物は何だ?」
「俺、わかんないんで、ジルを読んでくるっス」
バズはジルを呼んで来た。
「ジル、この突起物、わかるか?」
「コイツはコントロールポットといって音のトーンやボリュームの調節だ」
「向こうの箱にもボリュームの調整があるみたいだが?」
「ギター側にある調整ノブはギター側の情報を例えばエフェクター等に伝えるためだ」
「じゃあ、箱の方にあるボリュームの調整は何のためにあるんだ?」
「ギターとエフェクターの合わさった音の調整だ」
「違いはあるのか?」
「レックス、お前自身で確かめろ」
「わかった。じゃあ、こっちは?」
「ピックアップセレクターだ。上部のネック側はフロントピックアップ、下の方はリアピックアップだ」
「どう違うんだ」
「フロントの方は低音域を含むあまいトーンでリアはスッキリとしたかたい音が出る」
「ありがとう、ジル、バズと色々試してみるよ」
ジルはその場を離れた。
俺とバズはそれぞれ魔導ギターを手にして音色のトーンやボリュームの影響などを手探りで理解していった。
「マルチエフェクターっス! 簡単にロックスターになれるらしいっス」
「んな理由、ないだろ」
バズは以前、外したエフェクターを持って来た。
ジルによると初心者向けらしいが専門家も使っているとの事だ。俺達は初心者なのでこれは俺達にはおあつらえ向きだ。
エフェクターに関してもいろいろと試してみた。
音の歪みが持つ感情的な表現力、音が長く伸びる事による歌い上げるような表現、そして足元のペダルによって瞬時に音色を変える自在性。
俺とバズはそれらの複雑な機能と効果を古代の書物を解読するように手探りで一つずつ試行錯誤しながら理解していった。
「音の発声器と音色変換装置という補助的な装置が結びつく事で秘めた力を解放するんだな」
「そうみたいっスね」
俺とバズは顔を見合わせた。
これらが俺達の内なる感情を解き放つ、新たな道具となる事を悟った。
この時から俺とバズは昼も夜も忘れて練習に没頭した。指先にはマメができ、時には出血する事もあった。
俺達はクラウスの音を、メロディを、完璧に手に入れるために、まるで何かに取り憑かれた様に楽器を弾き続けた。
ティナのドラムスのパートはドラムセットが複雑になった分、ドラムセットに刻印魔法を付与した。
ティナの試奏はシッカリとリズムを取り、心地良い音を響かせた。
ジルもまた、低く唸るようなベースの音を大地に響かせた。
そんな時、巨大なドラゴンが現れた。ドラゴンは山の方から咆哮をあげてこちらの方に向かって降りてくる。
「師匠! ドラゴンっス!」
「見たらわかるよ」
バズが怯えたように俺に訴えた。
「そんな事より、おあつらえ向けの実験台が来たじゃないか。ちょっと試してみないか」
「何をスか?」
「コイツの武力としての力だよ」
そう言って笑ってバズをみた。
「そうスね! 師匠」
バズは力強く明るい顔になった。
俺とバズが演奏を始めると黒い箱から地を這うような爆音が発せられた。
すると魔法陣があちこちから現れ、ドラゴンを囲み青い炎を連射した。
ドラゴンが口から火を吹く隙も与えず、攻撃は加速していった。ドラゴンはその場に倒れ込み、動けなくなった。
「バズ、そのままトドメをさせ!」
ジルが怒声を発した。
「もういいじゃないか、ジル、コイツもこんなになってるんだし、もう悪さなんかしないよ」
俺はジルに自重を促すが、ジルは自分でトドメを刺そうとドラゴンに近付いた。
ドラゴンの瞳に映るジルは長年の知り合いのように見えた。
「ジル! ふざけるな! 俺がこのパーティのリーダーだ! 余計な事はするな」
狂気が宿るジルに怒声を発するとジルはしぶしぶ後方に下がった。
俺はアイテムボックスから自分のギターを取り出して演奏し始めた。すると回復魔法が発動して多少の傷は回復した。巨大すぎるドラゴンにどれだけの効果があったのかは正直分からなかった。
「人間のいる所には近づくなよ」
俺がドラゴンに声をかけると大空に飛び去って行った。
暫くしてジルに声をかけた。
「どうしてドラゴンに敵意を持つんだ」
ジルは何も言わなかった。
「ところで師匠、さっきのドラゴンてギルドの掲示版にあったエンシェントドラゴンじゃないっスか?」
「そうなのか」
「あのままドラゴンが死んでいたら大金持ちになって称号も手に入れられたのに…… 師匠、俺達ドラゴンスレイヤーになりそこねましたね」
「そうだな」
「バズ、旦那様は楽しく音楽の活動が出来れば、それで満足なんですよ」
「欲がないっスね」
「そうだな」
そんな事を言いながら、俺達は第二層のボス戦に向けて準備を進めた。




